ローコード導入「うまくやる企業」が守る5原則CIO Dive

ITプロのリソース不足を補うとして期待されるローコードツール。だが導入には一定の成功法則があるようだ。

» 2022年11月25日 15時00分 公開
[Lindsey WilkinsonCIO Dive]
CIO Dive

 プログラムコードをあまり使わずにシステム開発ができるローコードは、これまで何年にもわたって技術リーダーに活用されてきた。ドラッグ&ドロップ機能を使って簡単にアプリケーションを構築できるため、市場投入へのスピードが短くなり、専門知識を持たない人でも開発が可能になった。

 2021年のGartnerの調査によると、2024年までにローコードはアプリケーション開発の約3分の2を占めるようになると予測されている(注1)。

 企業がローコードを導入すべきか否かは、ROI(投資利益率)や具体的なユースケースによっても異なる。しかし、ローコードによる開発が企業にとって有益だと証明されるにつれて、その導入に価値を見いだす企業は増えていくのではないだろうか。本記事では、ローコード技術を使って課題を解決した2つの企業事例を紹介しよう。

ローコードによって人材不足の課題を解決したPark Industries

 石材や金属を加工する業者向けのCNC(コンピュータ数値制御)装置を製造するPark Industriesの技術リーダーであるデイビッド・ロイド氏は、膨大なアプリケーション開発のやり残しや、データの不整合、時代遅れのシステム、技術者不足といった課題に頭を悩ませていた。

 ロイド氏は2つの開発チームを管轄しており、そこでは多数のシステムが稼働していた。そのため、現行のシステムをサポートしつつも運用の可視性に優れ、かつコストを抑えられるソリューションが必要だった。

 そこでロイド氏は、2022年10月にフロリダ州オーランドで開催されたITのトレンドが結集するカンファレンス「Gartner IT Symposium/Xpo」において、「これまでのアプリケーションや技術のプラットフォームのアップグレードをすることを検討しています」と語った。

 同社にとって、既存のプラットフォームを変更することは、かなり勇気のいることだった。予算が限られているため、ベンダーを固定化すれば、価格が予想以上に上昇したときに切り替えが必要になるかもしれない(注2)。また、一度ローコードのプラットフォームを利用してしまうと、そこから抜け出せなくなるという不安もあった。

 こうした幾つかの懸念を抱えながらも、ロイド氏はさまざまな製品を検討して、ローコードプラットフォームの 「OutSystems」 を採用することにした。

 「ローコードに移行した主な理由は、このままでは会社に必要な人材が確保できないこと、これまでと同じ方法ではアプリケーションの保守が難しいことです」と、ロイド氏は語る。

 ロイド氏の勇気ある決断は、結果的に功を奏した。ローコードを導入して以来、Park Industriesではソフトウェアアプリケーションの開発が10倍速くなり、テストに要する時間も短縮できて、年間25万ドルの節約に成功したという。アプリケーション1つ当たりの投資額も、従来の開発方法に比べて74%も削減できた。

 このような結果を受けてロイド氏は、技術リーダーはローコードプラットフォームに対して積極的に投資した方が良いと勧めている。導入を迷う企業に向けて、ロイド氏はこう語った。

 「ローコードの導入を決断する上での最大のポイントは、導入によって起こり得るリスクへの恐怖心を克服することです」

市民開発者を積極的に活用して成功したServiceNow

 ローコードのアプリケーション開発を行う際に、忘れてはならないのが「市民開発者」の存在だ。社内でITとは接点のない業務部門の人材、もしくは社外の人材を活用して開発を行うことを「市民開発」と呼び、専門知識を持たずに開発に関わるこうした人材のことを「市民開発者」という。エンジニアの人材不足が続く中、企業は遅かれ早かれ市民開発者に目を向けることになるかもしれない。

 IT業界団体のComputing Technology Industry Association(CompTIA)がCompTIAが米国労働統計局の統計を調べたところ、2022年9月の技術職の失業率は2.1%だった。求人件数自体は前月比で減少したが、依然として30万2000件もの技術職募集がある。

 このように、エンジニアが不足しているにもかかわらず、多くの企業は技術に精通した人材を求めている。こうした問題の解決策を握っているのが、市民開発者だ。Gartnerの調査によると、企業の5社中2社以上が、2019年に市民開発者の活用に乗り出しているという(注3)。

 クラウドサービスを展開するServiceNowでは、すでにローコードとノーコードの技術を活用して、多くの市民開発者がアプリケーションを開発している。同社では2022年に約100の新しいアプリケーションが構築され、デプロイされた。同社のCDO(最高デジタル責任者)のクリス・ベディ氏によると、そのうち約68%が市民開発者によってデプロイされたものだという。

 例えばインターンとして就業体験をしていた大学2年のある学生も、ServiceNowの市民開発者プログラムに参加した一人だ。ZDNetによると、この学生はコーディングやアプリケーション開発の経験がないにもかかわらず、市民開発者プログラムに参加して3週間以内で、自分や知人のニーズを満たすアプリケーションを構築できるようになったという(注4)。

 もちろん、模倣アプリケーションが流出しないよう注意する必要があるため、同社ではガードレール型のセキュリティや、ガバナンスモデルの利用を強化している。

 ServiceNowが実践した市民開発のフレームワークは、次の5つのシンプルなステップで構成されている。

  1. 登録する 市民開発者がアイデアを提案する
  2. 評価する 開発者がIT部門と連携して、そのアイデアを評価する
  3. 有効にする アイデアが承認されると、市民開発者はトレーニングを受ける。トレーニング完了後、証明としてバッジを受け取る
  4. 開発する 市民開発者が実際にアプリケーションの構築、テスト、反復処理を行う
  5. デプロイ 市民開発者が構築したアプリケーションをIT部門が確認、修正して、問題なければ本番環境にデプロイする

 このフレームワークにより、社員全員が自分の仕事に役立つアプリケーションのアイデアを生み出して、より効率的に仕事ができるようになる。また、セキュリティ標準を徹底すれば、複数人で同じアプリケーションを作ってしまうといった事態も防げるだろう。

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