Microsoft沼本氏×ソニーグループ小寺氏 両社の協業が生み出す新たな価値とは?Microsoft Ignite Spotlight on Japanレポート

日本マイクロソフト主催のカンファレンス「Microsoft Ignite Spotlight on Japan」で、ソニーグループの小寺 剛氏が、グローバルに拠点を持つ同グループにおけるDX推進の取り組みと、Microsoftとの協業で生まれたクリエイティビティを紹介した。

» 2022年10月19日 07時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

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 日本マイクロソフトは、テクニカルカンファレンス「Microsoft Ignite」の日本版である「Microsoft Ignite Spotlight on Japan」を2022年10月13〜14日に開催した。

 同カンファレンスでは、「クリエイティビティから革新を生む〜ソニーグループのDXへの挑戦〜」と題し、Microsoftの沼本 健氏(エグゼクティブバイスプレジデント兼コマーシャルチーフマーケティングオフィサー)とソニーグループの小寺 剛氏(常務 CDO)によるセッションが行われた。本稿ではその様子をダイジェストで紹介する。

グループ横断でノウハウを共有 ソニーグループの取り組みとは?

 沼本氏は「Microsoft Cloud」をはじめとするMicrosoft製品全般のグローバルマーケティングの責任者である。ソニーグループの小寺氏は、日本および北米でエレクトロニクス事業に従事した後、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのCEO(最高経営責任者)を経て、現在はソニーグループのデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略を推進している。

 セッションは沼本氏が小寺氏に質問する形式で進められ、複数の拠点を持つグローバル企業が一つの組織としてDXを推進するためのヒントを、ソニーグループならではのDX戦略の中から探る内容になった。

ソニーグループの小寺 剛氏

 小寺氏は、デジタル活用によるソニーグループの変化について「コロナ禍によってあるゆる企業でビジネスのやり方が変わった。ソニーグループも『Microsoft 365』や『Microsoft Teams』(以下、Teams)に大いに助けられ、モダナイズされた」と切り出した。

 「コロナ禍以前は、20%だった『Teams』の利用率は3カ月で70%にまで上昇し、現在では90%以上の従業員が活用している。Teamsを利用した会議は18倍に増加し、投稿数は4.6倍となり、Teamsの投稿比率は72%に達している。『Microsoft SharePoint』の利用者は3倍の6万人に増え、全体会議やタウンホールミーティングもTeams会議が主流になっている。電子メールを中心としたコミュニケーションが、映像や音声、チャットにシフトし、共同編集作業も促進された。対面での会議は閉じられた環境で限られた従業員だけで実施していたが、デジタルで多くの従業員が参加できる会議形態へと変わり、“会議の民主化”を図れるようになった」(小寺氏)

 小寺氏は、その上でCDO(最高デジタル責任者)の役割について「テクノロジーやデータの力を最大限に活用し、事業の強みを磨きながらそれぞれの成長をサポートすることだ。同時に、横の組織の力をつなげることで、総和をより大きなものにし、顧客体験をより深いものにしていくことである。全世界の人材が持つ知見やスキル、そこから生まれたマイクロサービスやソリューション、知的財産を有機的につなげることが、新たな付加価値創造につながっている」と述べる。

 こうした全世界の組織を横断的につなげる施策として小寺氏が主宰しているのが、約250人のチーム代表者が参加するDXフォーラムだ。

 「個々の事業にはそれぞれのドメインに最適化した仕組みがあり、個々に作り上げた『レンズ』を通じて、顧客の理解を深めたり、市場シェアを拡大したりしている。他の事業で実績がある『レンズ』を使って、他の見方をしてほしいといっても難しいのは確かだ。隣の人がかけていたメガネを、自分がかけても見えないのと同じである。デジタルを利用して全世界の組織をつなぐといっても一筋縄ではいかない。DXフォーラムでは、それぞれの『レンズ』を通じて獲得したデータなどを持ち寄り、そこから新たなオポチュニティや共通の課題を見つけ出し、共通化できるところは効率化やスケールを図るといったことに取り組んできた。コロナ前は会議室の制約で、20人規模でスタートしたが、デジタルソリューションがなければ、広いメンバーの参画やリアルタイムでの意見交換は難しかった」(小寺氏)

Microsoftとソニーグループの協業が生み出す新たな価値

 その他、ソニーグループではクリエイターがテクノロジーやデータを活用して、より良い環境でクリエイティビティを発揮できる環境づくりにも力を注いでいる。また今後は、B2B(Business to Business)領域におけるソフトウェアやソリューションを提供する予定だ。

 Microsoftとソニーグループは2019年5月に、パートナーシップを発表した。DTC(Direct to Consumer)向けのエンタテインメントプラットフォームや、AI(人工知能)ソリューション領域で新たな顧客体験を開発するといった取り組みを開始している。

 その成果の一つが、ソニーセミコンダクタソリューションズのインテリジェントビジョンセンサー「IMX500」と、それを活用したエッジAIセンシングプラットフォーム「AITRIOS」である。AITRIOSは、AIカメラなどを活用したセンシングソリューションの効率的な開発や導入を可能にするもので、エッジとクラウドを連携させて、AIを活用したセンシングソリューションの普及、拡大を目指している。

AITRIOSの仕組み(出典:ソニーグループ提供資料)
Microsoftの沼本 健氏

 沼本氏は「映像分析はモビリティや医療、小売、製造など幅広い範囲で利用されている。IMX500はチップ上でAIロジックを動作させ、クラウド基盤である『Microsoft Azure』(以下、Azure)のコグニティブサービスと有機的に連動させ、Sensor as a Serviceによるビジネスモデルを実現している。これによってコストパフォーマンスの実現とプライバシーに配慮したソリューション展開が可能になっている」と指摘する。

 小寺氏は「AITRIOSはさまざまな産業で活用されることが期待され、大きなポテンシャルを持っている。2020年5月には、Microsoftと共同で、パートナー企業や顧客のソリューション開発支援、プロトタイプ開発支援、テスト支援、教育支援などを目的に、共同イノベーションラボを世界4カ所に設置した。技術の提供だけでなく、技術を活用してそれを育てる仕組みによって、共創していくことが大切だ」と述べた。

 もう一つの成果として挙げたのが、耳をふさがない構造の完全ワイヤレス型ヘッドフォン「LinkBuds」である。Microsoftが提供する3Dオーディオマップアプリ「Microsoft Soundscape」と連携し、LinkBuds本体に内蔵するコンパスやジャイロセンサーを使用して頭の向きを認識できる機能を搭載している。スマートフォンを手に持たずに、目的地の方向をビーコン音で認識するといった使い方もできる。

完全ワイヤレス型ヘッドフォンLinkBuds(出典:ソニーグループ提供資料)

 小寺氏は「LinkBudsは、ハードウェアとサービスの組み合わせで新たな付加価値を提供する事例の一つである」とし「在宅勤務でも、家庭内で起きていることを聞きながら仕事ができる。オフィスでも同様の使い方ができ、24時間装着して利用できる」と語った。

 ソニーグループではこれ以外にも、エンタープライズリソースプランニング製品群『Microsoft Dynamics 365』を活用してERP(Enterprise Resources Planning)を統合したり、Azureを共通基盤として活用したりといった取り組みを進めている。

 小寺氏は「当グループは、AzureをはじめとしてMicrosoft製品やサービスを数多く利用しているが、単にプラットフォームとして利用したり、ソリューションを活用したりといった関係にとどまらず、お互いに強いところを持ち寄って共創し、新たな付加価値を作り上げていくための自然な関係性が促進されることを期待している。これまでは決めた枠の中で協業していたが、現場のメンバーが自然に協業の話ができるようにしたい」と語った。

 両社の協業は既に成果となって表れているが、今回の講演でそれをさらに一歩進めていく姿勢を、より強く感じることができた。

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