“地味にスゴい企業”は世界の競争に勝てない データで知名度向上に挑むダイキン「デジタルマーケティング」を一歩進めた作戦に鍵

住宅や商業用の空調機で知られるダイキン工業は、実はフッ素化合物の製造を手掛ける世界的な化学メーカーでもある。しかし、同事業には“その存在を知ってもらえていない”という課題があった。企業が調達先をネット検索で探す時代に「地味だけどすごい」事業のままでは世界の競合に負けてしまう。同社が顧客の認知度を上げるために採っている作戦とは。

» 2020年03月24日 07時00分 公開
[阿久津良和ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 空調事業や化学事業を手掛けるダイキン工業は、2024年に創業100周年を迎える。世界150カ国以上で事業を展開する同社の海外事業比率は76%。グローバル競争に勝てるかどうかが重要な課題だ。

 空調機メーカーとして十分な知名度を得ている同社だが、実は課題があった。化学事業の知名度がなかなか伸びないのだ。

実は“世界でも上位”のフッ素化合物事業が抱えた悩み

ダイキン工業 化学事業部 マーケティング部 担当課長 寺田純平氏

 ダイキン工業という社名を聞くと、多くの読者が住宅用や商業用の空調機を連想するかもしれない。実は、同社はフッ素化合物の製造と販売を手掛ける化学企業でもある。

 フッ素化合物は、有機化合物を重合することで得られる。耐熱性や耐薬品性といった特性を持ち、フライパンやビルの塗料、エンジンの内燃機関などに使われる。ダイキン工業は、実は1953年から自動車や半導体、情報通信機器に使われるフッ素樹脂を手掛け、寺田氏によれば「フッ素化学メーカーとして世界第2位の地位を誇る」という。

 ただし、空調事業に比べてその知名度は低い。2020年2月、日本オラクルおよび東洋経済新報社が開催した「Modern Business & Customer Experience」に登壇した同社の寺田純平氏(化学事業部 マーケティング部 担当課長)は「2018年度の連結売上高の89.6%が空調で化学は8.1%と、(社内の事業規模としては)比較にならない」と話した。

米国では社名すら認識されていない――ネット検索の時代に抱く危機感

 また、フッ素化学メーカーとして、厳しいグローバル競争にどう勝つかという課題もある。現在、同業界の第1位は、2015年にDuPontから分離独立した米国企業のChemoursだという。他にも、フランスのArkema、中国の山東東岳化工といった競合企業が追いかける。

 寺田氏は同社の課題として「国内外で(フッ素化学メーカーとして)認知度、ブランド価値が低く、顧客ニーズを先取りできていない。また、グローバルの横展開が未成熟」と分析する。2019年に出展したある展示会では、100人前後がブースを訪れたものの、その半分以上が空調機メーカーという認識しか持っていなかったという。寺田氏によれば、米国では企業名すら認識されていない状況だ。

 昨今は自動車や半導体メーカーのような、ダイキン工業の潜在顧客と考えられる企業もネット検索を駆使するため、知名度の低さは痛手だ。寺田氏は「10年前のように、顧客からの要求にその都度対応すればいい時代ではなくなった。原料メーカーとして、エンドユーザーが欲するニーズを先取りしなければならない」と話す。

 「認知度やブランド価値の向上と顧客需要の先取りを目指している。グローバル拠点同士で情報を連携させ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を通して事業を加速させたい。また、オープンイノベーションによってグローバル規模の開発競争力と伸ばしたい」(寺田氏)

知名度をどう上げる? データを使って始めた生き残り策

 逆境を脱しようと、ダイキン工業の化学事業部が注力する分野が研究開発とマーケティングだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ