子どものIT利用を安全にするには? “家庭内情シス”で管理の難しさを体験しよう半径300メートルのIT

子どもたちがインターネットに触れるタイミングが低年齢化している昨今、彼らが安全にインターネットを利用するには大人のサポートが必要不可欠です。ただこのサポートでも意外と学ぶことは多いかもしれません。

» 2022年11月01日 07時00分 公開
[宮田健ITmedia]

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 非常に安価だったので新しい「iPhone」を購入しました。とはいっても買ったのは2017年に発売された中古の「iPhone 8」で、最新の「iOS 16」にギリギリ対応する端末です。せっかく買ったので筆者はこれを我が家では幼稚園児に渡してみようと考えています。

 日本において、子どもたちがインターネットに接するタイミングは低年齢化しています。内閣府が発表した「青少年のインターネット利用環境実態調査」令和3年度調査によると、小学校に入学していない子どもたちでもそれなりにインターネットの活用は進んでおり、主に動画視聴などに利用されているようです。ここ数年、ITの普及で子育ての形が大きく変化しているのでしょう。その他、統計からは子ども専用の端末を持つタイミングは、小学2年生で大きく上昇していることが分かりました。

(左)年齢別のインターネットの利用状況(右)低年齢層の子どものインターネット利用状況(出典:内閣府「青少年のインターネット利用環境実態調査」令和3年度調査から引用)

子どもの端末を適切に管理するには? 問われる「大人のITリテラシー」

 子ども用端末の初期設定は当然、親である筆者の仕事です。「iOS」の場合は、まず「Apple ID」を作成する必要がありますが、13歳未満は子ども本人が作成できないので、親のアカウントからひも付けて作成します。この部分だけでも「デジタル世界でも親は子どもを守る義務がある」というのが見えてきますね。

 子ども用の端末を管理する上では、iOSの標準機能である「スクリーンタイム」が重要な役割を担います。筆者はこの機能について、単にどのくらいスマートフォンを利用しているかという統計を見られるといった認識でした。しかし、親子の関係で考えると、これは離れた場所から子どもがどのようにスマートフォンと接しているかが分かる非常に便利なツールだと気が付きました。

 スクリーンタイムの設定を見ると、子ども用端末を非常に細かく“管理”できることが分かります。例えば、大きなくくりとしての「SNS/ゲーム」「エンターテイメント」などの制限時間を設定すれば、動画配信サービスの見過ぎを防止することなどが可能です。特定アプリ(主にゲーム)を指定して時間制限を掛けることも可能なので、非常に柔軟に管理できると感じました。「Android」についても、Digital Wellbeing機能で同様の管理が可能です。

意外と細かな設定が可能な「スクリーンタイム」 スマートフォンを持ち上げた回数までチェックできる(出典:筆者のスマートフォンのスクリーンタイム機能画面をキャプチャー)

 スクリーンタイムは、アプリのインストールにも制限を掛けられます。そもそも子どものアカウントではアプリをインストールできないため、設定を施すことで子どもがインストールを試みたとき、親のアカウントにプッシュ通知で申請が送られ、親が判断した後にインストールできるという仕組みが用意されています。これであれば、子どもは親が望まないアプリを勝手にインストールしないでしょう。

 子どもにスマートフォンを与えたり、インターネットを利用させたりすることについては、家庭ごとに事情も指針も異なると思います。最近は、SNSやゲームからトラブルに巻き込まれるケースも多く報道されています。しかし、多くのSNSは年齢制限を課していたり、インストール前に注記が必ず表示されたりしています。iOSやAndroid、または「Nintendo Switch」などのゲーム機も、上記のようなペアレンタルコントロールがしっかりと実装されています。子どものITリテラシ―を問う記事も多いのですが、実は試されているのは「大人のITリテラシー」なのかもしれません。

家庭内情報システム部を体験せよ!

 筆者は最近、子どもが外で見たものの名前を知りたがるようになったので、花の名前などを「Googleレンズ」で代わりに調べることが増えました。そのうち子どもが自分のスマートフォンで好きなようにチェックできるようになるでしょう。その意味では、調べる手法の幅が広くなるスマートフォンは大変有用です。ITはやりたいことをスピーディーに実行したいときには非常に頼りになります。

写真を撮るとそれが何かを推測してくれる「Googleレンズ」と図鑑を併用すれば、より深い学習が可能に(出典:筆者のスマートフォンの画面をキャプチャー)

 しかし、そのメリットを最大限に享受するには同時に「安全」も考える必要があるでしょう。子どもたちにITを体験させて、やりたいことをスピーディーに実現させてあげるためには、適切な管理が必要不可欠です。これは、高速道路を走る自動車が安全に走行できるように、ガードレールを設置して制限速度を設けることに似ている気がします。

 実はこれと同じようなことは、皆さんが所属する組織でも行われています。便利なクラウドサービスはビジネスを促進させますが、無秩序にこれを利用してしまうと、設定ミスによる思わぬトラブルや情報漏えいにつながる可能性があります。

 昨今では特にクラウド活用に関して「クラウド・センター・オブ・エクセレンス」(CCoE)と呼ばれる組織を構築し、クラウド内の“ガードレール”を作って安全に最高速が出せる環境を整備する企業も増えてきています。同様のことが、子どもを持つ家庭内でも行われているわけです。

 「百聞は一見にしかず」といいますが、体験は“100見”くらいの効果があると思っています。皆さんもぜひ、一度家庭内で“管理”側に回ってみてはいかがでしょうか。管理される側では気が付かなかった、管理の難しさや重要性を体験すれば、その意義もしっかり理解できるはずです。

 我が家の“管理”はまだ1週間もたっていないのですが、それだけでもまず「ポリシー」として何を許可し、何を制限したいかを考えること。また、ある程度「やりながら調整する」という試行錯誤の重要性を身をもって体験しつつあります。「ITmedia エンタープライズ」でも大日本印刷のCCoE事例を紹介していますが、家庭内でも参考にできるポイントがあると思っています。

 ぜひ、皆さんも管理する側に回ってみてください。スマートフォン利用や家庭内ネットワークは良い教材になるはずです。

著者紹介:宮田健(みやた・たけし)

『Q&Aで考えるセキュリティ入門「木曜日のフルット」と学ぼう!〈漫画キャラで学ぶ大人のビジネス教養シリーズ〉』

元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追いかけている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。

2019年2月1日に2冊目の本『Q&Aで考えるセキュリティ入門 「木曜日のフルット」と学ぼう!〈漫画キャラで学ぶ大人のビジネス教養シリーズ〉』(エムディエヌコーポレーション)が発売。スマートフォンやPCにある大切なデータや個人情報を、インターネット上の「悪意ある攻撃」などから守るための基本知識をQ&Aのクイズ形式で楽しく学べる。


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