Web3を知らない人が言う「それただのブームでしょ?」が間違いな理由

「Web3はただのブーム」。果たして本当なのか。

» 2023年02月10日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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 ブロックチェーンを活用したサービスである「Web3」の活用が社会で広がりを見せている。Web3の中でも、特に多くの企業が取り組んでいる/取り組みやすいサービスが「NFT」(Non-Fungible Token:非代替性トークン)だ。一方、エンタープライズ企業の間では「一過性のサービスだ」との見解が多いのも事実で、このような意見の背景には米国を中心に起きた「Web3バブル」が関係している。

 あらゆるものとNFTトークンを組み合わせてビジネス化し、投機対象として注目が集まったことで起きたWeb3バブルだが、取引市場の混乱などをきっかけにはじけた。しかし、バブルがはじけたことで多くの投機家が市場から姿を消し、NFTが「真の活用段階」に入っていくとも考えられる。

 現在、企業におけるNFT活用はどのようなフェーズに来ているのか。新しくNFTサービスに取り組みたい企業は何を意識すべきなのか。企業の悩みを聞いた。

はじけたバブル 企業のNFTへの取り組みはどうなっている?

赤川英之氏

 2021年後半からNFTバブルが顕在化した一方で、2022年は企業におけるNFT活用が大幅に増えた年でした。NFT誕生初期はアート分野を中心に活用が拡大しましたが、最近では「GameFi」(注1)を中心とするアート以外の領域でも活用が拡大しており、NFTの応用によってさまざまなサービスが誕生しています――。こう話すのは、NFTサービスを手掛けるシンシズモでCEO(最高経営責任者)を務める赤川英之氏だ。

 同氏は、企業のNFT活用について「2022年の後半から分野を問わず『NFTサービスに挑戦したい企業』が増えました。一方で、彼らの大半が『何から取り組めばいいのかが明確になっていない』状態でした。企業の中にはWeb3スタートアップなどが提供している『NFT配布ソリューション』などを活用し、実際にNFTの配布を始める組織もありましたが、そのあとのフェーズである『配布してその後はどうする?』という疑問を解消できていない企業が依然として多いです」と見解を述べる。

 「NFT配布を経てどのように既存ビジネスとつなげるか」がNFTに取り組む企業の大きな課題になっている中で、赤川氏は「他にも企業は課題を抱えています」と指摘する。その課題が「技術面」と「法規制面」だ。Web3が新たな概念、サービスであることから、組織としてNFTなどに取り組みたくてもそれらに知見を持つ人材が社内にはいない。また、Web3に関する法規制はまだまだ未熟と言え、企業にとってはネックになりがちだ。

 「NFTサービスに取り組むに当たり、技術的な課題に加えて法規制面でも課題を持っている企業が多くあります。だからこそ、これらにどう取り組むかで今後の差別化が期待できます」(赤川氏)

企業はどう取り組むべきか 

 赤川氏はWeb3の魅力に「デジタルデータに”個数”が生まれたことがWeb3の最大の価値だと思います」と見解を述べる。これまではデジタルデータの権利証明は困難だったが、ブロックチェーンであればそれが可能になる。赤川氏は「Web3では、デジタルデータを技術的に評価できます。私たちはこれを生かし、権利の流動性を高めたいと考えています」と話す。

 「権利の流動性を高める」について、赤川氏は以下のように解説した。

 「不動産の所有権であれば、これまでは煩雑な手続きをしないと取引が成立しませんでした。また、イベントのチケットであれば転売などの二次流通が問題になることもありますが、私たちは転売そのものよりも発行者に手数料が入らないシステムが悪いと考えます。NFTであればお金の流れを発行の前段階で設計できるので、最初の発行者にも売り上げを配分することが可能です。不動産の所有権に関しても、設定次第で簡略化することができます。NFTはユーザーのニーズに合わせて適切なソリューションを提供でき、このような背景からWeb3サービスがマーケットで中心になる未来は間違いありません」(赤川氏)

 しかし、企業にとっての「Web3を活用するメリット」を判断することは難しい。

 赤川氏はこのような意見に対して「現時点では、Web3はマーケティング領域に偏っています。重要なことは、組織にとって最適なユースケースを模索することです。Web3サービスの活用において、誰も正解が分かっていません。少しずつ取り組み始めることで、知見や経験を先取りでき、将来に差をつけられます」と話す。

 実際にNFTをはじめとするWeb3サービスに取り組む際は、既に知見のある企業と協力することはもちろん、Web3関連企業が主催するイベントや交流会などへの積極的な参加も有効だ。「自分たちがWeb3で成し遂げたい目標は実現可能なのか」「その過程では何が必要なのか」といったことを議論でき、そこから協業につながることもある。

 一方で赤川氏は、「やみくもにWeb3への取り組みを始めればいいという話ではありません」と警鐘を鳴らす。

 「Web3が本質的に追い求めている『分散性』を企業の既存ビジネスと結び付けることは簡単ではありません。そこで、折衷案を選んでサービスを始めるケースも現状はありますが、それでは本当のWeb3の未来はありません。自社でサーバをもって『Web2.0のように』Web3に取り組むケースもありますが、それでは本来のメリットを享受できないでしょう。企業は『本当にそれをWeb3として推進する必要があるのか』『本当にそれはWeb3なのか』を常に考える必要があります」(赤川氏)

 まだまだ新しいWeb3の世界だからこそ、少しずつ取り組みを推進することで将来的に大きな差を生むかもしれない。

注1:GameFiは、GameとFinanceをつなげた言葉。「プレイしてゲーム外でも価値がある暗号資産やNFTを獲得できるゲーム」を指す

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