特に図3の右側の絵に注目していただきたい。ポイントを説明すると、上部の「インテリジェントスイート(Intellligent Suite)」から上に5つの業務分野へと広がっているのが、クラウドアプリケーション領域である。S/4HANAはこの中で「デジタルコア」に位置付けられている。
一方、下部にある「デジタルプラットフォーム(Digital Platform)」には、社内外のあらゆるデータを統合管理する「データマネジメント(Data Manegement)」や、さまざまなデバイスとの接点にもなる「クラウドプラットフォーム(Cloud Platform)」が装備されている。
そして、その間にあるのが、上部の業務取引と下部のビッグデータからインテリジェントを生み出す「インテリジェントテクノロジー(Intelligent Technologies)」だ。その中核となるのが「SAP Leonardo」である。絵がメビウスの帯のように描かれているのは、宮田氏の冒頭の発言にあるように「自ら学習して進化し続ける」との意図を込めているのだろう。この図3の右側の絵を見ながら、宮田氏は次のように語った。
「これまで企業向けITをソフトウェアの3層構造で表現する際は、一番下にデータベース、その上にアプリケーション、そして最上部にビジネスインテリジェンス(BI)に代表される分析ツールが位置付けられていた。しかし、SAPでは、分析ツールはアプリケーションの上に乗せるものではなく、組み込んでいくものだと考えている。これがインテジェントエンタープライズの最も重要なポイントだ」
要は、インテリジェンスを別立てにするのではなく、アプリケーションに組み込むことによって、ユーザーの利便性やサポートレベルを一層高めていこうという考え方だ。これはエンタープライズアプリケーションベンダーならではの発想である。
加えて、S/4HANAについて2枚の図による分かりやすい説明があったので紹介しておこう。図4は、企業向けITにおける従来のシステム(左側)とS/4HANA(右側)の仕組みを表している。この仕組みで、従来のERPとS/4HANAの適用範囲の違いを示したのが図5である。ここでポイントとなるのは、ユーザーが取り組むPDCAサイクルにおいて、従来のERPでは「Do」しかカバーできなかったのが、S/4HANAではサイクルの大半をカバーできるようになる点だ。S/4HANAのユーザーメリットがひと目で分かる説明である。
これまで見てきたように、SAPにとってはS/4HANAを普及させることによって、インテリジェントエンタープライズの世界を広げていきたい考えだ。ただ、S/4HANAの普及について、SAPは発表資料にあるように、着実に進んでいるとしているが、従来のSAPのERPユーザーにおける移行は、様子見をしている企業が少なくないようだ。
そこで、会見の質疑応答で、既存ユーザーの移行をさらに促すポイントは何かと聞いたところ、宮田氏は次のように答えた。
「インテリジェントエンタープライズの実現は、ITではなく、まさしく経営の話だ。すでに移行に取り組んでいる企業は、経営層がリーダーシップを発揮しているケースが多い。従って、今後も一層、経営層に理解していただけるように努めたい」
一方、ユーザーにとっては大きな投資が必要なうえ、SAPによるベンダーロックインになり得ることを懸念する声も聞こえてくる。
とはいえ、インテリジェントエンタープライズにせよ、S/4HANAにせよ、SAPがユーザーに対して企業向けITの今後の姿を明確に示したことについては評価したい。SAPの既存ERPには2025年で保守サポートが終了する「2025年問題」もある。もちろん、ユーザーとしてはS/4HANAに移行しないで、この機に別のERPを採用する手もある。いずれにしても、こうした転機だからこそ、ユーザーは将来に向けたIT活用のシナリオを自らの考えでしっかりと描いていただきたい。
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