トヨタとNTTが「ウーブンシティ」で目指す未来モビリティ×デジタルは何を創造するか(1/2 ページ)

トヨタが建設中の「ウーブンシティ」はどのような街になるのか。トヨタとNTTが考えるスマートシティのあるべき姿とは。

» 2021年11月11日 07時42分 公開
[田中広美ITmedia]

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 トヨタ自動車(以下、トヨタ)が2021年2月着工した実証都市「Woven City」(ウーブンシティ)はテクノロジーに関する話題が先行しがちだが、トヨタのグループ企業であるウーブン・プラネット・ホールディングスCEOのジェームス・カフナー氏が強調したのは「ヒト中心」という言葉だった。

 2021年10月20〜22日開催の「NTTコミュニケーションズ デジタルショーケース」でカフナー氏は、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)副社長の栗山浩樹氏と「進化し続けるスマートシティーにより、持続可能な社会の発展をめざす」というテーマで対談した。

 その中でカフナー氏は「ウーブンシティは未来のモビリティの開発プロジェクトだが、あくまでヒト中心の開発を考えている。焦点を当てるべきはヒトのモビリティだ。モノと情報のモビリティをつなぎ合わせて安心安全で持続可能な都市生活を設計する」と構想を語った。

モビリティ×デジタルのシナジー効果

 トヨタとNTTのパートナーシップの始まりは2017年にさかのぼる。

 2社は2017年、「コネクテッドカー」向けのICT基盤の研究開発に関する協業に合意した。トヨタの自動車に関する技術とNTTグループ各社のICTに関する技術を組み合わせて、コネクテッドカー分野での技術開発・技術検証とそれらの標準化が協業の目的だ。

 この協業でNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は、Tier1 IPバックボーンやVPN、データセンターといったグローバルに展開するICTサービスを活用し、IoTに適した次世代グローバルインフラ環境づくりで協力した。

 そして2020年1月、Googleなどによるスマートシティーの取り組みが注目される中、トヨタがアメリカで開催される電子機器の見本市CESで発表したのが日本型スマートシティーとなるウーブンシティ・プロジェクトだ。その2カ月後、2020年3月にスマートシティーの実現に向けたトヨタとNTTの業務資本提携が発表され、スマートシティーのコア基盤である「スマートシティープラットフォーム」を両社が共同構築することが明らかになった。

 ウーブンシティ・プロジェクトの内容を簡単に紹介する。

 ウーブンシティはあらゆるモノやサービスがつながる実証都市として建設中で、広さは約70.8万平方メートルに及ぶ。企業や研究者が幅広く参画し、CASE(注1)やAI(人工知能)、パーソナルモビリティ、ロボットなどを実証する場として設計されている。

 ウーブンシティ実現のためにトヨタとNTTが共同で開発するのが「スマートシティー・プラットフォーム」だ。人、クルマ、家、住民、企業、自治体などに関わる生活やビジネス、インフラや公共サービスなどの領域に価値を提供するためのコア基盤となる。

 NTT Com副社長の栗山浩樹氏は対談の中でNTTグループが手掛けるスマートシティーに言及し、ウーブンシティとの相乗効果への期待を語った。

 「NTTはスマートシティーのフラッグシップとして品川で最先端のテクノロジーを導入し、デジタル基盤を作る。(品川のスマートシティーは)複数のステークホルダーと一緒に作り上げるブラウンフィールドでのプロジェクトだ。一方、ウーブンシティは進化し続けるグリーンフィールドでのプロジェクトだ。グリーンフィールドとブラウンフィールドの組み合わせで良いシナジー効果が生まれる。トップ同士だけでなく、現場レベルでも議論し、仲間意識も育ちつつある」

実証実験の街、未完成の街

 そもそも、なぜトヨタは通常の研究所ではなく、人々が実際に生活する街を作るのだろうか。

 カフナー氏は「テクノロジーをやみくもに開発するのではなく、人々を幸福にするテクノロジーを生み出したい。そのためには狭い範囲のテストではなく、アジャイルな開発や反復設計ができる街規模でのプロジェクトが有用だ」と語る。

 同氏はウーブンシティ誕生の背景について、「『ウーブン(織られた)』という名前はトヨタの歴史とDNAに由来している。創業者の豊田佐吉が母親のために自動織機を発明したのが豊田自動織機の始まりで、自動織機で得た利益で創業したのがトヨタ自動車だ」とトヨタの来歴から話し始めた。

 「ウーブンシティプロジェクトのきっかけは10年前の東日本大震災だった。トヨタの豊田章男社長は雇用創出のために(被災地である東北地方に)工場を建てることにし、老朽化した東富士工場閉鎖を決断した。跡地をどうするか考えたときに、実証実験の場を作るというアイデアが浮かんだ。研究開発やテストから実装まで全て行えるような、スマートシティーのためのモビリティとサービスを作る場だ」

 冒頭に登場した「ヒト中心」をここでも強調しつつ、「ウーブンシティは実証実験の街、未完成の街。ここで育まれた製品やサービスが世界中に送り出される。ウーブンシティが成功すれば、ここから生まれたテクノロジーが世界中の人々の生活を変えるだろう」とカフナー氏は語った。

ウーブン・プラネット・ホールディングスCEO ジェームス・カフナー氏 ウーブン・プラネット・ホールディングスCEO ジェームス・カフナー氏

 世界中の人々の生活を変えるようなテクノロジーとは具体的に何を指すのか。

 カフナー氏は自動運転技術を挙げた。「われわれが投資してきた先進安全技術や自動運転技術はモビリティの安全性を劇的に高めたが、現在でも世界で100万人以上が毎年交通事故で亡くなっている。スマートなインフラとスーパーコンピュータの力でデータを使って交通の流れを予測し、安全な都市インフラを作りたい」。

 さらに、ウーブンシティにおけるモビリティの果たす役割について「日本語に『愛車』という言葉があるように、クルマは個人の表現の手段でもあった」とクルマが移動以外に果たしてきた役割を振り返りつつ、「一方で高齢になったり体が不自由だったりしてクルマを運転できない人もいる。ウーブンシティでは自動運転という選択肢を提供することで、高齢者や身体が不自由な人でも移動の自由を得られるようにする。移動はヒトの欲求だ。課題は多いが、自動運転によって人類の可能性を広げる」と構想を語った。

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