なぜ、ネスレ日本の法務部門はDXの推進役となったのかコスト部門から「いかに稼ぐか」を支える部門へ(1/2 ページ)

日本でまだ「DX」という言葉が定着していなかった2015年から、ネスレ日本の法務部門はデジタル技術を使った業務改革を実施した。その結果、現在ではネスレグループ(本社:スイス)の中でも、ネスレ日本ではDXが進展しているという。同社の法務部門のリーダーが採用したリーガルテックとは?

» 2022年05月25日 14時00分 公開
[田中広美ITmedia]

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 ネスレ日本は、「ネスカフェ」や「ミロ」「キットカット」などのブランドを世界186カ国で展開するNestleの日本法人だ。ネスレの従業員数はグローバル全体で約27万人、ネスレ日本は約2400人。食品・飲料会社として世界有数の規模を誇る。

 今回話を聞いた同社法務部長の美馬耕平氏は、大学卒業後に入社した企業で営業部や情報システム部門を経験した後、法科大学院に進学して司法試験に合格し、弁護士資格を取得した。2015年からネスレ日本の法務部長として同社の法務部門を率いている。

 そんな美馬氏がネスレ日本で法務部長着任後、真っ先に取り掛かったのがデジタル技術を利用した業務改革だった。

「とにかく、楽をしたい」から全ては始まった 年間1000時間を削減

 美馬氏は、ネスレ日本における法務業務の特性についてこう語る。「一般的に企業の法務部の役割は法的リスクの軽減とされるが、実は当社には法的リスクは比較的小さいといえる」(以下、特に断りのない会話文は美馬氏による発言)

 食品業界は金融や保険業界などに比べて法規制が厳しくないため、法的リスクが少ない。ネスレは本社のあるスイスで上場しているが、ネスレ日本自体は非上場企業のため、上場企業のような大掛かりな株主総会などは開かず、スイスの親会社が株主のため株主関連業務も少ないという。

ネスレ日本の美馬氏 ネスレ日本の美馬氏

 「もともとリスクが大きくない企業で『さらに小さくしましたよ』と成果を出したところで、『だから?』といわれるだけ(笑)。われわれのような会社の法務部門は存在価値を示すために何をすべきだろうと考えた」

 美馬氏が出した答えは、会社のビジネスそのものに対する貢献だった。

 「実は会社全体のビジネスに関わる部門はそれほど多くない」と、美馬氏は指摘する。製造部門は工場で食品や飲料を製造するが、製造部門が直接携わる製品の種類は限られている。法務部と同じ間接部門(バックオフィス部門)の人事部は直接的にはビジネスとの関わりを持たない。

 「その点、法務部は契約に携わる。どこからどういうものを買うのか、購入の目的は何か。ビジネスの中身を知らなければ契約内容はチェックできない。もちろん他部署からの法的なアドバイス依頼への対応も大事だが、それよりも重要な役割がビジネスの成功を支えることだ」。会社のビジネスとの関わりの深い法務部門としてビジネスを前に進めるためのアイデアを出したい――こう考えたとき、そのために必要な時間を生み出すことが課題として浮上した。

「7人」しかいない法務部で何ができる? DXへの挑戦

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