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» 2020年03月12日 08時00分 公開

IT革命 2.0〜DX動向調査からインサイトを探る:あの時どうすればよかったのか? 今こそ振り返る20年前の「IT革命」

「IT革命」というコトバを同時代として知っている方は、ほろ苦い記憶があるではないでしょうか? しかし、もう一度振り返ることで、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みに変化が出るかもしれません。連載名「IT革命2.0」のタイトルに込めた思いをお伝えします。

[清水 博,デル株式会社]

 本連載では日本企業(特に従業員数1000人以上の企業)におけるDXの動向調査の結果から得られたインサイトを読者の皆さんに紹介しています。

 第1回は調査資料から日本企業のDX推進状況を客観的に評価し、第2回でさらに踏み込んで組織の中でDXを誰が推進しているのかを深堀りして考察しました。その結果、IT部門だけではなく幅広い部門がDXの推進に関心を持つ状況が確認できました。しかしそれを受けた第3回は、DX推進の先行企業が「PoC貧乏」を脱出できず身動きが取れない状況も確認しました。そこで、第4回の今回は、少し視点を変えて「なぜ進まないか」を20年前の経験を振り返りながら考えていきます。

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)

デル株式会社 執行役員 戦略担当


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。

 横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス、本社出向)においてセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のダイレクターを歴任する。2015年、デルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネス統括し、グローバルナンバーワン部門として表彰される。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。産学連携活動としてリカレント教育を実施し、近畿大学とCIO養成講座、関西学院とミニMBAコースを主宰する。

 著書に「ひとり情シス」(東洋経済新報社)がある。Amazonの「IT・情報社会」カテゴリーでベストセラー。この他、ZDNet Japanで「ひとり情シスの本当のところ」を連載。ハフポストでブログ連載中。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Hiroshi_Dell

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

DXの定義は?

 「デジタルトランスフォーメーション」(DX)という言葉は、とても語感がよく、格好良い響きで、ワクワクする言葉です。それと同時に、さまざまなメディアでDX実現の難しさなどが報道されており、筆者も注意深く使用しなければいけないと感じているところです。

 DXの言葉が日本国内でも注目され始めたころ、IT分野を中心とした調査・助言を行うグローバル企業であるガートナーはデジタルビジネスを「仮想世界と物理的世界が融合され、モノのインターネット(IoT)を通じてプロセスや業界の動きを変革する新しいビジネスデザイン」(2014年)と定義しました。

 また、IT専門調査会社IDC Japanはデジタルトランスフォーメーションを「企業が第3のプラットフォーム技術を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデル、新しい関係を通じて価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」(2016年)と定義しました。

 いずれの定義も「インターネット」「プロセス」「新しいビジネスモデル」「競争優位」「新しい価値」「デザイン」「顧客との関係」などのキーワードを強調し、デジタルに変革していくことを意味していると思えます。それでは、このことを踏まえて次の図を見てください。

〇〇〇にはどんなキーワードが入るだろうか《クリックで拡大》

 上記の〇〇〇の定義について、「これもある企業によるDXの定義かな?」と思っていただけるとうれしいのですが、実はこれらの定義は2つとも今から20年前の2000年に出版された書籍の中の一文です。

 上の定義は、平田周著『わかる!IT革命の本―インターネットからeビジネスまで―ITで変わる世の中を読む!』(三笠書房、2000年9月)のものであり、次の定義は杉山育央 著『IT革命にどう生き残るか―会社を強くする俊敏経営』(電波新聞社、2000年12月)からの文章です。

 2000年といえば、ミレニアム(千年紀)ということもあり、高揚感のある時代でした。ブロードバンド回線、公衆無線LAN、携帯電話などが普及し、常時インターネットに接触できる環境が整い、「IT革命」が実現する風土が急速に準備されていた時期です。

 IT業界も「IT革命」というキーワードで盛り上がりました。さて、それを踏まえて先のスライドをもう一度見てみましょう。

 そうです。〇〇〇の定義の中には、「IT革命」が入ります。DXと見分けが付きにくいものであると、いまさらながら思います。

IT革命とは何だったのか?

 今にして思うと2000年当時の「IT革命」というキーワードの盛り上がりは、今のDXを超えていたかもしれません。

 同時に使われていた「e-ビジネス」も大きく広まり、大手企業もIT革命に対応すべく「e-ビジネス推進室」のような名称の部署をこぞって設置しました。

 ITのスキルを生かして無数のベンチャー企業が誕生し、渋谷周辺はシリコンバレーよろしく「ビットバレー」と呼ばれ、大いに盛り上がりました。筆者も足しげくビットバレーに通ったものです。プレゼンテーションをする機会も多かったので、自分なりに勉強して本を読みあさりました。思い入れある時代でしたので、当時の本は今でも処分できずに本棚の一角に陣取っています。まさか、20年の時を経てこの本を開くとは思いませんでした。読み返すと、今のDXの時代にも通用する示唆が多く含まれています。

筆者の蔵書から。「IT革命」への注目度合いが分かる《クリックで拡大》

「IT革命 2.0」のタイトルに込めた思いとは

 2000年ごろの「IT革命」を企業成長のステップとして活用し、ビジネスを飛躍的に伸ばした会社も多いと思います。

 現在も成長を続けるIT企業の多くがこの時期に誕生しています。しかし全てが成功したわけではありません。昨今の知識人の中には「『IT革命』は失敗だったのでは」との見方をする方が多くなっています。また、この時期の「IT革命」に乗り遅れ、IT化の機運を失った企業が多かったために、バブル経済崩壊後の1990年代初頭からの「失われた20年」を上回って、「失われた30年」ともいわれる状況を生み、現状のようにデジタル化が遅れてしまった原因になったと分析される方もいます。

 経済や経営だけではなく、歴史、哲学、自然科学など幅広い視点で経済動向を分析しており、予測の正確さには定評がある経済アナリストの中原圭介氏は著書『ビジネスで使える経済予測入門』(ダイヤモンド社、2016年9月)の冒頭で「なぜ日本企業は失敗を繰り返してしまうのか」を説明しています。

 中原氏は小さな変化を見逃して大きな対応策をとるのが遅れてしまうことにその原因を見いだしており、今後も同じような失敗を繰り返してしまうだろうと警鐘を鳴らしています。

 最近になり、筆者は当時を知る同世代の人たちと20年前の「IT革命」を振り返ることがあります。「あの時どうすればよかったのか?」「別の方法はあったのか?」などといった会話です。

 そうすると、「やはり変革の前に組織を大きく変えるべきであった」「経営層とのインターロックを強化しておくべきだった」「変化する顧客ニーズの視点をもっと強めておくべきだった」などの意見が出ます。

 結果論だと何とでも言えますが、その時点ではなかなか気が付かないものです。とりわけ未知の改革の場合は、その時は積極的と思っていても実は「おっかなびっくり」になってしまっていて、振り返ってみると積極策でも何でもなかった、と話される方もいます。

 こうした会話を通じて今筆者が不安に感じることは「今度こそ同じような未知の変革のトレンドに乗り切れるのかどうか?」という点です。自信がある方ばかりではないと思います。

 20年といえばそれなりに長い期間が経過していますから、当時「IT革命」をリードしていた中心人物は既に定年退職されている可能性があります。しかし、現在DXを担当している方やIT部門のリーダーの方々は現在の会社の中心世代ですから、2000年前後のことは覚えているのではないかと思います。

 もし、皆さんのお勤め先が当時の「IT革命」に少し乗り遅れている会社の場合には、その原因を再確認しておくといいかもしれません。企業それぞれに素晴らしい企業体質や社風がありますが、逆にそれが原因で20年前の「IT革命」に乗り切れなかったのだとしたら、現在進行するDXでも同じことを繰り返してしまう可能性があります。皆さんがDXを推進する際には、こうした過去の問題を事前に考えておくだけでも、対応のオプションが増えるのはないかと筆者は考えています。

 現在取り組むべきDXと20年前の「IT革命」の本質は近いものです。「IT革命」の負の歴史を忘れないようにすることを肝に銘じ、もう一度IT革命に挑戦して今度こそ実現できるようになれば、それはデジタル戦略を実現していることであると言えます。今回の連載はこうした願いを込めて「IT革命2.0」というタイトルにしました。本連載が皆さんのDX推進の一助となれば幸いです。

 今回は20年前のキーワードをヒントに現在のDXをもう一段進めるための視点を紹介しました。次回は真に「IT革命2.0」を実践する企業が何をしているかを探っていきます。

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