「しなやか」な組織体制を持つ企業は半分しかない 事業継続計画のこの現実をどう考えるかIT革命 2.0〜DX動向調査からのインサイトを探る

DXを推進する体制を考えるとき、変化に強いしなやかな事業運営は大前提といってもよい要素です。ディスラプターへの対応だけでなく、自然災害や有事の対応でもしなやかな組織作りが重要ですが、実態はどうなっているでしょうか。

» 2021年01月13日 08時00分 公開
[清水 博ITmedia]

BCPも喉元過ぎれば熱さを忘れる?

 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」というフレーズは、京都で作られた「いろはかるた」から始まり、江戸に伝わってできた「江戸かるた」の中でも使われました。「かるた」には人々の生活の知恵や教えだけでなく、人間の普遍的な真理を表すシニカルな表現も含まれており、現代の世の中でも十分通じるものです。西から東へと広がっても、その普遍性が損なわれることはありません。

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河・ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)入社後、横浜支社でセールスエンジニアからITキャリアをスタートさせ、その後、HPタイランドオフィス立ち上げメンバーとして米国本社出向の形で参画。その後、シンガポールにある米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のマーケティングダイレクター歴任。日本ヒューレット・パッカードに戻り、ビジネスPC事業本部長、マーケティング統括本部長など、約20年間、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わる。全世界の法人から200人選抜される幹部養成コースに参加。

 2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ、世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。

 2020年定年退職後、独立。現在は、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。著書『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の他、経済紙、ニュースサイト、IT系メディアで、デジタルトランスフォーメーション、ひとり情シス関連記事の連載多数。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Shimizu1manITDX

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

 何か大きな災害があると皆が同じ行動をとり、スーパーや薬局などで物資の売り切れが起きます。企業のBCP対策も同じです。災害や社会不安になるとあちらこちらで騒がれ、一刻を争うようにユーザー企業は検討を開始し、ITベンダーは「BCPだ」「ディザスタリカバリーだ」と“提案合戦”を始めます。

 私も東日本大震災の発生直後には、何度もお客さまと関西のデータセンターを訪問して調査したものです。見学のスケジュールが取りにくいほど見学者があふれていました。しかし一般的に、日本の企業は検討から導入に至るまでとても慎重で、予算化して承認するまでにとても時間がかかります。データセンターの増設などは半年で決まることではありません。半年ほどたった頃から導入の意欲が徐々に弱まり、結果的には導入しないというケースがほとんどでした。まさに「喉元過ぎたら……」というもので、災害前と何も変わらない状況があったと思います。

 しかし、海外で働いてきた筆者から見ると、これには良い面もあると思います。海外の企業の場合、プロジェクトが失敗するとリプレースしたり、CIOが変わったりして、プロジェクトをゼロからやり直します。成功の裏には多くの失敗や無駄があるということです。とはいえ、日本企業がタイミングを逃しやすい体質にあることは間違いありません。

 この「喉元過ぎたら……」は、Googleにも実態として把握されています。過去10年間のBCPのトレンドについてGoogleトレンドで調べると、大きなスパイクが2つあることが分かります。1つは東日本大震災直後の2011年4月で、もう1つはコロナ禍でさまざまな自粛が本格化した2020年4月です。確かに、春先にはBCPの言葉が多くのメディアで目についていましたが、半年を経過した現在は目にもしなくなりました。関心もなくなってきているのではないかと感じます。今回のBCPも時間の経過とともに忘れられていくのでしょうか。

IT予算の使途

BCP策定がされていても、半数の企業がITへの具体策なし

 2020年5月の内閣府の発表によると、BCPを2019年度に策定した大企業の割合は68.4%、中堅企業は34.4%でした。今回の調査においても62.9%の企業がBCPを策定しており、実態に近いものを実感できました。政府目標は「大企業でほぼ100%、中堅企業で50%」なので、今後もBCP策定企業は増加する傾向にあると思います。

BCPの現実

 しかしながら情報システム部門にとっての大きな問題は、BCPを策定していても、BCP担当部門から情報システム部門に具体的な取り組みが展開されたという話をあまり聞かないことです。BCPは経営資源を守り、ビジネスを継続していくものですが、いまや企業が持つ情報資産はとても大切なものです。事前防災として、情報資産としてのデータを考慮してIT戦略に落とし込んでおく必要があります。通常業務から緊急時のテレワークの切り替えなども、BCPの中にカバーされるべきものかもしれません。

 BCPを策定する企業のうち、BCP担当部門から情報システム部門に具体的な取り組みが展開されたことがあった企業の割合を調べたところ、わずか半数の54.5%に過ぎませんでした。DX進捗企業に比較すると、残りの半分の企業はデジタル面でのリスクから従業員を守れなかったり、取引先への応答が遅くなったりするなどの問題が発生しやすい恐れがあると思います。

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