四国電力が電力需給計画にAIを活用 「予測はそもそも外れるもの」という考え方に基づく計画立案とは?(1/3 ページ)

電力大手の四国電力がAIを活用した電力需給計画立案システムの運用を開始した。需給計画立案という専門性の高い領域にAIを導入することで、どのようなメリットが生まれるのか。

» 2022年07月26日 14時30分 公開
[田中広美ITmedia]

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 大手電力会社である四国電力は2022年7月からAI(人工知能)を活用した電力需給計画立案システム「ReNom Power」(リノーム パワー)の運用を開始した。属人性が高く、その専門性の高さゆえに後継者育成が難しいと言われてきた電力需給計画立案業務にAIを導入することでどのようなメリットが得られるのか。

 同年6月23日に開催された記者会見で「ReNom Power」開発を手掛けたグリッドの梅田龍介氏(エンジニアリング部部長)が語ったのは、AIとデジタルツインによる予測と最適化で生まれた「今までやっていたことを効率化する効果」「これまでできなかったことをできるようにする効果」だ。

 人間による需給計画立案ではできなかったことを「ReNom Power」はどのように可能にしたのか。また、その効果は需給計画立案という電力会社のコア業務にとってどのぐらい重要なのか。

なぜ「電力需給計画」が重要なのか? 

 最近、電力と聞くと需給逼迫(ひっぱく)を思い浮かべる読者も多いだろう。需給逼迫は直近のウクライナ情勢に端を発するLNG(液化天然ガス)の供給不安定化をはじめ、例年よりも早い梅雨明けや電力システム改革をはじめとするエネルギー政策、いわゆる老朽火力発電所の相次ぐ“引退”、進まない原子力発電所再稼働などさまざま要因が重なって発生しているが、意外と見落とされがちな「貯められない」(貯めることが難しい)という電気の特性もその一つに数えられるだろう。

 電気を「貯める」のはどのぐらい困難なのか。実は2012年以降の蓄電システム関連施策によって、日本は中国に次ぐ世界第2位の「蓄電システム導入大国」になっている(2019年時点)(注1)。しかし、これらの蓄電システムの容量の合計は960万キロワット時で、2022年3月の1カ月間の日本全国の電力需要量773.3億キロワット時の0.01%にすぎないのが実態だ。

 もし電気を効率よく「貯め」られれば、需要が少ない時間帯に発電した電気を需要のピーク時に使える。極端に言えば、ある一定の期間において需要量と供給量が「まあまあ」合っていれば、電気の過不足分は「貯めて」た分から供給したり余った分は「貯め」たりできるため、需給逼迫は現在よりもはるかに起きづらいだろう。

 しかし、原則として電気を「貯められない」現在、需要家に電気を滞りなく供給するためには需要量と発電量が常に一致する「同時同量」が保たれなければならない。そこで電力会社に求められるのが確度の高い需給計画だ。

 注意すべきは、ベストエフォートを一般的とする通信事業など他のインフラサービスと異なり、電気事業における「同時同量」は文字通り「○時○分○秒」――ミリセカンドの単位まで供給量と需要量が厳密に一致しなければならない点だ。

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