CEOのサポートに欠かせない CIOが注力すべき3つのことGartner IT Symposium/Xpo 2022

世界情勢が不安定になり、CIO(最高情報責任者)の重要性が増している。CEO(最高経営責任者)サーベイで分かったリーダーの変化。CIOがCEOをサポートするために取るべき対応とは。

» 2022年11月08日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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 ガートナージャパンは2022年10月31〜11月2日の3日間で、「Gartner IT Symposium/Xpo 2022」を開催した。今回のイベントは「モメンタムを捉え、違いを生み出せ」をテーマに、Gartnerの国内外のエキスパートが「テクノロジーの将来の方向性」や「IT戦略の策定/検証におけるベストプラクティス」「主要イニシアチブの実行例について」といった内容を中心に講演が実施された。

 ガートナージャパンの松本良之氏(ディスティングイッシュトバイスプレジデントアドバイザリ)が講演「CEOサーベイから見えた2022〜2023年にCIOが取るべきアクション」で語った、CIOが注力すべき3つのこととは。

「Gartner IT Symposium/Xpo 2022」が開催(筆者撮影)

変化するCEOの考え その背景と行方 

松本良之氏(筆者撮影)

 松本氏は講演の冒頭で「CEO(最高経営責任者)はこれまでとは違うことを組織に求めている。そこには新型コロナウイルス(COVID-19)やロシアにおけるウクライナ進行が大きく影響したと考えられる」と話した。

 Gartnerが行ったCEOサーベイによれば、2020年にCEOが「成長」を重要視する割合は56%だったのに対し、2022年3月の調査では39%まで低下した。また、優先度を示すランキングでは、「顧客」が6%で10位であるのに対し、「従業員」が38%で2位だった。

 「顧客や企業の成長も大事だが、CEOは従業員の成長やサポートを特に重要視している。このような傾向は今後も続くと考えられる」(松本氏)

 CEOの変化はこれだけではない。松本氏によれば、CEOはこれまで以上に環境への配慮を重要視している。CEOサーベイでは「環境のサステナビリティ」が12%で7位となった。「インフレ」への配慮も高まっており、同調査で初めて6%を獲得し9位となった。これらのCEOの変化を松本氏は「かつて経験したことない異例なことが起きている証拠だ」と評価する。

 「かつて経験したことない異例の事態を前に、CEOは判断に確信を持てなくなり、スピードも鈍くなるだろう。このような状況で、CEOが迅速に判断をできるようにサポートすることがCIO(最高情報責任者)の成功だ。CEOは『先を見越したテクノロジー関連のビジネスアイデアや知見』を求めている」(松本氏)

図1 「インフレ」が9位に(講演より筆者撮影)

CEOをサポートするために、CIOが注力すべき3つの重点領域

 松本氏は、CIOがCEOをサポートするためには「アナリティクスの役割を倍増させる」「デジタル化の方向性を変える」「人/資源をローテーションする」という3つが重要だと話す。

 異例の事態をより深く診断して優れた解決策を発見するには、データ分析が果たす役割を「かつてないほど」拡大する必要があるようだ。これにはデータアナリティクスの力が欠かせない。

 松本氏は「過去10年間でCEOのデータに対する見方は大きく変化していない。つまり、CIOがもっとデータ分析のオーナーシップを持つべき時が来ているのではないか」と話す。

 同氏は、「2023〜2024年にCEOが取るインフレ対策第1位は『値上げ』だ。一方で値上げは非常に難しい」と続ける。値上げと一言で言っても、「価格更新の頻度」や「セグメント別の弾力性はどのように異なるか」「値上げが効果を失うのはいつか」といった要素を検討する必要があり、これらを理解するために「CIOがAI(人工知能)とデータサイエンスを活用するべきだ」というのが同氏の意見だ。

 インフレに対応するために、「需要の創出を目的とするデジタル化の取り組みを縮小し、オペレーティングモデルにおけるデリバリーの効率化に注力すべきだ」と松本氏は指摘した。同氏によれば、一般的にCEOが言う「デジタル化」は、テクノロジーを組織内部と市場対応の両面で適用するという意味で、「リソースのてんびんをオペレーティングモデルの課題対処のために傾け始めなければならない」と話す。

 これまで「販促」にかけていたリソースを「生産性」に、「カスタマーエクスぺリエンス」のリソースを「トータルエクスペリエンス」に、「チャネル」のリソースを「チャレンジ」に傾ける必要があると同氏は語る。

図2 リソースのてんびん(講演より筆者撮影)

 人/資源をローテーションさせるためには、「人材のローテーションと再トレーニング、サーキュラーエコノミーへの関与、事業活動場所の循環を支援することが重要だ」と松本氏は話す。同氏によれば、2013年に「人材不足は危機的な域に達しつつある」と回答したCEOは60%だったのに対し、2022年の中間報告では80%にまで上昇した。一方で、「この課題は迅速な解雇と雇用では改善されない」と松本氏は強調する。組織外部からの人材獲得に頼るのではなく、大規模なトレーニングと再トレーニングを通して、内部の社員を成長させる仕組みが重要になるようだ。

 「『業務時間外で勉強する時間を見つけて自主的にやれ』という組織の方針では成長は難しい。勉強する時間をしっかりと与えることで社員もトレーニングの文化も伸びていく」(松本氏)

図3 人材のローテーションと再トレーニングの図(講演より筆者撮影)

 サーキュラーエコノミーに取り組むために、同氏は「消費者向けアプリやAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)で接続されたデジタルエコシステム、デジタルコマース、デジタルオートメーションを適用して、廃棄物をよみがえらせることが重要だ」と話す。サーキュラーエコノミーとは、「循環型経済」を表し、これまで経済活動のなかで廃棄されていた製品や原材料などを「資源」と捉えて、リサイクル、再利用して資源を循環させるシステムのことだ。

 松本氏によれば、資源の再利用で「サプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性を減らす」「投資家のESGスコアを向上させる」「一部の顧客にとってのブランド価値向上」を実現することでCEOの課題解決をサポートできるようだ。

 事業活動場所の循環型経済に貢献するために、松本氏は「安全で信頼できる販売、供給、オペレーション地域を示す新たな地政学的地図の作成が重要になるのではないか」と話した。

 「グローバル化したサプライチェーンは危険なまでに複雑化し、同時に脆くなった。一方で、グローバル化したことで、過去のどの時点よりも回復力と柔軟性が高くなった。今後は、リショア(海外へ移した生産拠点を国内に戻すこと)、ニアショア(開発過程の一部分あるいは全てを近い距離の企業に外注すること)、フレンドショア(同盟国や友好国に限定したサプライチェーンを構築すること)を再考する必要があるだろう」(松本氏)

 松本氏は最後に「これら3つの観点でCIOはCEOをサポートすることが求められている。2023年以降に進むべき道を見つけられるように支援してほしい」と語り、講演を終えた。

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