良いものをそろえれば、結果は後からついてくる ――成城石井 執行役員 早藤正史氏長谷川秀樹のIT酒場放浪記(2/3 ページ)

» 2018年09月21日 13時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

店の評価軸は「売上」ではない

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長谷川: お店の評価というのは、どのようにされているんですか?

早藤: 「あいさつ、クリンリネス、欠品の防止、鮮度管理」という、4つの基本の徹底、これが評価の上で一番重要視されています。売上の前年比とかは店舗のKPI(重要業績評価指標)には入っていないんですよ。

長谷川: そうなんですか!? 店舗の評価軸に売上前年比がない!? そんな小売業が世の中にある? 売上はどうでもいいんですか?

早藤: 売上を追って売れている商品を広げると、他と同質化しますよね。そして値段競争になります。それで勝てる企業は、一番大きな企業だけだと思うんですね。

長谷川: 結局規模の大きいところが、バイイングパワーで勝つに決まってると。

早藤: そうです。なおかつ、せっかくお店で人手をかけていろいろなことをやろうとしているのに、一番売れる商品というと接客がいらない商品が多いじゃないですか。

長谷川: なるほど。

早藤: 品ぞろえとして置くことはあるんですよ。でも、ほとんど定価ですね。いくつかの広い店舗では花王の「アタック」を置いているんですけど、それも定価で売っているので、花王の人が感動していたと聞きました(笑)

長谷川: 「希望小売価格で売ってくれとる!」「俺らの希望が通っとる!」と(笑)

早藤: 他と比べたら高いですけど、それでも必要なら買ってください、という位置付けなので。

 価格競争をすると、どうしても人の削減みたいなことになって、それをやり過ぎると店の良さはなくなります。小売業が魅力的になろうとしたら、給料が上がらないとダメですよね。人ががんばって、ファンが増えて、最終的に売上が伸びればいいな、という考え方です。

長谷川: 売上よりも4つの基本を徹底しているというのは、やっぱりすごいですね。

早藤: 徹底するのに一番重要なのは、それが評価につながるかどうかということです。

 最初に覆面モニターによるチェックを始めたときは、店長がいつ誰が来るのかを調べて、そのときだけちゃんとやろう、というようなこともあったんですよ。でも何年かやるうちに、チェックの結果を見て自分たちの悪いところを直そう、という文化に変わりました。

 その点数は社長も確認して会議をするんですけど、点数が悪いところは人間関係が悪かったりして、2〜3カ月低評価が続くと、問題が出てくるものなんです。ほとんどが人間関係か、もしくは人がいなくてギリギリのところでまわしているとかが原因で。だからSOSじゃないですけど、問題の芽を見つけるということになりますね。

長谷川: なるほど。人間関係が良くてみんな元気にやっていれば、それがお客さんに伝わっていくと。店長というのは、店のみんなが仲良く明るくできるようにするのが一番の仕事だということですよね。

早藤: そうです。

長谷川: これは世の中にもっと広めたい話ですね。リテール業界の人も知らんのちゃうかなぁ? まあ、知ったところでまねできないですけどね。

成城石井が独自である理由

長谷川: 成城石井さんはカテゴリーでいうとスーパーマーケットじゃないですか。でも、他のスーパーマーケットや量販店とは品ぞろえとかブランド認知が違う。なんでこうなったんですかね?

早藤: 一番大きいのは、最初の店舗である成城のお店のお客さまの存在ですね。昔から文化人とか学者さんとか、海外に行かれる方も多くて、食にこだわりを持つ人が多くいらっしゃったんです。「海外で見つけたこれを入れてくれ」とか「これがおいしいから置いてくれ」とか、そういうお客さまの要望に答えようとしてやってきたら、他と違う一面ができたんじゃないかと。

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長谷川: 他のスーパーとは違う、と業界で認識され始めたのはいつ頃からなんですかね?

早藤: '97年にJR恵比寿駅のアトレに駅ナカ店の第1号を出したんですね。聞くところによると、成城石井が入って他のテナントさんの売上が上がったらしいんですよ。日常のものを買っていただくのと一緒に、ファッションだとか他のものも売れたということみたいなんです。

 それ以来、JRさんからも、それ以外の会社さんからも、駅での出店の依頼をたくさんいただくようになりました。「駅ナカ店=成城石井」というイメージがついたのが大きな転機じゃないかと思います。Wikipediaで「駅ナカ」を検索すると成城石井が出てくるんですよ。2代目社長の石井良明氏が「駅ナカ」という言葉を使ったのが最初だという説があるらしくて。

長谷川: へぇ、そうなんですか!

早藤: 一般的なスーパーって標準フォーマットがあるんですよ。究極に効率化を図るので、450坪から600坪と決まっている。今は違ってきていますけど、昔なら必ず入ってすぐに青果があって、お肉があって、奥に乳製品があって、と決められたレイアウトがあるんです。

 でも、成城石井はそれがなくて、お惣菜から始まったり青果から始まったり、店によってバラバラ。駅ナカの店って450坪もないじゃないですか。標準化で効率化するのではなく、「お客さんに合わせて売り場を作る」というのを最初にやったのが、成城石井なんじゃないかなと。

長谷川: ほうほう。

早藤: スーパーマーケットって、もともとは専門店と違って、野菜もお肉もお魚も……と全部そろうのが特徴なんですね。

 そういう意味では、スーパーさんには「成城石井はスーパーじゃない」って言われるんですが、お肉をやっていない店、魚をやっていない店というふうに、そろわないカテゴリーがけっこうあるんですよ。さっき各部門のチーフがいるといいましたが、状況に合わせてカテゴリーを選んで出店できるので、それは1つの強みになっていると思います。

長谷川: 一時期スーパーマーケットがGMS(General Merchandise Store)の方に流れていく時代があったじゃないですか。成城石井はそういう話はなかったんですか? 服飾も置いたらいいんじゃないかとか、お客さんも求めてるんじゃないかとか。

早藤: 成城を始め、感度の高いお客さまが住まれている土地とか、駅ナカとかは、やっぱり地価が高いじゃないですか。だから大きな店を作ると商売にならないんですよね。高い家賃に耐えられるスーパーマーケットであるというのは、1つの特徴だと思います。

長谷川: なるほど。

早藤: スーパーの中でお惣菜を作ると、厨房が必要ですよね。そうすると、設備も高いし、売場の面積も減ってしまうということで、僕らの場合は惣菜の製造工場のセントラルキッチンがあることが役に立っているんです。発注すると1個から来るんですよ。

 他のスーパーさんですとケース単位の発注が一般的ですけど、狭い面積の中で商品数を増やすには、在庫を極力少なくしないといけないですから。物流倉庫で分けて、1商品1個から取れるようにすることで、店のバックヤードをできるだけ小さくして。

長谷川: 1個からでも発注できるというのはすごいですね。

早藤: ハンズさんも、「ハンズ ビー」とかはけっこう小ロットでやってるんじゃないですか?

長谷川: やってますね。僕らが扱う雑貨は、食品スーパーさんに比べてより小さい“パパママストア”的な取引先さんも多くて、ボリュームが出ないんですね。そういうところは、「月曜に注文したら水曜日に届けてね」というような発注サイクルもないんです。そう決めても、向こうも「約束できません」というところがあるので。逆に「何ロットから」という約束もない。

 だから僕らも、商品マスタ上の最低発注数はほとんど1ですね。あとは明文化されていない心の中のボリュームというのがあって、2万円分くらいの注文がたままったら送られてくる、という感じで、それまでは向こうで止めてるんです。届かないから電話したら、「着払いだったら送れますけど」と言われたりして。だから僕らの発注端末には、他にはない機能が付いてるんですよ。発注すると、この発注先にいくら発注残があるかが出るんです。それが2万円とか3万円とかにならないと、あちらは送ってくれないので。

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早藤: それはすごいですね。

 僕らも東急ハンズさんと近いです。物流センターを作ったのは、こだわった生産者さんはたいてい個人でやっているので、年間で作れる量なんて限られるんですね。店がそれぞれに発注すると対応できないので、作ったものを全部物流センターに入れてもらってるんですよ。その上で、各店舗から物流センターに発注してるんです。採れただけ、とかになるので、全店に置けるとは限らないんですよね。「365日安定的に欠品なしでやる」という考え方ではないから、こだわった商品が置けるんです。

長谷川: 東急ハンズで店ごとの仕入れから本部バイヤー制に変わったとき、みんなそれと同じことを言っていましたね。本部で一括してやるようになると、全店に行き渡る供給量があるものを仕入れるようになるんですけど、そうすると「ちょっと変わった面白い商品」みたいなのがなくなっちゃうと。

 1店舗で仕入れている時代って、バイイングパワーはないんだけど、仕入先さんが店舗の近所で商売やっているから、「ごめん、あれ持ってきてくれる?」と言えば「分かりましたー」と持ってきてくれるような感じでね。外部倉庫がまわりにあるような良さはありましたよね。

早藤: いいですねぇ。僕たちの場合、こだわった生産者さんに他の生産者さんを紹介していただけることが多いです。「あそこもええもん作ってるから、紹介するわ」みたいな感じでね。そんなご縁で扱わせていただいている商品て、いいんですよね。おいしいですし。

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