機械学習導入で経営陣に求められる取り組み ニトリCIOに聞いたニトリのデータ活用(2)

2019年から機械学習の活用に取り組むニトリでは、経営陣は何を実行する必要があったのか。社内で機械学習の普及と活用を推進するために必要な「ロードマップ策定」「ツール選定のコツ」、そして「今後の取り組み方針」が分かった。

» 2022年12月19日 12時57分 公開
[関谷祥平ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 ニトリは2019年より機械学習に取り組み始め、これまで物販や通販、管理業務などに活用してきた。ニトリの小林 桂氏(情報システム改革室)は、「ニトリのデータ活用(1)」で、「機械学習で『成功事例についてなぜ成功事例することができたのか』『失敗はなぜ失敗なのか』を常に研究でき、そこからイレギュラーの発生を防ぐ予測が生まれている。結果として、顧客満足度の向上にもつながる」とその成果を評価した。

 小林氏が語る機械学習導入の話は「現場での取り組み」が中心だったが、経営陣はどのように取り組むべきなのだろうか。ニトリでCIO(最高情報責任者)を務める佐藤昌久氏に聞いた。

まず企業に必要なのは「ITロードマップ」

佐藤昌久氏

 佐藤氏は2020年にCIOに着任して、これまで社内における機械学習の普及や成長に取り組んできた。同氏は当時を振り返り、「2019年や2020年は機械学習やデータドリブンといった取り組みが社会的に存在はしていたが、まだ確立されていない時期だった。ニトリでも個人単位で取り組み始めている者はいたが、組織的ではなかった」と話す。

 機械学習の導入を社内で浸透させていくために、まず佐藤氏が取り組んだことは「ITロードマップの策定」だ。ITロードマップの中には、企業として取り組むべき重要施策があり、ニトリはこの中に「データ分析」という柱を作った。

 同氏は、「ニトリとしてこれまでさまざまなデータに関する施策や取り組みを行ってきた」と話す一方で、その実績と外部の実績を照らし合わせると「まだまだ足りない」と考えており、「データの世界の広さ」「取り組むべき施策の多さ」が見えてきた段階と現状を分析する。

 では、どのようにしてITロードマップを策定すればよいのか。重要なのが、その組織に合ったITロードマップを作ることだ。

 「企業としては未知の領域でも、その中には広い世界が広がっている。「PoC」(概念実証)のレベルでも構わないから、まずは組織に合ったITロードマップを策定して、それに沿って取り組みを継続することが重要だ。そのためには『組織の課題は何なのか』『組織が目指す目標はどこなのか』を理解する必要がある」(佐藤氏)

ツール選定のコツは

 機械学習の取り組みを推進する中でDataRobotの製品を採用している同社は、経営陣はどのようにしてベンダー選定を行ったのか。

 佐藤氏は「多くのソリューションやベンダーが存在する中で、決してDataRobotにこだわっているわけではないが、ツールとして考えたときにニトリにとってエントリーしやすいサービスがDataRobotだった」と導入経緯を話す。

 同氏は「ツールの選定基準」について、「明確にあるわけではないが」としながら「ユーザーのレベルに適しているか」「利用開始の簡易さ」を挙げた。

 企業の状況やゴールが異なるように、ベンダーのサービスにも特徴がある。ここが双方でかみ合わないと、「サービスを社内で浸透させること」「事業として拡大させること」は難しい。また、サービスの利用開始段階で工数がかからないことも重要だ。ここで障壁が多いと、組織としてスピードを保つことが難しい。

 「これらを乗り越えた上で、そのツールが『今後のビジネス拡大にも対応できるか』『変えるべきなのか』を判断できるようになるだろう」(佐藤氏)

ニトリが機械学習を駆使して目指すゴールとは

 佐藤氏は、ニトリが2032年までに目指すゴールとして「3000店舗売上高3兆円」を挙げた。

 「これは現在の約4倍程度の規模で、簡単なゴールではない。これを達成するために企業として何に取り組むべきなのかを考えたときに、それは『ITの進化』『データ分析』だ」

 ここでも重要となるのがロードマップの存在だ。「この10年間でどのような課題があり、それらをどう乗り越えていくのか。データ分析だけでなく、それ以外でも検討しなければならないことは多い。まずはITロードマップで課題を構造化して必要な柱を立てることだ。『サプライチェーンの再構築』などは柱として立てやすいが、データ分析は知見が少なく、簡単ではない。だからこそ取り組まなければ目標にはたどり着けない」

 では実際に機械学習の取り組みは、3000店舗3兆円を達成するために寄与しているのか。同氏は「まだ大きな実績は出ていない」と現状を語る。

 同氏によれば、これまで蓄積してきたデータの活用は進んでいるが、これまでニトリが持っていなかったデータも現在は必要になっており、それらを集めるのが今の段階だという。また、データドリブンな組織として進化するためには、データアナリストなどの人材が足りていないと同氏は続ける。

 「必要なデータが集まり、それらを扱える人材が現場だけでなく、経営側にも配置されてやっとスタートラインに立てる。その結果として課題解決に必要な打ち手が提案できる。ニトリは目標達成のために引き続き取り組んでいく」(佐藤氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ