自治体が本気で取り組むマーケティング活動 「メンマ爆売れ」の裏で市役所職員は何を仕組んでいたか(1/3 ページ)

最先端のマーケティング施策を自治体が駆使することは可能だろうか。福岡県糸島市が示したのは、データを駆使すれば街の活性化は不可能ではないという事実だ。

» 2022年05月26日 09時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 住民のニーズをいち早く把握して政策立案やサービス改善に結び付けるのが自治体の重要な業務の一つだ。しかし、そもそも自治体自身を客観的に理解するためのデータ収集や分析に困難を感じるケースもある。全国的にもユニークな産業振興への取り組みを進める糸島市のデータ活用事例は、一般企業にも通じるヒントが満載だ。

福岡県糸島市 企画部 経営戦略課 岡祐 輔氏

 福岡県糸島市は、福岡市に隣接するベッドタウンで、自然に恵まれ、移住エリアとしても人気の地方都市だ。市の北側と西端部は玄界灘に面し、近海の海産物に恵まれ、晩秋から春には市内の漁港に並ぶ焼き牡蠣を出す漁師直営の「カキ小屋」が有名だ。南部は脊振山地が占め、脊振山系のきれいな水と肥沃な土壌で育てられた農産物も豊かで、沿岸に景色のいいゴルフ場や温泉が点在するなど、さまざまな魅力を備える。

 しかし、他の地方自治体と同様に、産業振興の課題も抱えている。同市の経営戦略課で主任主査として住民・産業支援に汗をかいているのが福岡県糸島市役所 企画部経営戦略課の岡 祐輔氏だ。民間の経営手法を公共経営に生かすため、業務の傍ら経営学修士号(MBA)を取得し、ブランディングやマーケティング、データ分析に精通する岡氏は、同市の課題をデータで把握し、政策や産業支援活動に結び付ける取り組みを続けている。その一端を「ソラ・アメ・カサ」というマッキンゼーの問題解決方法でポイントを分かりやすく紹介してくれた。

「ソラ・アメ・カサ」をデータから考える

 マーケティングやコンサル業界ではよく使われるソラ・アメ・カサは、「黒い雲が増えてきた」(ソラ=事実)、「アメが降りそうだ」(アメ=解釈)、「傘を持って行こう」(カサ=判断)という3段階での状況認識と解釈・判断で有益な行動を導き出す考え方だ。

 岡氏は、糸島市の課題の把握と解決の道筋を、この考え方で整理して次のように語った。

ソラ:事実=現状理解のためにデータを生かす

 現状理解のために岡氏が用いたのは、マーケティング領域でよく使われる「3C分析」の手法だ。3C分析は、「Customer(市場/顧客)」「Company(自社)」「Competitor(競合)」という3つの「C」について分析する方法だ。自治体に当てはめると、Customerは観光などでの「来訪者」、Companyは「糸島市(産業)」、Competitorは「周辺自治体」となる。

Customer=来訪者の理解

 糸島市にとっての3Cの1つ目、つまり来訪者に関する現状を理解するためにまず利用したのは、「観光観光入込客数」だ。糸島市は2010年に3市町の合併で誕生して以来、18年連続で右肩上がりで観光客が増加している。

 その傾向は観光客数で把握できるが、課題があるのか、それは何なのかはそれだけでは分からない。そこでデータを分解していく手順がいる。ある年の観光客の総数を分解し、内訳を見たのが図1だ。

図1 観光客数の総数の推移を把握し、さらに日帰り客と宿泊客を可視化(出典:糸島市)

 分解する視点は、日帰り客か宿泊客かである。すると日帰り客が98%を占めていることが分かった。ほとんどの観光客は宿泊をせずに帰っているのである。

 さらにこれを目的地別に分解したのが図2だ。

図2 観光客を目的地別にグラフ化(出典:糸島市)

 目的地別に分解すると、産直(直売所)、カキ小屋などの飲食店などの「食」の分野だけで65%を占めていた。文化、自然などの観光資源に対して圧倒的な強みを示している。

 さらに、観光客がどこから来たかを調査したところ、ほとんどが福岡市からの来訪で、県内からの来訪が91.6%を占めていた。県外からの来訪者でも、日帰り圏内の隣接県からの来訪者がほとんどを占めていた。

 これは自治体の現状把握にデータを活用する一例にすぎないが、客観的な数値による可視化で特徴がはっきりと浮き彫りになった。

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