発注書のない曖昧な発注や、一方的な下請代金の減額など、取引上の悩みを抱える中小企業の相談に無料で対応しくれる「下請かけこみ寺」をご存じだろうか。下請け取引の適正化を目的に、下請代金支払遅延等防止法(下請法)の専門知識を持つ相談員弁護士が具体的な解決法をアドバイスしてくれる。
企業からの発注が売上の大半を占める中小企業では、発注元との関係が会社存続の重要なポイントになる。無理を言われてもむげに断れないことから、つい、キツイ条件を飲んでしまったりしていないだろうか。「ああ、これじゃ今期は赤字かも……」――そんな悩みをお持ちなら、新たな関係構築を目指して、全国中小企業振興機関協会の「下請かけこみ寺」に相談してみてはどうだろう。受注する側、発注する側ともに納得できる解決策を見いだせるはずだ。
「発注元が無理を言ってきて……」――。こうした悩みは、ICT業界でも例外ではない。「仕様が増えたのに金額は変わらず」「納品はプログラムだけなのに、ソースコードまで要求された」といった嘆きの声や、苦労の末に納品しても「180日の手形での支払い」などで資金繰りに大打撃を受けたという話も聞く。
そんな無体な要望に困っているなら、中小企業の味方、「下請かけこみ寺」に相談してみよう。「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」に基づき、悩み相談から調停までに応じてくれる他、価格交渉のコツが分かるセミナーなども開催している無料の相談所だ。
下請かけこみ寺は、法務大臣から認証を受けた紛争解決機関なので、必要があれば「裁判外紛争解決手続(ADR)」で当事者間の紛争を解決することもできる。ADRとは、紛争当事者間が調停によって和解すること。裁判と異なり非公開のため、秘密は守られる上、裁判より軽い負荷で和解が得られる可能性が高い手法だ。
下請かけこみ寺の2017年度の実績は、ADRも含めて全国で6838件の相談があり、そのうち情報通信業の相談は540件だったとのこと。相談件数は年々増加しているという。
下請法は昭和31年に制定され、これまでに10回の改正を受けて今に至る法律。主に公正取引委員会や中小企業庁がその順守に力を入れている。あらためてここに第一条全文を記載しておこう。
第1条
この法律は、下請代金の支払遅延等を防止することによって、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もって国民経済の健全な発達に寄与することを目的とする。
(出典:「公正取引委員会」Webサイト内「下請代金支払遅延等防止法(平成17年7月改正版)」)
この下請法を受け、中小企業の利益を守ってくれるのが下請かけこみ寺だ。各都道府県に対応窓口があり、全国統一のフリーダイヤル「0120-418-618」で、最寄りの下請かけこみ寺につないでもらえる。
なお、東京都だけは、東京都中小企業振興公社が「下請センター東京」の名称で、下請かけこみ寺と同等の業務を行っている。名称は異なるが、対応する内容は同じだ。東京都内から「0120-418-618」に電話すると、下請センター東京につながる。
ちなみに上記の条文では、「利益を保護」という堅い表現が使われているだが、簡単にいうと、「下請かけこみ寺」のチラシに書かれている通りだ。
下請法の法律全文は、先に紹介した公正取引委員会のWebサイト内で確認いただくとして、下請法について中小企業の方々に覚えておいてもらいたいことは、実は発注側には、以下のような「4つの義務」と「発注後の11の禁止事項」があるということだ。
●発注側には4つの義務がある
●正しく発注がなされた後の、発注側の11の禁止事項
禁止事項の7、8、10は、簡単な例で言い換えると、以下の通りだ。
7. 仕事を回したんだから、今度のうちの棚卸しを手伝え
8. この材料を使って作れ、材料の代金は今すぐ払え
10. 方針が変わった、ここのプログラム・デザインは作り直せ。費用は前のままだ
なお、下請法の詳細は、公正取引委員会発行の下請代金支払遅延等防止法に関するガイドブックが分かりやすいので、参照していただきたい。
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