”論理的な正しさ”は響かない? DXを自分事として推進するための処方箋脱「丸投げDX」のための「デザイン思考」の使い方(2/2 ページ)

» 2023年01月24日 08時00分 公開
[小原 誠ネットアップ]
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なぜ”正しい”提案が受け入れられないのか? PPTフレームワークで考える

 コンサルタントが先を見越しながら、一種の「触媒」として組織の中で変革をまわす裏方役となることで、組織は変革を「自分ごと」と捉えて自ら推進していきます。まだ「DX」という言葉が広まる以前から、このようなスタイルを実現するにはどうすればよいのかを自問自答し、対話型組織開発の方法論などを自学習していく過程で行き着いたものの一つが「デザイン思考」という考え方でした。

 「デザイン思考」という言葉を耳にしたことがある方も多いでしょう。例えば、建築家は将来その家に住む人の生き方や暮らし方などを思い描き、図面や模型で試行錯誤しながら設計を進めていきます。デザイン思考とは、そのような「デザイン」の現場で培われてきた思考法です。

 デザイン思考は「デザインスプリント」(開発の前段階でアイデアの価値を検証する手法)などの開発方法論のベースです。経済産業省が2018年に発行した「DXレポート」で取り上げられたこともあり、ここ5年ほどで事業現場でも脚光を浴び、今ではさまざまな解説記事や書籍が並んでいます。

 一方、このデザイン思考は「新たな事業アイデアの発想」や「UXデザインと試作検証の場での思考法」として語られることが多く、「企画やUXデザインといった世界で使う特殊な考え方」として受け止められがちです。「デザイン」という言葉から、議論をリアルタイムでイラストにして整理する「グラフィックレコーディング」と混同されることもあるようです。

 しかし、デザイン思考はこれらの場面や限られた人のためだけでなく、企業の事業活動の中でも非常に有用な思考法です。

 その理由を、以下で筆者のコンサルタントとしての経験を振り返りながら解説します。

論理的な正しさよりも”うまく進めるための方法”を探れ

 私がコンサルティング会社に中途入社して間もない頃、当時の上司であるシニアマネジャーは頻繁に「正論は鼻につくものだ」「われわれの仕事は正論で周りを打ち負かすことではなく、物事を前に進めることだ」と話していました。当時は腹落ちしていませんでしたが、その上司と同じ立場になったときその意味がよく分かりました。

 変革を進める上で、着目すべき要素の定義は複数ありますが、よく知られたシンプルな定義に、「人」(People)、「プロセス」(Process)、「技術」(Technology)の3要素(PPTフレームワーク)があります。

 DXの実践アピールの場では、TransformationよりもDigitalがアピールされ、「技術」に注目しがちですが、筆者は「本当の難所は『人』と『プロセス』のTransformationにあり、そこが8割だ」と感じます。

 なぜなら、「人」や「プロセス」に働きかけていくには論理的な正しさだけでなく、「必要性の理解」や「意思の強化、意欲の引き出し」といった感情への働きかけが必要とされるからです。

 「相手が話し聞かせてくれる不満や要望、問題の本質は何か」「どうしたら実行を担う人たちが問題を自分ごととして捉え、誇りを持って問題解決に取り組めるか」などを考える必要があるのです。

双方向でアジャイルにプロジェクトを進めるためにはデザイン思考が欠かせない

 現場の人たちが自分事としてDXを推進できるようにするには、コンサルタントが論理的、仮説的に導出した解(正論)をベースに「一方通行」で議論を進めるのでは不十分です。

 コンサルタントによる一定の助けがありながらも、さまざまな属性を超えて自分たちの言葉で思いを共有、構造化し、自ら問題定義をして、小さな意思決定を積み上げながら、施策を立案し試行錯誤することが重要です。

 デザイン思考が「銀の弾丸」(万能の解決策)だとも、論理的思考が「もはや無用」だとも思いませんが、デザイン思考の核にある「共感(自分事化)」「仮説推論」「試行錯誤」は、真のDXを推進できる組織になるために力を与えてくれると思います。

 デザイン思考の手法(メソッド)はさまざまあるため、目的や時間などの条件に応じて適切な手法を組み合わせて使います。デザイン思考を正しく使えば、役職や組織、年代、性別といった違いを超えて「日々の気付き」や「日々の思い」を共有でき、その結果、組織の課題を「自分事化」できるでしょう。

 デザイン思考は「共に考えて小さな成功体験を積み重ね、『より大きな変革の流れ』を作る場面」で有用な対話手法なのです。

 本連載ではデザイン思考について、幾つかの手法や筆者が経験した事例、実際の現場で使うときの留意点などを紹介していきます。

 連載第2回となる次回は、デザイン思考の手法の中から、「企業の日々の活動の中で比較的取り入れやすい幾つかの手法」を紹介します。

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