エンジニアの就労ルール「がちがち」と「ゆるゆる」はどう使い分けるか 各社CIOの判断はCIO Dive

技術職の従業員が居心地よくパフォーマンスを発揮しやすい制度はどういったものだろうか。各社のCIOはさまざまな制度や組織運営のルールを試しているようだが「ただ自由にさせる」は正解ではないようだ。

» 2022年09月30日 11時00分 公開
[Lindsey WilkinsonCIO Dive]

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CIO Dive

 デジタル化が進む昨今、多くの企業が優れた技術系人材を確保しようと躍起になっている(注1)。従業員が何を望み、何を必要としているのかを考えて自社の働き方や制度を見直す企業もあるが、「ただ自由にさせるだけ」ではうまくいかないようだ。どうすれば技術者がやりがいを持ち、生産性を高められるのだろうか。各社の取り組みを見てみよう。

Where Tech Works Reportを紹介するedenのWebページ

 Eラーニングサービスを展開するedenの調査によると、米国のIT企業に勤める正社員1000人のうち約3分の2は「テレワークができないことが仕事上の弊害になっている」と回答した(注2)。そのうち「柔軟な職場環境を重視する」と答えた人は、テレワークを望む理由に「自宅で働きながら家庭のことや家族の介護に気を遣える点」を挙げている。フレックスタイム制や「スラックタイム」(後述)は働き方の柔軟性を高められる。チームのリーダーもこうした働き方を取り入れることで技術系従業員の幸福度を高め、生産性向上につながる効果が期待できるはずだ。

 各社のリーダーはそれぞれが自らの経験を基に異なるアプローチでこの問題に取り組んでいる。

スラックタイム(slack time)を意図的に作り、全体スケジュールを整える

 社会インフラ向けのエンジニアリングソフトウェアなどを提供するBentley SystemsのSVP兼CIOのクレア・ルトコウスキー氏は、職場の柔軟性を高める取り組みに力を入れる。

 彼女はプロジェクトのスケジュールの中で、「メンバーそれぞれの作業の間の空き時間」のことを「スラックタイム」(slack time)と呼ぶ。スラックタイムはチーム内のあるメンバーが他のメンバーより先に自分のパートを終えたときや、メンバーの作業完了を待っている間に自分が作業を始める場合などに発生するものだ。ルトコウスキー氏は次のように述べている。

 「プロジェクトマネジメント用語でいう“従来のスラックタイム”は、クリティカルパス上の作業の進捗(しんちょく)に依存するため、予測が困難です。一方で、(ルトコウスキー氏がいう)スラックタイムは(意図的に)期間を追加することで時間に余裕を持つことができるので、プロジェクトチームは予期せぬ遅延や変更が生じても全体のスケジュールを守れるようになります」

 一方のフレックスタイム制は、与えられた業務を完結させればチームメンバーが好きなときに働くことを認めるものだ。どちらの制度も働き方に柔軟性を持たせ、生産性を向上させるという点で共通している。

 「CIOとして、私は常にフレックスタイム制と計画的なスラックタイムを認め、推奨してきました」とルトコウスキー氏は自社の取り組みを説明する。

 「事業を中断することなくITサービスを提供するには、夜間や週末の勤務が必要になるケースは少なくありません。深刻な過労や“燃え尽き症候群”を防ぐためにも、時間外の要求に対応するために融通の利く働き方を提供する必要があるのです」

「20%ルール」を会議に取り入れるシカゴ大学

 職場の柔軟性を高める取り組みは他にもある。これから紹介する制度は従業員が日々の仕事をただこなすのではなく「何が会社に最も貢献するか」を考えるきっかけを得られるだろう。Googleで「AdSense」や「Google News」などのサービスが生まれたのは、この制度のおかげだと言われている。

 それは仕事に使う時間の20%程度を、目先の利益につながらなくても将来役に立つ可能性のあるプロジェクトに投資する「20%ルール」(注3)だ。

 マイアミ大学のCIO兼IT担当副社長デビッド・ザイドル氏は、会議に20%ルールを取り入れている。彼は、「リーダーとしての自分の仕事は、たまにスタッフのカレンダーを見て、その週や月の予定を確認して評価することだ」と話す。

 「たいていの従業員の予定を見るといま入っている会議の20%は減らせます。その結果、従業員は重要でない会話にとらわれることなく、より広い視野で革新的な方法を考える時間を確保できます」

“An Owner's Manual” for Google's Shareholders(出典:AlphabetのWebページ)

柔軟過ぎるルールはリスク 「ガチガチ」と「ゆるゆる」の使い分けは

 柔軟性のある職場づくりを成功させたいCIOや技術職のリーダーは、従業員と十分にコミュニケーションを取り、彼らが何を期待しているかを明確にしなければならない。

 ビジネスフォンソリューションを提供する4Voiceの創業パートナーであるアムルース・ラクスマン氏は、「フレックスタイム制を導入して以来、従業員がこれまで以上に幸せを感じ、信じがたいほど生産性が向上した」と述べる。

 しかし同社の場合、この制度を自由に使えるわけではない。週40時間の労働をこなし、フレックスタイムの予定をマネジャーや人事部に伝えた上で、期限内にプロジェクトを完了しなければ利用できないという制限を設けている。

 「これまでフレックスタイム制を導入したチームをマネジメントしていた経験から、何のトラブルも経験しないうちから好きなだけフレックスタイム制の利用を認めてもうまくいかないことが分かっています。全員が同じ場所で一緒に仕事をしたり、プロジェクトについて話し合ったりする時間は必要です」とラクスマン氏は話す。

 全ての従業員が自分のスケジュールで動いていると、お互いの予定を調整するのが困難になることがある。そこでラクスマン氏は、午前中は厳格なスケジュールを設定し、午後にだけフレックスタイム制を導入することにした。午後は自宅で仕事を済ませる人もいれば、夕方以降に仕事を始める人もいる状態だ。従業員はフレックスタイム制を利用して、病院の診察や子どもの世話など、上司に相談することなく個人的な用事を済ませている。

 先ほど紹介したルトコウスキー氏の会社の場合、パンデミックの際に導入したフレックスタイム制は従業員にとって非常に魅力的なものになった。

 「病気の人の看病、自宅での学習指導、家に誰もいないときの買い物など、仕事と家庭の両立を可能にするためにはフレックスタイム制が重要だったのです。私は『心身の健康のために必要なことをしながら仕事もこなしてほしい』とお願いしたのです」

 「これ以降、スタッフの生産性とモチベーションが大幅に向上した」とルトコウスキー氏は話す。フレックスタイム制はワークライフバランスを充実させるだけでなく、従業員にリーダーから信頼されているという自覚を持たせるためにも有効だそうだ。

(初出)Employees love flexibility in the tech workplace ? and tech leaders should, too(CIO Dive

(注1)How to retain tech talent(CIO Dive)
(注2)Where Tech Works Report(eden)
(注3)“An Owner's Manual”for Google's Shareholders(Alphabet、米証券取引委員会に提出したIPOの目論見書の引用)


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