「FAXまみれ」は日本だけじゃない 固定電話回線が大好きな英米の事情CIO Dive

ファクシミリは半世紀にわたり多くの企業で使われてきた。だがさまざまな情報伝達手段が登場した現代においては、無用の長物といえるのではないだろうか。だが実態は全く異なっているようだ。

» 2022年12月07日 11時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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 英国の通信・放送の規制機関であるOffcomは2022年11月初旬、以前はオフィスの至るところにあったFAXの使用を撤廃する意向を発表した(注1)。

 この措置が承認されれば、英国の通信事業者はFAXをサービスの対象外とすることができる。

 1960年代半ばに「Magnafax Telecopier」としてビジネスにおける有効な情報技術となったFAXは、その前の「Selectric typewriter」や後に登場するフロッピーディスク同様、当時の技術では驚異的なツールだとして脚光を浴び、効率化やコスト削減を実現する必携の革新技術だった。

 それから50年以上たった今、より速く、より安全で、よりアクセスしやすい通信手段を、全てのオフィスワーカーが気軽に使いこなしている。

 それでも、プリンタの近くやコピー機の中、あるいはオフィスの冷水機の近くでFAXを見つける機会はまだある。

「紙詰まりを起こしやすいプリンタの次に役に立たない製品」なのに使い続けられる理由

 マーケティング会社Spiceworks Ziff Davis(SWZD)のシニアテクノロジーアナリストのピーター・ツァイ氏は、「ITの専門家は、口をそろえてFAXは古い技術だと言うでしょう。現代ではもっと優れた代用品がたくさんあります。FAXは、紙詰まりを起こしやすいプリンタの次に役に立たない製品です」と述べる。

 しかし、FAXの根強さは、2018年にSWZDが行った約1400人のIT専門家を対象とした調査でも証明されている。回答者の3分の2がいまだに「自社でFAXを使用している」と答えているのだ(注2)。

 FAX機メーカーBrother Internationalでプロダクトマーケティングのシニアマネジャーを務めるシェリー・ラドラー氏は、「ヘルスケアの分野では依然としてFAX機能に強い関心が寄せられています」と電子メールで述べている。

 FAXは耐久性が非常に高く、それが信頼性を高める要因の1つだ。調査によると、30%以上の企業が10年以上FAXを使い続けたと回答しており、5年以上使用したと答えた企業は85%にも上るという。

 ツァイ氏がSpiceworksのコミュニティーで行った非公式の調査によれは、200人の回答者のうち42%が現在もFAXを使用しており、さらに22%が「電子FAXサービスに加入しているオフィスで勤務している」と回答した(注3)。

 「FAX単体への関心は続いていますが、近年はオールインワンで対応できるプリンタへの移行が始まっています。さらに、スキャン機能を備えた機器への関心も高まりつつあります」とラドラー氏は述べている。

 ところが「法律事務所や病院、政府機関や保険業界、そして医療機関はこの波に乗り遅れている」とツァイ氏は言う。ある回答者は次のように答えたそうだ。

 「私たちヘルスケア産業にいる人間にとっては、物理的なデバイスがあることはもとより、自前のFAXサーバを持つことに対しても何の不便も感じていません」

 FAXが一部の層から非難を浴びる原因は、デジタルの世界においてアナログ技術が軽視されているからといった理由が挙げられるが、それだけではない。OSのアップデートに追われるIT担当者にとって、固定電話回線を必要とするFAXは不便極まりない存在だ。「使用するのに苦痛を伴い、イライラさせられるだけです」とツァイ氏は話す。

米国はさらなる固定電話回線の「しばり」も

 英国がFAXに引導を渡す一歩手前であるのに対し、米国では固定電話が鳴り続けている。米国保健社会福祉省(HHS)は、老人ホームでの検査結果、医療記録、医療指示の送信に、HIPAA準拠の方式としてFAXを推奨しているのだ(注4)。

 「FAXを使うことを禁止する法律が制定されない限り、FAXがなくなることはないでしょう」とツァイ氏は言う。「使い方は簡単で、技術に疎い人でも使えます。だからこそ、FAXは強制的に排除されない限りずっと残り続け、世界中のIT専門家の悩みの種になるでしょう」と語った。

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