一方、日本では市場の機会を図りながら、まずはHCMを前面に押し出して事業を展開してきた。この点について、鍛治屋氏がアイ・ティ・アール(ITR)の調査結果によるHCM市場の推移を描いた図2を示しながら語ったのが、冒頭の発言である。この図によると、例えば2021年度の予測でもHCM市場全体の規模は100億円程度。そのうち、パッケージが7割、SaaSが3割といった具合だ。同氏が「驚くほど小さい」と指摘したのは、この規模のことである。
冒頭の発言に加えて、同氏は「ベンチマークの1つとして、日本で20年近く前からクラウドCRM(顧客情報管理)を展開しているセールスフォース・ドットコムの変遷を見ると、時を重ねるごとに顧客が勢いをつけて増えていき、今では市場規模の大きさとともに、“CRMといえばクラウド”との認識がすっかり定着した。私たちはHCMで同じことを実現したい」とも語った。
では、ワークデイは日本市場での成長戦略をどのように描いているのか。鍛治屋氏が、今後3カ年の計画の内容として示したのが、図3である。同社にとってこの2月から始まった2020年度は「日本の市場に合ったオペレーション体制の確立」、2021年度は「市場とシェアの拡大」、2022年度は「プラットフォームプレイヤーとして確固たる地位の確立」をテーマに、「国内大企業とグローバル企業」をメインターゲットとして、「3年間で国内クラウドHCMの分野のマーケットリーダーを目指す」ことを掲げたものである。
また、年度ごとの具体的なアクションとしては、2020年度は「パートナーエコシステムの拡大」や「買収したAdoptive Insightsとのビジネス連携開始」、2021年度は「ユーザーコミュニティーの活性化」や「財務管理サービスの開始」、2022年度は「プラットフォームビジネスとしてのクラウドHCMと財務管理の加速化」といった点が注目される。
とりわけ、早ければ2020年2月から財務管理サービスがスタートすれば、日本でも同社のサービスの“両輪”が利用できるようになる。
鍛治屋氏はさらに顧客数として、日本発のグローバル企業でのサービス採用を、「現在の30社から3年後には100社に拡大したい」との目標を掲げた。日本での顧客数は現在500社と前述したが、実はこれまでグローバル企業でもいわゆる「インバウンド」が大半だった。これに対し、今後は日本発、すなわち「アウトバウンド」に同社のサービスを広げていきたい、との意図がこの目標には込められている。
なお、会見には国内パートナー5社のうち、アクセンチュア、デロイトトーマツコンサルティング、日本IBM、PwCコンサルティングの担当責任者も登壇し、それぞれにワークデイのサービス展開への意気込みを語った。
最後に、ワークデイの今後の成長戦略に向けて最大の強化策といえるのは、鍛治屋氏の社長就任だ。2018年10月に日本法人設立以来初めて日本人社長として就任した同氏は、これまでダッソー・システムズなどソフトウェアベンダーの経営トップを歴任するなど、IT業界で30年以上のビジネスとマネジメントの経験を持つ。筆者は同氏がダッソー・システムズ社長のときに取材したことがあるが、心機一転、今回の会見では意欲満々な様子がうかがえた。
同氏が冒頭で述べたように、日本のクラウドHCM市場は今はまだ小さいが、今後の成長分野としてSAPやOracleといった巨大ソフトベンダーも注力している。そうした中で、強力なパートナーとともにワークデイが勢力を伸ばしていけるか。
鍛治屋氏の経営手腕に注目しておきたい。
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