ハーバード大の教授が指摘する「BNPL(後払い決済)のリスク」とはPayments Dive

インフレが続く中、消費者の間でBNPLの利用が広がっている。一方で専門家は、金銭状況が悪化する消費者の増加を受け、BNPLの利用に警鐘を鳴らす。

» 2023年01月30日 08時00分 公開
[Caitlin MullenPayments Dive]

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 ハーバードビジネススクールの教授陣による最新のワーキングペーパーによると、購入した商品の支払いを長期間にわたって分割後払いにできる「BNPL」(Buy Now-Pay Later)を利用すると、消費者のリテール商品への総支出額が大きくなることが分かった。

 研究者は約1000万人の消費者から得た銀行とクレジットカードの取引データの中から、40万人を対象にBNPLの利用データを分析した。彼らが2022年8月に発表したワーキングペーパー(同年11月にハーバードビジネススクールも公表)によれば(注1)、BNPLを利用する場合、低所得者ほどその消費額が多いことが判明した。

 研究者によれば、消費者が初めてBNPLを利用した場合、総支出は約130ドル増加し、その後も6カ月間にわたり高水準の支出が続く。また、BNPLの利用でリテールへの支出を中心に1週間当たり約60ドルの支出増が続く。このように、ある分野への支出が流動的に変化することを、研究者は「流動性フライペーパー効果」と名付けている。

賢く使わないと危険なBNPL 以下に当てはまる場合は要注意

 ハーバードビジネススクールのマルコ・ディ・マッジオ教授、エミリー・ウィリアムズ教授、博士課程のジャスティン・カッツ氏らが執筆したこのワーキングペーパーは、昨今の高インフレと金利上昇の中で、多くの消費者を引き付ける決済方法であるBNPLの”リスク”にもスポットを当てている。また、年末休暇の買い物でBNPLを利用する消費者が増加する傾向にあることも指摘している。

 BNPLは消費者の購買意欲を高めるため、店は高い手数料を支払ってでもこの決済方法を提供したいと考えている。一方で、消費者の保護を念頭に置く規制当局にとっては、見逃せない決済方法ともいえる。ウィリアム教授は、「特に出費の多い年末年始などには、BNPLを利用する消費者が自分の支出を十分に把握できなくなる可能性がある」と警鐘を鳴らす(注2)。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を受け、家で過ごす時間が増えた多くの消費者は、銀行口座に余裕のある状態でBNPLを利用し始めた。しかし、現在は経済不況が迫り、支払い延滞が増えている。マッジオ教授は「BNPLのような既存のポートフォリオは非常にリスクが高い」と指摘する。

 BNPLの利用は、消費者が経費削減効果を感じた時に最も多くなる。研究者によると、BNPLでの支出は週給が大幅に下がった時期に増加するという。

 また、BNPL利用者のうち約30%が継続的な利用者だ。BNPLを利用する可能性が最も高いのは低所得者から中所得者であり、持ち家ではなく賃貸であることも研究によって明らかになった。

 BNPLは最終的に、財務的なダメージが大きくなる。BNPLの利用者は、貯蓄を切り崩す可能性が高く、当座貸越手数料や残高不足による手数料が発生することもある。

 研究者によれば、BNPL大手のAfterpayとKlarnaが250ドル以下の商品の決済に多く利用されており、競合のAffirmは主に250ドルから3000ドルの家具や家電などの高価格帯の商品の購入に利用されている。さらにAffirmは、高額商品であるPelotonのフィットネスバイク購入時の主要な決済業者にもなっている(注3)。高所得の消費者は、家電製品のような高額商品を購入する際にBNPLを利用する傾向がある。

 BNPLの利用が普及することで新たなデータが明らかになっている。2022年10月に発表された別の大学教授グループによる研究では、BNPLの利用が当座貸越料やクレジットカードの金利、手数料の増加と関連していることが指摘された(注4)。

 この調査では、「BNPLは消費者に身の丈以上の消費を促し、ヘビーユーザーは健全な財務管理が難しくなる」という報告もある。こうしてBNPLの利用が拡大するにつれ、消費者金融保護局を含む規制当局の監視が厳しくなっている(注5)。

 ホリデーシーズンでは、消費者がインフレに悩まされる中、BNPLの利用がさらに増加すると考えられる。決済システム会社のACI Worldwideのデータによると(注6)、ブラックフライデーからサイバーマンデーにかけて、BNPLの取引額は87%も増加し、取引件数は13%増加した。また、Afterpayも週末にBNPLを利用して買い物をする消費者が増加したとしている(注7)。

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