「じゃ、こっちも始めますか」
折衷が提案する。テーブルに座ったのは、志路、見極、折衷、メイ、山賀の五人だ。
大河内はここのオーナーと奥で話し込んでいる。
――おおかた、次のイベントの相談でもしているんだわ。まったくせっかちなんだから。
山賀は思った。
大山がビールを運んで来た。
ビールの瓶にそのままライムを押し込み、乾杯する。
「あれ? ところで、虎はどこへ行った?」志路が周りを見回して聞く。
「さっき、潤のあとを追いかけてビーチに降りていったわよ」
山賀が応える。
男達4人はビール瓶をテーブルに置いて次々に言う。
「分かってない」
「分かってない」
「分かってないわ」
「そうだ、分かってない」
宣託は、店の端にある見晴台から海を見ている。店が高台にあるため、ビーチや隣接している岩場がパノラマで見通せる。気持ちのいい場所だ。
「ここ、降りていけるー?」
宣託が大河内に聞いた。
「横に階段があるから降りられるよ。ただ、下の方は潮がかぶっているので、滑らないように注意して」
大河内が遠くで声を掛ける。
宣託は降りていった。
男達4人は次々に言う。
「滑るな」
「ああ、滑る」
「滑るわ」
「滑る」
メイが見晴台から下をのぞき込む。
「あ、こけてる」
男達は爆笑した。
しばらくして、宣託がぬれた尻周りが気持ちわるいのか、サブリナパンツのポケットあたりを両手でつまんで現れた。
男達は笑いをこらえて下を向いている。
山賀が言う。
「もう、かおりん、子どもみたいなんだからぁー」
男達はこらえきれず、弾けた。
日差しが強い。メイが折衷にたずねた。
「折衷さん、こっちの席の方がパラソルの影になって涼しいわよ、交代します?」
「ああ、助かる。この日差しは頭皮に優しくないからな」
確かに、折衷の頭皮は多層防御で守られているとは言いがたい。
席を交代してもらい、折衷はビールに口を付ける。
志路が言う。
「折衷さん、こういうのもたまには良いですね」
折衷が答える。
「ああ、良いものだ、俺も来年定年になるからな。皆とわいわいできるのも残り少ない。考えてみれば長く勤めてきたものだ」
メイが聞く。
「折衷さんは、CSIRTに来る前はどんなことをしてきたのですか?」
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