ブロックチェーンは決して“万能”ではない──ビジネス活用に必要な理解とその本質「可能性」から「弱点」までを徹底解説(3/4 ページ)

» 2018年11月28日 08時00分 公開
[大内孝子ITmedia]

ブロックチェーンは「銀の弾丸」ではない

 実際に、海外ではブロックチェーン活用で成功している企業も少なくない。

 例えば、世界最大手の海運会社「A.P.Moller-Maersk(モラー・マースク)」をはじめとする数社により、実際にブロックチェーンを運用している事例がある。保険の契約情報をブロックチェーン上に乗せ、海運事業における主要なプレイヤーに保険業者を加えて、業務を効率化しようという試みだ。

photo 海運の保険にブロックチェーンを活用し、成功した事例がある(写真はイメージです)

 コンテナ船やタンカーといった海運の航路では、危険な海域(海賊が出没しやすいマラッカ海峡など)を通る際は保険料が高くなる。ブロックチェーンを使えば、危険海域に入った瞬間に保険業者の入札を自動で行うことも可能だ。

 通常、何社もの間でデータをやりとりするのは時間がかかるものだが、海運会社、港、保険会社などがブロックチェーン上でデータを共有すれば、契約の決定や保険の支払い手続きといったプロセスを迅速に行えるようになる。2018年1月に発表されたこのプロジェクトは、既に実運用が始まっており、さまざまな保険会社が参加する一大コンソーシアムになっているという。

 日本でも、東京海上日動が同様の分野で実証実験を進めているものの、実導入にはまだ至っていない。海外ではスケールの大きな案件が動いているのに対し、国内では、実証実験レベルのプロジェクトがほとんどという状況だ。その理由を榎本さんはこう分析する。

 「根本的に、多くの日本企業はブロックチェーンに対して、まだ“手探り”の状況なのだと感じますね。特に大企業では、システム構築へのROIを意識せざるを得ないこともあり、“システムを普通にリプレースするよりも楽で安いのか”という視点でブロックチェーンを見ることになります。

 多くの企業システムは、ブロックチェーンを使わなくても構築できます。ブロックチェーンには改ざん耐性や自動執行といったメリットはあるのですが、コストパフォーマンスという面では、ブロックチェーンを使わずにリプレースした最新システムに劣ることも少なくありません。この点を比較した結果、導入を見送るケースは多い。特にブロックチェーンありきで進めてしまったプロジェクトには、よくある話だと思います。ブロックチェーンで下がるコストはシステム費ではなく、データ共有や信頼形成による、総合的なオペレーションコストの削減なのです」(榎本さん)

 AIやIoTなどでもよくある話だが、業務課題や明確な目的なしに導入プロジェクトを進めると、大抵つまずいてしまう。これを回避するには、ブロックチェーンの可能性と弱点を正しく理解するほかない。「期待は大きいとは思いますが、ブロックチェーンは“銀の弾丸”ではなく、あくまで手段です。自社のビジネスに活用できるかを精査しないことには、プロジェクトはうまく進まないでしょう」と榎本さんは言う。

ブロックチェーンの“弱点”はどこにある?

 では、ブロックチェーンの弱点はどこにあるのだろうか。代表的なものとして、榎本さんが挙げたのは「スケーラビリティの問題」だ。

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