ユーザーの心に響くパートナー施策とは――日本マイクロソフトの新たな取り組みは奏功するかWeekly Memo

日本マイクロソフトがクラウド分野で新たなパートナー施策を打ち出した。果たして、ユーザーの心に響く内容になっているか。この話の伏線も含めて紹介し、考察したい。

» 2019年07月01日 11時00分 公開
[松岡功ITmedia]

各業種に最適化されたクラウドソリューションを提供

 日本マイクロソフトは先頃、クラウド分野でパートナー企業と連携した新しい施策として「MPN(Microsoft Partner Network) for Industry パートナープログラム」を発表した。参加パートナー企業各社と連携し、各業種における最適な方法で、ユーザー企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を支援することを目的とした日本独自の施策である。

 対象となるパートナーは、Microsoftのクラウド上で提供される各業種に最適化されたソリューションを提供する企業。現在、92社が新施策への参加を表明しており、まずは金融、流通、製造、ヘルスケアの4業種でプログラムを開始。今後、政府・自治体、教育機関、交通・サービス、エンターテインメント・メディアなど、他業種へ拡大していく予定だ。(図1)

Photo 図1 MPN for Industryパートナープログラムへの参加表明企業(出典:日本マイクロソフトの資料)

 このプログラムでは、参加パートナー企業各社に対して、「Microsoft AzureベースのAIやIoTなどを活用した、業種ごとに最適化したソリューションをリファレンスアーキテクチャとして提供」「リファレンスアーキテクチャをベースとしたパートナー企業におけるサービス開発と技術者の育成」「販売施策やマーケティング活動の共同展開」「差別化した新規ビジネス開発などDX実現に向けたユーザー支援」―― などの施策を展開する。(図2)

Photo 図2 MPN for Industryパートナープログラムの概要(出典:日本マイクロソフトの資料)

 各パートナー企業は、このプログラムで提供される各業種に最適化したリファレンスアーキテクチャを活用することで、サービス開発期間を短縮し、開発、運用、保守コストを削減できるため、より迅速なビジネス展開が可能になる。また、日本マイクロソフトと共同での販売施策やマーケティング活動の展開、グローバルでのパートナーエコシステム構築が容易になるなど、各業種に効果的な事業展開が可能になるとしている。(図3、図4)

Photo 図3 リファレンスアーキテクチャによるメリット(出典:日本マイクロソフトの資料)
Photo 図4 業種別リファレンスアーキテクチャの概要(出典:日本マイクロソフトの資料)

 なお、日本マイクロソフトは、同プログラムの開始に伴い、これまで同社と協業を進めてきたパートナー企業とは、あらためてリファレンスアーキテクチャを活用したクラウドベースの業種特化型ソリューションを構築し、販売していく。同プログラムには、同社の技術を活用し、自社のDXを推進するユーザー企業のうち、新たなビジネスとして業種向けソリューションを開発し、外部へ提供し始めたような企業も参加する形となっている。

 さらに、同プログラムではパートナー企業を技術力や実績などに応じて「コミュニティ」「プラチナ」「ダイヤモンド」の3つにランク分けし、ランクが上がるにつれて日本マイクロソフトの支援も手厚くなる内容となっている。(図5)

Photo 図5 MPN for Industryパートナープログラムにおけるパートナー企業のランク分け(出典:日本マイクロソフトの資料)

「ユーザーから見てどうか」が重要なパートナー施策

 以上が、日本マイクロソフトの新たなパートナー施策の発表内容だが、実はこの発表には伏線がある。

 筆者はこの発表会見の質疑応答で、「これで競合他社のパートナー施策より充実しているとお考えか」と聞いた。すると、日本マイクロソフトの高橋美波 執行役常務パートナー事業本部長は次のように答えた。

Photo 会見に臨む日本マイクロソフトの高橋美波 執行役常務パートナー事業本部長

 「1年前には、当社のパートナー施策よりも競合他社の方がうまくやっているのではないか、との見方もあった。今回発表した取り組みは、そんな見方を払拭(ふっしょく)するとともに、パートナー施策を新しい次元へと押し上げていくものだ」

 高橋氏が言う「1年前の見方」とは、2018年7月9日掲載の本Weekly Memo連載記事「クラウド時代に“ユーザー企業に選ばれるパートナー”になる方法」に書いた内容を指す。タイトルは穏やかだが、ユーザー視点で見れば、Amazon Web Services(AWS)のパートナー施策の方が分かりやすいのではないか、と書いた。

 さて、1年を経て、状況はどう変わったのか。

 AWSの日本法人であるアマゾンウェブサービスジャパン(AWSジャパン)は、2019年3月に都内で開催したパートナー企業向けの年次イベントで、同社が推進する2つの技術認定プログラムを説明し、認定取得を呼びかけた。

 2つの技術認定プログラムとは、「AWSコンピテンシープログラム」と「AWSサービスデリバリープログラム」。コンピテンシープログラムはソリューション分野別のパートナー企業の認定、サービスデリバリープログラムはAWSの各種サービスの導入実績を持つパートナー企業の認定で、いずれも「ユーザー企業から見て選択しやすい」ように見せているのがポイントである。

 このうち、業種別展開を含めたコンピテンシープログラムについては3月時点の状況で、図6のように23のソリューションで認定を設けており、日本では21社のパートナーが合計30ソリューションの認定を取得しているとの説明があった。

Photo 図6 AWSコンピテンシープログラムの概要(出典:AWSジャパンの年次イベントで筆者撮影)

 こうしたAWSジャパンの動きに対し、日本マイクロソフトの今回の発表内容はどうか。レファレンスアーキテクチャを基にユーザー企業もエコシステムに巻き込もうという画期的な取り組みだが、「ユーザー企業から見て選択しやすいか」については、また異なる仕掛けが必要なのではないかと感じた。

 とかくパートナープログラムやパートナーエコシステムというと、中核のベンダーとパートナーとの間のやりとりばかりに目を奪われがちだが、全てにおいて「ユーザーから見てどうか」という視点が一番大事なはずだ。

 その意味で、日本マイクロソフトには今回の新施策を基に、ユーザー自身がクラウド活用に向けて一歩踏み出せるように「ユーザーの心に響く」仕掛け作りを期待している。同じく他のクラウドサービスプロバイダーにもぜひ、こうしたユーザー視点の取り組みを望みたい。

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