もう、むちゃな発注で泣き寝入りしない 中小企業の下請問題を解決する「下請かけこみ寺」の使い方目からうろこの行政サポート活用術(3/3 ページ)

» 2018年12月21日 07時00分 公開
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経済産業省の下請取引適正化に向けたガイドラインも参考に

 中小企業庁Webサイトの「下請適正取引等推進のためのガイドライン」ページでは、経済産業省発行の18業種における下請適正取引等推進のためのガイドラインを公開している。

 その中の1つである『情報サービス・ソフトウェア産業における下請適正取引等の推進のためのガイドライン(2017年3月改定版)』は、情報サービス・ソフトウェア業界における下請法の解釈のよい参考になる。

 同ガイドラインの「2.2.3.9. 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止について」を基にした解釈の一例を紹介する。

1. 発注元の都合で仕様変更が必要になった場合

 当初の仕様にはない追加作業が必要になった場合、発注元がその費用を全額負担しなければ、不当とされる場合がある。仕様変更が生じた場合は、下請側は、すぐにそれによる影響を加味し、発注元と相談する必要がある。仕様変更で納期が延びても、当初の納期が間に合わないことを理由に、発注元は受領拒否や下請代金の減額は行えない。

 これらを両者が納得の上で相談するためにも、作業開始前に(アジャイル開発だとしても)、どのような仕様でどのような作業が予定されるかを(分かる範囲であっても)明確に記載しておく必要がある。

同ガイドライン「2.2.3.9. 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止について」の「ユーザーの都合で仕様変更が生じたことにより下請事業者に仕様変更を求める場合の注意点」を参照。


2. 依頼しても発注元が仕様を明確にしないまま、やり直しを求められた場合

 下請側が仕様の明確化を依頼しても、発注元が仕様を明確にしなかったにもかかわらず、後でやり直しを求められたといった場合は、不当なやり直しに相当する。この場合、発注元は、下請側の業務や納品物が注文と異なることを理由に、やり直しなどを求めることは認められない。仕様変更による追加作業については、発注元が費用の全額を負担する必要がある。

同ガイドライン「2.2.3.9. 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止について」の「仕様内容を明確化するよう下請事業者から依頼があったにもかかわらず親事業者が仕様を明確にしなかった際にやり直しを求める場合」を参照。


3. アジャイル開発のため、作業開始時に詳細が決定できない場合

 仕様に未定部分があっても、発注は可能。未定だからといって法に触れるわけではない。ただし、発注時に仕様を詳細に記載できない場合、業務内容を下請事業者が理解できるように、可能な限り明確に記載する必要がある。また、仕様の詳細内容が確定したら、直ちに補充書面を交付する必要がある。

 下請側もこれらの内容をきちんと確認し、不明点があれば、業務開始前に明確にしておくべき。

同ガイドライン「2.2.3.9. 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止について」の「アジャイル開発に当たっての留意点」を参照。


下請センター東京の担当者に聞く、下請かけこみ寺の支援の実際

 下請かけこみ寺の支援の実態を探ろうと、今回、東京都の施設である下請センター東京を担当する東京都中小企業振興公社 総合支援部 取引振興課 経営支援係長 渡辺正一氏に取材を行い、センターに来る多数の相談案件の動向とその対処、貴重な助言などを聞いた。

Photo 東京都中小企業振興公社 総合支援部 取引振興課 経営支援係長 渡辺正一氏

 下請センター東京は東京都の機関なので、発注側か下請側が都内にあることが必須となる。もし他県の対応となる場合は、担当する道府県の窓口があるので、そこを紹介してくれる。

 「私たち東京都中小企業振興公社は、中小企業のいろいろな相談ごとに対する公的な総合相談窓口として活動しています。その範囲は、創業、経営全般、税務、労務など幅広く、最近ではIT化の支援などもあります。取引上のトラブルに対しては、下請センター東京にいる下請法に詳しい専門相談員や弁護士から具体的な解決法を助言させていただきます」と、明快な説明をいただいた。

Photo 振興公社にて。実際に相談に乗ってくれる相談員の方々。月曜から金曜日(土日、祝日、年末年始を除く)の9:00〜12:00、13:00〜17:00に、専門家と弁護士(午後)が在中しているとのこと。相談は予約が必要なので、まずは電話を。東京都中小企業振興公社(東京 秋葉原):03-3251-9390 / 多摩支社:042-500-3909 / 全国共通:0120-418-618

 相談できる場所は、弁護士事務所など他にもいろいろあるかもれないが、「公的」である点は重要だ。トラブルの法的根拠について「うちの弁護士が、こう言った」と言っても、「いや、うちの弁護士によれば……」と返されてしまうかもしれない。だが、「公的機関の振興公社の助言では……」ならば、否定的な態度は取りにくいはずだ。

 相談案件への対応については、「われわれの助言を基に、ご自身が率先してトラブル解決を図るケースが半分以上」だという。

 「2017年度は、センターでは約300件近くの相談を受けました。ソフトウェア開発系では、『最初は成果物の作成と言われたのに何度も客先に呼ばれ、現場で作業指示を受けた。ほとんど出向扱い』といった業務内容のすり替えまがいのものや、『現場担当との口約束で作業したら、正式認可が下りず、支払ってもらえない』といったケースがありました。どちらも契約書の取り交わしがなされてないようで、いわゆる“なあなあな”雰囲気が感じられました」と渡辺氏は振り返る。

 「2016年度に受けた相談のフォローアップ調査では、似たようなケースも含め、センターの助言に基づいて解決に至った割合は「約70%弱に登ります」とのこと。100%は難しいまでも、70%はそれなりの成果と思われる。

 また、解決例に関して、注目したい調査結果がある。

 実は、70%のうちの55%が「自身で交渉して」解決に至っているのだ。これは、助言をもらって、それを参考に相談者自らがクライアントと交渉して解決したということ。つまり的確な助言さえあれば、自分自身で解決できるトラブルも多いということだ。この55%が示す中小企業経営者の交渉スキルは、助言によって大幅にアップしたのは想像に難くない。下請かけこみ寺の存在は、このスキルを得るための手助けにもなるわけだ。

“泣き寝入り”は禁物。まずは契約書を結ぶことが大事

 渡辺氏は、「受発注の付き合いが長いと、契約関係がなあなあになるケースが想像されます。しかし、トラブルのほとんどで契約書が結ばれていないという事実からも、やはり長く良い付き合いをするには、契約書を結ぶことが重要です。書面の存在は、お互いの意識を明確にしますし、トラブルが発生してもきちんとした事実の上で話し合えます」と説明。加えて「“泣き寝入り”しないこと」も強調した。

 「契約書なんて書いたことがない」という方は、先に紹介した公正取引委員会発行の『知るほどなるほど下請法(2018年4月版)』『コンテンツ取引と下請法(2010年1月版)』に掲載されている発注書面のサンプルを参考にしてほしい。

Photo 発注書面のサンプル(出典:『知るほどなるほど下請法(2018年4月版)』

 契約書が「ない」状態で、相手と交渉するのは難しいし、その後の関係もうまくいかないケースがある。実際、先の調査では、交渉後も引き続き取引が「継続している」という回答は、約30%弱だったという。

 取引がうまくいっていれば何の問題もないが、想定されるトラブルを予見し、防止策があれば検討するという備えも重要だ。その意味でも、下請かけこみ寺などの助言を参考に、両者が納得できる契約書の作成を検討してみてはいかがだろうか。

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