DXに多くの企業が取り組む一方で、「自分事」ではなく「言われるがまま」にプロジェクトを推進している企業も多いようだ。その結果、本当の変革が起きない状況が生まれているという。このような状況を打破するために有効な「ある手法」とは。
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「DX(デジタルトランスフォーメーション)」――。この言葉が聞かれるようになり久しいですが、一方で、「コンサルタントと計画を立てたが思うようにDXが進まない」「実態はITシステム導入のみで、本当の変革につながっていない」といった声も耳にします。
本稿は、筆者がコンサルタントとしてさまざまな組織の変革を支援する現場で感じた、ある「思い」と、その処方箋の一つである「デザイン思考」について紹介します。
昨今、DXの文脈でも耳にすることが増えてきた「デザイン思考」という考え方。一方で、「新たな事業アイデアの発想やユーザー体験(UX)を設計する人たちが使う特殊な考え方」として捉えられがちです。本連載は、筆者が元コンサルタントとして得た経験をふまえながら、デザイン思考(Design Thinking)を身近な思考法として紹介します。
筆者はかつて、外資系コンサルティングファームでクラウド戦略などをテーマにさまざまな組織の変革を支援していました。それらの支援は「ITシステムのクラウド化をどのように進めるか」といった技術的な内容はもちろん、「人材や組織の在り方、プロセスの見直し」といった内容も含みます。
コンサルタントが仕事を進める際に使用する有名な思考法には、伝えたい主張(結論)に向けて分析的、体系的に情報を整理し筋道を立てる「論理的思考」(Logical Thinking)や、限られた時間の中で検討を進めるために仮説を素早く構築し、仮説の検証と修正を繰り返す「仮説思考」などがあります。
変革を推進するために、コンサルティングプロジェクトの現場ではこれらの思考法で考えを整理して利害関係者(ステークホルダー)に提示し、そこから議論を重ねて実行計画に落とし込みます。
プロジェクトは「数週間での戦略策定」といった短期プロジェクトから、「数年かけて実行と定着化まで伴走する」長期プロジェクトまでさまざまで、その中身も千差万別です。同じプロジェクトは1つとしてありませんが、ここで共通するのは「コンサルタントに相談する組織には、何かしらの困りごとやかなえたいことがある」ということです。
コンサルティング報酬は決して安くありません。相対する企業は日々苦労しながら売上を作り、さらにコスト削減などに取り組んで生まれたお金から報酬を払うわけですから、コンサルティングプロジェクトの責任者として品質責任を持って収支管理をしていると、「報酬に見合った価値を出せているだろうか」「本当に企業のためになる仕事ができているだろうか」と日々りつぜんとする思いでした。
苦楽をともにした企業とも、最終報告会で別れの時を迎えます。これらの繰り返しの中で筆者が次第に意識するようになったのは、「この企業の将来のために何を残せるか」ということです。
コンサルタントは時に「企業の医者」と呼ばれますが、私は「医者いらず」に導ける医者を目指していました。
コンサルタントが描いた戦略を実行するのはその組織を構成する人です。コンサルタントがステークホルダーと合意形成して実行計画を立て、その施策をトップダウンで現場に落としても、実行を担う人たちの気持ちや行動がなければ変革は進まず、結果的に不幸にもなりかねません。しかし、「コンサルタントが常駐して実行を担い続ける」というのにも疑問がありました。
「この組織の将来のために何を残せるか」ということを考えると、「水を与えるだけでなく、井戸の掘り方を教える」ことが重要です。「コンサルタントがいなくとも変革できる」組織になるために手伝いができないものかと考えるようになりました。
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