サプライチェーン管理の課題 イノベーター企業はどんなIT投資で備えているか 日本と世界の違いは

企業経営陣はGX対応をどう捉えているのか。日本とグローバルで何が違うかをIBMが調査した。注目されるのがCSCOの役割だ。

» 2023年01月30日 08時00分 公開
[山口哲弘ITmedia]

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 日本IBMは2023年1月24日、「経営層スタディ・シリーズ:CSCO スタディ 2022」の日本語版を公開した。IBMのシンクタンクであるIBM Institute for Business Value(IBV)が、世界35の国や地域で24業界にわたり1500人のCSCO(最高サプライチェーン責任者)とCOO(最高執行責任者)を対象に実施した調査の結果をまとめたものだ。

 調査では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行やインフレ、気候変動、地政学的事象がもたらすサプライチェーンの課題に対して、CSCOがどのように対処しているか、サプライチェーンの将来性をどのように確保しようとしているかを調べた。

世界のCSCOが今後2〜3年で予期する課題は(出典:日本IBM「経営層スタディ・シリーズ:CSCO スタディ 2022」日本語版)

サプライチェーンのサステナビリティ 日本企業の関心度は高いが……

 今回の調査結果では、サプライチェーンに対するマクロ経済とサステナビリティの影響が増加し、企業のサプライチェーン責任者の戦略的役割が高まっていることが明らかになった。具体的には、世界の変動に対して大きな影響を与える外部要因として、マクロ経済要因(世界52%、日本51%)とサステナビリティ(世界48%、日本47%)を挙げた人の割合が高く、世界全体と日本とで大きな差は見られなかった。この他、世界のCSCOの48%が、通常のサプライチェーン管理だけでなく、「サプライチェーンの変革」が最重要の職責になると認識していると回答した。

 サプライチェーン責任者は、パートナー企業やサプライヤーとの相互接続性を提供し、持続可能な運用と予測可能性を実現するために、AI(人工知能)と自動化技術を取り入れていることも分かった。「過去2年間に新しい自動化技術を導入した」と回答したCSCOの割合は、世界全体で47%だった。透明性と可視性の向上を期待する分野として「信頼できるセキュアなエコシステムとネットワークのデジタル接続」を挙げたCSCOの割合は、世界で53%、日本では56%と世界よりもやや高い傾向だった。

世界全体が投資家と顧客を向く一方、日本はアドボカシーを重視

 今回の調査では、サステナビリティが課題であり、変化をもたらす力でもあることが明らかになった。「今後2〜3年間での最大の課題」を尋ねたところ、「サプライチェーンの混乱」と「テクノロジーインフラストラクチャー」に次いで第3位に「サステナビリティ」が挙がった。

 今後3年間のサプライチェーンにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みとして、「サステナビリティを最優先する」と回答した人の割合は、世界全体で52%、日本はそれよりもやや高く、57%だった。「サステナビリティへの投資によってビジネスの成長が加速する」と回答した割合は、世界全体で50%、日本は59%だった。

 サステナビリティの透明性を求めるのは、特に投資家(世界56%、日本56%)と役員(世界50%、日本52%)が多い。ただし、世界全体においては顧客を挙げた割合も50%と高かった。同じ項目において日本は39%にとどまった。日本の回答では「アドボカシーグループ」を挙げた割合が60%で最も高かった。

イノベーター企業はどんなIT投資で備えているか

 イノベーター企業*の傾向を見ると「不安定な将来に備えてデータドリブンなイノベーションを促進する」と回答したCSCOの割合は、世界全体で20%、日本は13%だった。「自動化されたワークフローを企業全体やパートナー企業と統合し、リアルタイムの可視化、洞察、行動を実現している」と回答したCSCOの割合は、他の(非イノベーター企業の)CSCOより95%多かった。これらの企業のうち、56%がハイブリッドクラウドでサプライチェーンを運用している。また60%がITインフラに投資してそのシステムを拡張して価値を提供している。

*イノベーター企業 ここでは、サプライチェーンの自動化に関して、投資対象が主に「トランスフォーメーション(データ主導のイノベーションの推進)」と回答した企業を指す。

 さらに、これらのサプライチェーン改革の取り組みを通じて「顧客エンゲージメントを向上させる機会がある」と考えている企業の割合はイノベーター企業の58%に上った。サイバーセキュリティーに注力する割合は、他のCSCOより約20%近く高かった。

 このようにイノベーター企業はワークフローの自動化や統合化を、自社やエコシステム全体に広げているが、日本企業の取り組みは遅れていることも明らかになった。実務ベースではパートナー企業と協業してサプライチェーンの混乱に対応する日本企業が多いものの、DXの観点では個別のサプライチェーン機能の変革を進める段階だった。

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