トヨタとNTTが「ウーブンシティ」で目指す未来モビリティ×デジタルは何を創造するか(2/2 ページ)

» 2021年11月11日 07時42分 公開
[田中広美ITmedia]
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NTTとの提携で目指すもの

 ウーブンシティにおけるNTTとのパートナーシップは何を生み出すのか。カフナー氏は「ウーブンシティは当社を代表するプロジェクトであり、自動車会社からモビリティ企業へと変化するための中心事業だ」とトヨタグループにおける同プロジェクトの位置付けを明らかにしつつ、「そのためには自動車の大量生産という従来の専門分野とは異なる、情報とモノとヒトのモビリティを幅広く扱うための知識が必要だ。パートナーシップを通じて革新的なエコシステムを作りたい。デジタル通信とモビリティの最新技術が出会い、新たな創造が生まれるだろう」と語った

NTTコミュニケーションズ(NTT Com)副社長 栗山浩樹氏 NTTコミュニケーションズ(NTT Com)副社長 栗山浩樹氏

 これを受けて、NTT Comの栗山氏は「テクノロジーの準備は整っており、テクノロジーの力を生かすべき時が来ている」と話した。

 スマートシティーが抱える課題について、栗山氏は「都市をスマート化する際の最初の問題は、人々がテクノロジーを信頼できるかどうかだ。信頼できなければ都市のスマート化は実現しない。人類はイノベーションの恩恵にあずかってきたが、技術だけでなく人々の考え方も変化してきた。印刷技術や自動車、飛行機は、利便性と安全性、環境と効率といった矛盾や葛藤を乗り越えて普及した。これがテクノロジーの力だ」と、テクノロジーの有効性を語った。

都市の課題を解決するテクノロジーとは

 ここまでの対談の中で、トヨタとNTTはウーブンシティで培われたテクノロジーがやがて世界の都市で使われ、世界中の人々の生活が変わると考えていることが分かった。2社が考える都市生活のあるべき姿を整理しよう。

 カフナー氏は都市が抱える課題として次の2点を挙げる。

  1. CO2(二酸化炭素)の排出削減
  2. 世界中に十分行き渡る持続可能な電力をいかに作り出すか

 「都市が抱えるこれらの課題はテクノロジーで解決できる。より安全でカーボンニュートラルな都市環境をいかに実現するか。各地域に異なる制約があるが、トヨタは世界中で使える品質と安全性を持ち、柔軟かつカーボンニュートラルなクルマを作りたい」(カフナー氏)

 また、課題解決のためのテクノロジー活用について、カフナー氏は「この50年間、ITによって多くの産業が根本から変化した。NTTコミュニケーションズの暗号化を使ったNTTコミュニケーションズの暗号化を使った秘密計算技術のようなテクノロジー(注2)がスマートシティーの安全性を高める。そして最先端のAI技術でモビリティをスマート化し、インフラもスマート化すれば、安全性と利便性が劇的に改善する。これがわれわれの挑戦だ」とNTT comをはじめとするNTTグループの技術への期待を滲ませた。

 一方の栗山氏はスマートシティーの重要な要素として次の2点を挙げる。

  1. 道路、水、橋などの公共インフラ
  2. 個人のコミュニティーへの参加とその関係性

 「ICTやデジタルデータは公共インフラを強化するだけでなく、個人とコミュニティーとのつながりの強化にも役立つ。公共インフラのライフサイクルをデジタルで管理していくことは、不可能な夢ではなくなった」(栗山氏)

 2に挙げた個人のコミュニティー参加については「デジタルコミュニケーションにより、人と人とのつながりは広がっている。デジタルは物理的な距離だけでなく心理的な壁も超える。より多くの人と関わることで、コミュニティーへの帰属意識や絆が強まる。これがコミュニティーの基盤の安定につながる」と語った。

 また、スマートシティーを支える技術的な土台について、「われわれのデジタル技術とスマートサービスを利用するにはスマートシティー基盤が必要だ。そこでわれわれは特定の人に閉じていない、他の都市や顧客にもAPI(Application Programming Interface)で接続できるスマートシティー基盤を構築する」と構想を話した。 

「街」としてのウーブンシティ

 ウーブンシティは実証実験の場であると同時に、人々が暮らす生活の場ともなる。「街」としてのウーブンシティはどのような特徴を持つのだろうか。

 栗山氏は「私たちはライフスタイルやビジネスモデルについて、考え方を大きく変えるべき時期に来ている。都市化は生産と消費の分離を生んできたが、(ウーブンシティでは)デジタルやICTによって分離された生産と消費をつなぐ」と目指す姿を語る。

 「最優先で取り組む課題はカーボンニュートラルだ。デジタル化によってCO2排出の状況や生産と消費を可視化し、最適化できれば、新たなビジネスモデルやライフスタイルを構築できる」(栗山氏)

 一方のカフナー氏はコロナ禍で変化した生活について「特にこの1年半、世界中の人々が仕事や学習、コミュニケーションの方法を考え直している」と語った。

 「今後は、幸福で生産的な仕事や生活をどう支えていくかがテクノロジーの課題となる。在宅ワークを楽しんでいる人もいれば、逆に苦しんでいる人もいる。バランスは必要だが、技術は選択肢を生み出し、新しい可能性を与える。これからの世界では今よりも選択肢が増える。テクノロジーの役割は人間の可能性を解き放つことだ。幸福や知識、仕事のポテンシャルに加え、コミュニティーとのかかわり方の可能性も広がる。本質的な目的を見失わないためにもヒト中心の技術開発が重要だ」(カフナー氏)

 対談終盤、両氏は今後の抱負を語った。

 「課題は多いが、人類の未来を切り開こうとするパートナーや投資家と革新を加速させる場としてウーブンシティを作っていきたい。トヨタと日本は持続可能な都市づくりのリーダーとなる」(カフナー氏)

 「私たちはスマートシティー実現の『共同の灯台』――つまり、夢を現実にする模範になりたい。デジタル化は人間の労働にとって代わるものではない。現状を可視化し、改善すべき点を把握することで次のステージへと進むサポートをするものだ。その結果、人々のウェルビーイングに配慮した社会が実現できると考えている」(栗山氏)

(注1)「Connected」(インターネットでつながる自動車)、「Autonomous」(自動運転)、「Shared」(カーシェア)、「Electric」(電動化)という自動車技術の4大トレンドの頭文字を基にした造語。
(注2)「NTT Com、秘密計算のクラウドサービス「析秘」を提供開始 個人情報などの活用を支援」https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/2108/20/news088.html


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