リコーが500人体制でクラウド移行を実現 成功の秘訣は「なぜ」の解消?

DXに取り組む組織が増えるに伴いクラウド活用の重要性が増している。一方でクラウド移行そのものが目的となり、「真のクラウド活用」ができていない組織も多いようだ。クラウド移行を成功させる秘訣と、「なんちゃってクラウド活用」にならないために組織が取り組むべきことを聞いた。

» 2023年02月01日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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リコーの浜中啓恒氏

 多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の柱として「クラウド移行」を進める一方で、その過程には「新旧システムの混在でクラウド移行に膨大な工数がかかる」「本当にそのクラウド移行が必要なのか明確にならず先延ばしになる」といったさまざまな課題がある。これらの課題を持ちながらも、約1年という期間で180のシステムのクラウド移行を含む約7割の基幹システムの刷新を実現したのがリコーだ。

 同社はどのようにして、これだけの規模の基幹システム移行を短期間で実現したのか。リコーのデジタル戦略部 コーポレートIT統括センターで所長を務める浜中啓恒氏に聞いた。

クラウド移行前のシステム状況は”どこから手を付ければよいか分からない状況”だった

 浜中氏は、リコーがクラウド移行する理由に「クラウド移行は業務改革の実現とビジネス変化への柔軟な対応を可能にする最適な手段です。リコーでは『IaaS(Infrastructure as a Service)を利用してインフラの段階的なクラウド最適化』『IaaSを利用してインフラの単純刷新』『PaaS(Platform as a Service)でビジネスモデルの創出とビジネスニーズへの即応』『SaaS(Software as a Service)のパッケージ活用で業務改革』をクラウド移行の軸としています」と話す。

 実際にリコーは同社の中期経営計画の中で、「2025年までに180のシステムの約7割の基幹システムをクラウド環境に移行する」ことを掲げており、2022年8月で既にこの点を実現した。一方で、その過程にはさまざまな課題があったという。

 浜中氏は当時を振り返り「クラウド移行を真剣に検討し始めた段階で、既に目標タイムリミットまで約1年しかありませんでした。細かなことを時間をかけて検討する余裕はなく、予算執行権限をもった責任者が迅速に意思決定をする必要がありました。そこで私がPM(プロジェクトマネジャー)になり、最終的に500人越の規模になるプロジェクトを立ち上げました」と話した。

 浜中氏によれば、移行中の課題として「ソフトウェアのサポート終了に伴う対応」「コード修正」が特に困難だったようだ。

 クラウド環境にシステムを移行をするには、「資産の棚卸し」を実施して組織がどれ程のシステムを抱えているのかを把握する必要がある。リコーもこの作業に取り組み、その中で「利用している多くのサービスがサポート終了している」状況に陥ったという。浜中氏は「これが思わぬ工数増加につながりました」と話す。

 「資産の棚卸しをする前は、クラウド移行は『リフト』で完結すると思い込んでいました。ただ実際にサービスを精査すると、その多くが既にサポート終了しているサービスで、『リフト&シフト』でないと対応できないと気付きました」(浜中氏)

 せっかくリフト&シフトを実行するなら、できる限りシステムをクラウドネイティブなものにしようと、リコーはOSやデータベースも新たな環境に刷新した。一方、リフト&シフトにしたことでコード修正がこの段階で必要となり、予想以上の人員と投資額が必要になった。

 これらの作業を約1年で行ったリコーだが、浜中氏はプロジェクト成功の秘訣(ひけつ)に「なぜクラウド移行するのかをリーダーたちが認識すること。『なんちゃってクラウド移行』は危険です」と話す。

クラウド移行成功の秘訣は「気持ちを一つに」 ”なぜ”を明確にしよう

 浜中氏はクラウド移行を成功させるために「クラウド移行には自社内はもちろん、ベンダーの協力や、時にはコンサルティングの力を借りることもある。それぞれの組織や個人が他の方向を向いていては、プロジェクトの途中で『なぜ』という疑問が出る。これはプロジェクトの遅延や最悪の場合は失敗にもつながる」と話す。

 実際にリコーでもプロジェクトが発足した当初は、誰しもが「なぜクラウド移行するのか」「今のままでも問題ないのではないか」と感じていたという。

 このような状況でプロジェクトを推進すると、クラウド移行そのものがプロジェクトの目的になり、その先にある「真のクラウド活用」を実現できない可能性が高い。これを避けるためにリコーでは、各チームのリーダーを集めてワークショップを実施した。

 「リーダーとのワークショップでは『なぜクラウド移行が必要なのか』『これによって生み出される価値は何なのか』といったことを明確にしていきました。また、実際に他社の事例なども参考にしながら議論を重ね、クラウド移行が私たちに必要なことを理解しました。各個人が明確に『なぜ』を説明できることがチームには必要不可欠です」(浜中氏)

 浜中氏によれば、「ビジネスのスケール拡張」「セキュリティ強化」が特にリコーがクラウド移行の中で意識したことだが、チームの中ではなかなか『なぜ』がなくならなかったという。

 「ITチームに所属しているメンバーでさえも、プロジェクト発足の段階では『3つほどのシステムしかクラウドに移行できない』と話していました。『やらない理由』は簡単に見つけられます。そんな状況からプロジェクト成功を実現できた理由はやはり『認識のすり合わせ』と『危機感』です。後回しにすればITコストの削減を実現できますが、それでは長期でのビジネス成長は期待できません」(浜中氏)

クラウド移行を経て、リコーは”変化”を感じているのか

 これだけの規模のクラウド移行を実現したリコーだが、実際に組織内で変化はあったのだろうか。

 浜中氏は現状を「約7年にわたり同じシステム環境をメインで使っていたこともあり、システムのパフォーマンスは大きく向上しています。一方、『期待通りのパフォーマンスを出しているか』という側面で考えると、コスト面ではまだ最適化の余地があります。ランニングコストは今後、2割以上下がる予定で、パフォーマンスは向上していきます。継続して利用状況をモニターしチューニングしてくことが重要です」と解説した。

 浜中氏は最後に「自社だけでなく他企業の皆さまとの共創を通じて、(元気のない)日本全体を盛り上げていきたいですね」と話し、インタビューを終えた。

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