サティア・ナデラ氏が提唱 デジタルの活用に欠かせない6つのポイントと日本のDX事例(1/2 ページ)

日本マイクロソフトは「Empowering Japan’s Future」を開催し、同社のCEO(最高経営責任者)を務めるサティア・ナデラ氏が講演を行った。同氏はデジタルの活用におけるポイントを6つ紹介する中で、日本国内におけるDX事例を紹介した。

» 2022年11月17日 10時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 日本マイクロソフトは2022年11月17日、企業のデジタル戦略に関わるリーダーを対象としたイベント「Empowering Japan's Future」を開催した。イベントに併せて来日したMicrosoftのCEO(最高経営責任者)を務めるサティア・ナデラ氏が講演を行った。

 ナデラ氏は講演の中で、日本企業や団体における、少ないリソースでより多くのことを実現する「Do more with less」の事例を紹介。さらに、最新のイノベーションやデジタルテクノロジーなどについても説明した。

デジタル活用に重要な6つの要素と日本のDX事例

サティア・ナデラ氏

 ナデラ氏は講演の冒頭、「Microsoftが設立された1975年に、『Popular Electronics』誌の表紙には『Altair 8800』(注1)が掲載され、同週の『Newsweek』誌では、エネルギー危機や景気後退などが取り上げられた。現在はこの2つの話題を関連付ける必要がある。それこそが、『地球上の全ての個人と全ての組織が、より多くのことを達成できるようにする』というマイクロソフトのミッションにつながっている」と切り出し、「いまは、『より多くを達成する』という意味を、より明確に定義する必要がある。より少ないもので、より多くのことを成し遂げ(Do more with less)、社会や世界を前進させなくてはならない。それが、Microsoftが提供するクラウドの原動力になっている」と続けた。

 ナデラ氏はデジタルの活用における要素として、6つの必須事項をあげた。

1つ目「クラウドへの移行」

 「エネルギー消費の観点からみるとクラウドは、95%も効率的で、需要変動に対応する弾力性を持つ。2025年までにアプリケーションの95%がクラウドネイティブになるだろう。今後は、より効率がよく高い機能を持つアプリケーションを開発、構築しなくてはならない」(ナデラ氏)

 この点において「Microsoft Azure」(以下、Azure)は、世界で60以上のリージョンがあり、日本にも2つのリージョンがあること、ハイブリッドクラウドを構成するためのサービス「Azure Arc」を使用することで、ユビキタスコンピューティングファブリックをあらゆる場所に分散でき、さまざまな場所でエッジ、マルチクラウド、オンプレミスがシームレスに利用できることを示した。

 このAzureの強みを生かした最前線の取り組みの1つがセブン銀行の事例だという。国内で2万6000台のATMを活用して各種サービスを提供する同社は、Azureを活用しながらハイブリッド・アーキテクチャを構築。高いトランザクションのニーズに対応する。

2つ目「データとAI」

 ナデラ氏は今後、「(世界中で生成される)データの約10%がAI(人工知能)から生成されるものになる」とし、その最たる例として、OpenAIによって開発された機械学習モデル「DALL-E」を挙げた。「プロンプト」と呼ばれる自然言語記述からデジタル画像を生成するAIだ。

 「AIによってプログラムコードや画像、テキストなど、あらゆる種類の創造的なものを生成できるようになる」(ナデラ氏)

 その上で、「一方で、全てのデータを処理するには、堅牢(けんろう)なデータプラットフォームが必要だ。Microsoftは、「Cosmos DB for Postgre SQL Azure」「Azure Synapse Link」「Microsoft Purview」などを提供ており、それらを一つのデータファブリックとして利用できる点が特徴だ」とした。

「ソフトウェア2.0」〜AIモデル自体がプラットフォームに

 さらに同氏は、「AIモデル自体がプラットフォームになるという大変革が起きており、これは『ソフトウェア2.0』の夜明けとも表現される」と話す。ソフトウェア2.0はTeslaのAI開発のディレクターであるAndrej Karpathy氏が2017年に示した概念だ。人間がアルゴリズムなどを検討してプログラムを記述するソフトウェア開発のスタイルをがSoftware1.0だとすると、Softwre2.0はデータセットや大まかなRNNなどのニューラルネットワークモデルのスケルトンを設定してそれを基にAIモデルのトレーニングを行う。人間がアルゴリズムを組み立てるのではなく、方向性を示した後はニューラルネットワークとトレーニングシステムが効率よく最適なモデルを構築する。

 Microsoftは、OpenAIの成果を基に大規模なAIモデルをAzureでトレーニングして、「GPT」やDALL-E、「Codex」などの全てを『Azure AIサービス』として利用できるようにした。「Turing」「ZCode」「Florence」のモデルのトレーニングも行っている。

 「これらは全てコグニティブサービスとして利用でき、開発者は豊富なAI機能をアプリケーションに組み込むことができる」(ナデラ氏)

 ここで挙がった日本での事例が、スマート農業を手掛けるスタートアップ企業のAGRISTだ。同社はピーマンの収穫にロボットを活用。AI機能や「Azure IoT」「Edge」を使用してデータを収集しており、それを利用してAIモデルをトレーニングする。この取り組みによって結果的に収穫量を増やすことに成功した。

 「農業人口の高齢化にも対応でき、デモストレーションを見て、創意工夫と起業家精神に感動した」(ナデラ氏)

講演を行うナデラ氏(出典:日本マイクロソフト提供)

3つ目「融合したチームの強化」

 ナデラ氏は「テクノロジー関連の求人は、(エンドユーザー企業などの)テクノロジー業界外に多く存在する」として、この状況を「私が望んでいたことでもある」として、あらゆる人たちがDX(デジタルトランスフォーメーション)に参加できるように「Microsoftは最高の開発ツールを提供している」と歓迎する。

 一方で、「1975年の創業時、Microsoftは開発ツールの会社だった。この使命を継続する」として、ITエンジニアのための環境にも注力する。

 「Visual Studio」から「GitHub」「Microsoft Power Platform」「Azure DevOps」に至るまで、「あらゆるスキルの開発者が、統合された組織やチームに参加して、DXを生み出せるように支援している」(ナデラ氏)

 ここで同氏はGitHubに言及した。

 「GitHubは未来のイノベーションが構築される場所であり、オープンソースの核になる。開発者やデザイナー、顧客対応の専門家がコラボレーションする場でもある。中でも、OpenAIとGitHubが開発したプログラム支援AI「GitHub Copilot」は素晴らしいイノベーションだ。現在GihHubに存在するプログラムコードの約40%がここで生成され、50%も生産性を高めている」と述べた。

 また、Microsoft Power Platformによって、ドメインエキスパートやシチズンデベロッパーなどの参加も可能になり、あらゆる場所で変革的な効果をもたらせることを強調した。

 「Microsoft Power PlatformもAIを使用しており、自動化が可能だ。日本で適用が進むRPAでも効果を発揮する」

 ここでの事例に、ナデラ氏はメルカリを挙げた。

 同氏によれば、メルカリは社内のソースコードをオープンにする方法としてGitHubを使用しており、1400人の開発者が積極的に利用している。また事例の2つ目として花王を挙げた。同社はMicrosoft Power Platformを使用して、全国10の工場で200以上のアプリケーションを開発。これまで開発経験がない人が、ワークフローの自動化や紙のデジタル化を推進していると紹介した。

 「大切なのは技術ではなく、従業員全員がDXに参加することだ」(ナデラ氏)

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ