IBMが開発したサプライチェーンプラットフォームはなぜ失敗したか?Supply Chain Dive

欧州海運大手のMaerskとIBMはブロックチェーンによるグローバル貿易デジタル化プラットフォーム「TradeLens」のサービスを終了する。“サプライチェーンのデジタル革命を起こすツール”を目標に掲げていたTradeLensはなぜ失敗したのか。

» 2023年01月27日 08時00分 公開
[Edwin LopezSupply Chain Dive]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

Supply Chain Dive

 欧州海運大手のA.P. Moller - Maersk(以下、Maersk)とIBMは2022年11月20日、商用的な利用が普及しなかったとして、ブロックチェーンに対応したグローバル貿易デジタル化プラットフォーム「TradeLens」のサービス終了を発表した(注1)。

 Maerskのビジネスプラットフォーム責任者ロテム・ハーシュコ氏は、声明の中で「TradeLensは、独立した事業として継続困難です。また財務的にも、期待に応えられるビジネスレベルにまで至りませんでした」と、この決定に対して発言した。

 両社は、2023年3月(第1四半期)末までにTradeLensのサービス終了を目標に、発表直後からサービス提供の停止とプラットフォーム廃止に向けた作業を開始している。

TradeLensはなぜ失敗したのか?

 MaerskとIBMは、2018年に世界貿易のためのブロックチェーンソリューションとしてTradeLensを公開し、数十社のパートナーと契約して注目を集めた(注2)。それから間もなく、他の企業も同様の取り組みを発表した(注3)。

 当時、MaerskとIBMの代表者は、サプライチェーンのデジタル革命を起こすツールを作ることが目標だったと「Supply Chain Dive」に語っている。TradeLensは、船荷証券のような文書のデジタル版を作成することで取引を迅速化し、世界貿易を成長させることを目指していた(注4)。

 技術面だけではない。あるIBM幹部が2018年8月の声明で、「このプロジェクトの成功は、全ての利用者に等しく利益をもたらす共通のアプローチで、エコシステム全体をまとめることができるかどうかにかかっている」と述べたように、これは野心的なミッションだった(注5)。

 以来、TradeLensは事業を軌道に乗せるため、国際機関と協力してデータ標準を設定し(注6)、規制当局に許可を申請した(注7)。さらに、できるだけ多くの荷主や輸送会社、データプロバイダー、港湾・税関当局との契約締結に努めてきた(注8)。

 しかし結局、その高い志を実現することはできなかった。ハーシュコ氏は以下のように振り返る。

 「TradeLensは、オープンで中立的な業界プラットフォームとして、グローバルなサプライチェーンのデジタル化を飛躍させるという大胆なビジョンの下に設立されました。われわれは、実行可能なプラットフォームの開発には成功しましたが、完全にグローバルな業界のコラボレーションは実現できませんでした」(ハーシュコ氏)

 TradeLensは豊富なデータを持っていたが、いずれも機密性が高いものばかりだった。サプライチェーンのエコシステムではデータの解析や統合、共有が困難なケースが多いため、普及が遅れてサービスが立ち行かなくなってしまったようだ(注9)。プライベートな可視化ソリューションやブロックチェーン対応ツール、政府のポータルサイトなど、多くのプラットフォームが長年にわたって提案されてきたが、大規模な導入に至ったものはほとんどなかった(注10)(注11)(注12)。

 海上コンテナ輸送会社Vespucci MaritimeのCEO兼パートナーであるラース・ジェンセン氏は、TradeLensは5年前にブロックチェーンの誇大広告から生まれたが、今回の失敗は技術を非難するものではないと「LinkedIn」への投稿で指摘した(注13)。

 それどころか「新しい技術の方向性はどれだけ商業的な利用があったかに左右されるものであり、採用された技術力の問題ではありません」と主張している。

© Industry Dive. All rights reserved.

注目のテーマ