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» 2018年08月17日 07時00分 公開

CSIRT小説「側線」 第6話:海にて(前編)CSIRT小説「側線」(3/5 ページ)

[笹木野ミドリ,ITmedia]
Photo 折衷案二:感情豊かで人を転がすことがうまい。しかし、にっこり握手しながらテーブルの下では相手を蹴り倒す技術を持っている。いろいろな部署に顔が広い。定年間近

 「じゃ、こっちも始めますか」

 折衷が提案する。テーブルに座ったのは、志路、見極、折衷、メイ、山賀の五人だ。

 大河内はここのオーナーと奥で話し込んでいる。

 ――おおかた、次のイベントの相談でもしているんだわ。まったくせっかちなんだから。

 山賀は思った。

 大山がビールを運んで来た。

 ビールの瓶にそのままライムを押し込み、乾杯する。

 「あれ? ところで、虎はどこへ行った?」志路が周りを見回して聞く。

 「さっき、潤のあとを追いかけてビーチに降りていったわよ」

 山賀が応える。

 男達4人はビール瓶をテーブルに置いて次々に言う。

 「分かってない」

 「分かってない」

 「分かってないわ」

 「そうだ、分かってない」

 宣託は、店の端にある見晴台から海を見ている。店が高台にあるため、ビーチや隣接している岩場がパノラマで見通せる。気持ちのいい場所だ。

 「ここ、降りていけるー?」

photo 宣託かおる:前任のCSIRT統括であるコマンダーやインシデントマネジャーとは戦友。メイに対しては将来性を感じ、厳しく支えている

 宣託が大河内に聞いた。

 「横に階段があるから降りられるよ。ただ、下の方は潮がかぶっているので、滑らないように注意して」

 大河内が遠くで声を掛ける。

 宣託は降りていった。

 男達4人は次々に言う。

 「滑るな」

 「ああ、滑る」

 「滑るわ」

 「滑る」

 メイが見晴台から下をのぞき込む。

 「あ、こけてる」

 男達は爆笑した。

 しばらくして、宣託がぬれた尻周りが気持ちわるいのか、サブリナパンツのポケットあたりを両手でつまんで現れた。

 男達は笑いをこらえて下を向いている。

 山賀が言う。

 「もう、かおりん、子どもみたいなんだからぁー」

 男達はこらえきれず、弾けた。


 日差しが強い。メイが折衷にたずねた。

 「折衷さん、こっちの席の方がパラソルの影になって涼しいわよ、交代します?」

 「ああ、助かる。この日差しは頭皮に優しくないからな」

 確かに、折衷の頭皮は多層防御で守られているとは言いがたい。

 席を交代してもらい、折衷はビールに口を付ける。

 志路が言う。

 「折衷さん、こういうのもたまには良いですね」

 折衷が答える。

 「ああ、良いものだ、俺も来年定年になるからな。皆とわいわいできるのも残り少ない。考えてみれば長く勤めてきたものだ」

 メイが聞く。

 「折衷さんは、CSIRTに来る前はどんなことをしてきたのですか?」

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