「欅坂46や乃木坂46は“ディスラプター”」――DX戦略とアイドル戦略の意外な共通点とは週末エンプラこぼれ話(2/2 ページ)

» 2020年03月27日 07時00分 公開
[重森 大ITmedia]
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成功しているアイドル、企業を参考にDXの手法を分析、戦略を考える

 アイドル戦略とDX戦略の類似性を語ったのち、安藤氏はそれぞれをタイプ分けし、その戦略を分析した。その分類は、大きく3つある。

 「指原莉乃や元AKB48の前田敦子は、『オプション行使・日和見型』と言えます。自分を主張せずニーズに応じて柔軟に戦略を変えます。企業で言えば、資生堂やシャープに近いでしょう」(安藤氏)

 資生堂もシャープも、それぞれ化粧品、家電の分野で十分な強みを持っている。しかしその分野にとどまらず、専門性やオプションを増やすことに努力しているという。

 資生堂は「自社製品が売れるのであれば、それが資生堂の製品であると認識されなくてもいい」と考えているという。シャープも家電メーカーという狭い認識にとらわれることを嫌い、「家電メーカーと呼ばれたくない」と言い始めているとのこと。実際にシャープは調理家電で新たなジャンルを切りひらた上で、製品自体の拡販だけではなく、その製品を使った料理キットの開発を始めた。自分で考える自社の強みを押しつけるのではなく、ユーザーのニーズに応えて戦略を打ち出している2社と言える。

 「『ブランディング・標的型』の戦略をとっているのは、須田亜香里や菅本裕子ですね。自分はどんな人間なのかを追及し、ブランディングしていきます。須田亜香里は先に紹介した通り、かわいくないという評価を受け入れた上で、理想の自分と本当になりたい自分をきちんと理解して行動しています。似ている企業としては、メルカリやオプティムなどが挙げられます」(安藤氏)

 これらのアイドルや企業の共通点は、物語を重視していることだ。一般消費者は意識せず、物語を担当する自分と経験する自分を持っている。物語を重視することで自分に、自社に思い入れを持ってもらい、人気を得ているのだという。

 「もう一つは元AKB48の川栄李奈や内田眞由美に代表される『完全特化型』です。アイドルではありませんがプロレスラーの川田利明も含め、良い意味で異形型と言ってもいいでしょう。企業では小松製作所が似た戦略をとっています。これは誰にでもとれる戦略ではありません。生命力が強く、敵がいないモノだけがとれる戦略です」(安藤氏)

 安藤氏によれば、小松製作所は「Googleがライバル」と言っているとのこと。同業他社に負けない自信があり、グローバルで他業種とも渡り合うだけの強さを持っていなければ言えないせりふだ。ただし、極端な強さだけでも成功せず、そこには「極端とほどほど」の選択があるとも付け加えた。

 「川栄李奈は、『1番じゃなくて5番くらいがいい』と言っていますし、今はラーメン店『麺ジャラスK』を経営する川田利明は、超おいしいラーメンではなく、ほどほどの味を目指していると言います」(安藤氏)

 ものすごくおいしいラーメンは、時間と金をかければある程度実現可能だ。しかし、そのようなラーメンを毎日食べたいと思う人は多くない。ほどほどにおいしく、「今日もここでいいか」と思ってもらえれば、リピート率も利益率も高まる。それが川田利明氏の戦略だという。

3つの戦略(出典:安藤氏の講演資料より)

それぞれの戦略に応じたレピュテーションクライシス対策が必須

 DXの戦略はさまざまだが、共通する課題がある。冒頭で述べた通り、情報は自由になりたがり、レピュテーションはコントロールできない。その前提に立った対策、もしくは生き残りのための姿勢が求められる。安藤氏はこれを「レピュテーションクライシス対策」として、それぞれのアイドルの姿勢を紹介した。

 自分を持たないという指原莉乃は、カリフォルニアメソッドを採用していると安藤氏は分析。あちこちで小さな火事が起こることで、森林内に燃えやすい物質がとどまらず、大規模な山火事にならずに済むという考え方だ。シリコンバレーでも、早めに小さい失敗をすることを是としている。同じように指原莉乃は小さいガス抜きを頻繁にすることで、自身の立場が揺らぐほどの大きな問題に発展しないようにしているという。

 物語を重視するゆうこすこと菅本裕子は、失敗もストーリーにして見せる。失敗をもみ消そうとすれば拡散するのが今の情報化時代。むしろ失敗を自ら公表し、自身の物語とすることで応援に変える。

 「失敗は価値ある情報です。隠すのではなく一番はじめに自分から情報を出していくことで、物語としての価値を生んでいくのです」(安藤氏)

 これらに対して自身の体力で市場を切りひらいて行く特化型の川田利明は、これもやはりレピュテーションクライシスとは無縁でいられない。

 「自身は強いのですが、アルバイト店員などが評判を落とす恐れはあります。それに対して川田利明がとった解決策は、アルバイトを雇わず一人で経営することでした。自動券売機をはじめとした、徹底した自動化。それが彼のレピュテーションクライシス対策です」(安藤氏)

 かつてアイドルは、「かわいく」「傷もなく」「悪いことをしない」存在とされた。しかし、いざ傷が見つかったときにはダメージが大きかった。情報が自由に行き交う現在、傷を隠すのは難しい。レピュテーションはコントロールできないという前提での経営が求められ、アイドルの生き様にはそのヒントが多く含まれていると安藤氏はいう。

 「アイドルに興味がないという人も、ぜひ前田敦子を特集した雑誌や、グローバルで活躍するBABYMETALを特集した雑誌を買って研究してみてください。おじさんが書店でアイドル特集号を買うのは最初はちょっと勇気がいるかも知れませんが、とても参考になりますよ」(安藤氏)

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