あなたのCRMは顧客を正しく理解してますか? Microsoftのビジネスアプリケーション(CRM編)DX 365 Life(3)(2/3 ページ)

» 2023年02月21日 08時00分 公開
[吉島良平ITmedia]

いつになったらCRMは完成するのか

 「いつになったら弊社のCRMは完成するのか」という声も筆者は耳にしてきました。ゴールの定義が明確ではないと、このような状態に陥ります。

 ズバリ言うと、ビジネスの変化に合わせて要望事項が変化するため、システム構築に、完璧なゴールなどは定義できません。PoC(概念検証)やCRP(Conference Room Pilot)を繰り返し、その時点で定義したゴールを目指してアプリケーションをリリースするしかないのです。イテレーション(一連の工程を短期間で繰り返す開発方法)を実施し、データを蓄積し、柔軟に戦い方を考えられるチームを作る必要があります。そのためには内製化が必須です。内製化については、第4回のローコード編で解説をします。

改めて“顧客接点”を考える

 ラグビーのプロチーム「クボタスピアーズ」は、“ブレークダウンを制する者、試合を制する”というフレーズを打ち出しています。ブレークダウンというのはボールを持つプレイヤーにタックルした際に、複数プレイヤーが行うボール争奪戦のことです。誰よりも早くその場所に到達し、激しく相手とボールを奪い合うブレークダウンは、ビジネスにおける顧客接点(カスタマータッチポイント)の獲得と同じです。

 ビジネスにおいては、マーケティングやSFA、カスタマーサービス、フィールドサービス、プロジェクトサービス、店頭業務などの領域に顧客接点があります。本稿は「MicrosoftのCRM領域の機能群はどのようにブレークダウンを制するか」という内容で続けます。

図3 (出典:筆者作成)

UnknownをKnownへ変えるブレークダウン

 コロナ禍でオンラインショッピングの利用が増えたように、顧客は他にいいものがあればすぐにそちらの商品やサービスを検討し、利用します。企業は顧客と良好な関係を構築してタッチポイント全体でパーソナライズされた体験を提供することで、ロイヤルカスタマーを獲得できます。

 一般的に、リードはMQL(Marketing Qualified Lead)からSAL(Sales Accepted Lead)、SQL(Sales Qualified Lead)へとわたり、優良な案件を営業やインサイドセールスが提案します。

 マーケティングの業務担当者はリードをナーチャリングし、適切なタイミングで営業やインサイドセールスに渡さなければなりません。また、既存顧客の購買体験の情報をもとに次の売り上げ機会を創出する必要もあります。

 では、マーケティング担当者はどのように顧客を知るのでしょうか。

 筆者が所属するTechnosoft Automotiveでは、Microsoftのビジネスアプリケーションを活用して自動車や自動二輪車を販売するディーラーをサポートするシステムを扱っており、「Unknown」をどのように「Known」にするかを重要視しています。

図4 (出典:Microsoftのセミナースライドを基に筆者作成)

 Microsoftのビジネスアプリケーションには、マーケティング領域のサービスとして「Dynamics 365 Marketing」があります。

 マーケティングとして、タイムリーに適切な顧客体験を提供するには各々の企業で重要視するセグメンテーションの定義が不可欠です。年齢や性別、居住地、職業、業種、業態、企業規模などが例です。企業によって狙う顧客は異なるため、顧客のセグメントを定義し、対象者を絞ったPULL型・PUSH型のマーケティング活動が重要です。

図5 (出典:筆者作成)

 Dynamics 365 Marketingでは、セミナーやイベント集客、スポンサー管理、会場レイアウト、セッション内容、登壇者、宿泊手配などを「カレンダー」機能と合わせて管理できます。また、セミナーやイベントサイトを構築し、「Microsoft Teams」(以下、Teams)で開催することも可能です。「Customer Voice」機能でセミナーのフィードバックを行えば、適切なタイミングで次の一手を打てます。

 セミナーやイベントを開くには集客用のDM作成も必要です。Dynamics 365 Marketingには既にテンプレートがあり、DMに入れる画像なども提案してくれます。いつ、誰がDMを開封したのかも確認でき、顧客がDMのどこに注目したのかというタッチポイントも獲得できます。

 リードの確保や既存顧客の興味を喚起するためには、DMのデザインやメッセージも大切です。「A/Bテスト」機能を使えば、複数のDMの中から「どれが顧客に響くか」を検証できます。

図6 (出典:筆者作成)

 A/Bテスト機能では、例えばDMを送付する20%に対してAパターンとBパターンのDMを送信し、開封率の高いほうを残りの80%に送信するなどもできます。

 PDCAを回すためにも、メール送信後の見込顧客のアクションを把握し、メールの再送や停止といった判断が大切です。攻めのDXにはマスターの精度向上という守りのDXが不可欠なのです。また、マスターの情報更新や名寄せをタイムリーに行い、攻めのDXを推進していくために守りのDXをきちんと固めましょう。

 しかし、MQLとしては優良でも、SALのステージになっていないリードもあります。一方、コールドリードがホットリードになるように人海戦術でフォローするのも限界があります。中長期的なフォローが必要な場合、リードスコアリングモデルを定義して(DMを開封したら5ポイント、Webサイトからカタログをダウンロードしたら10ポイントなど)、適切なタイミングで営業やインサイドセールスに引き継ぐなどの対応が必要です。

図7 (出典:筆者作成)

 また、Dynamics 365 MarketingのFormsで生成したJavaScriptを企業のWebサイトに埋め込み、見込顧客がウェブサイトにアクセスしたタイミングでクッキーとアカウントを紐付け、UnknownをKnownのステータスに変えていく事ができます。

図8 Dynamics 365 Marketingのデモ環境(出典:Dynamics 365 Marketing)

 まさに、カスタマータッチポイントを取るブレークダウンの肝がここにあります。

SFA領域

 リードがSALのステージに成長すると、営業やインサイドセールスが商談を進めます。ここでは、“営業がタイムリーに情報を登録しない”という悩みを持つマネジャーや部門管理者も多いでしょう。

 営業担当者も“顧客対応で時間がない”のが現実です。実際、営業の最前線ではタイムリーかつ最適な判断が求められます。顧客に気を配り、多くの情報から必要なものを選択し商談を遂行するため「多くの情報をシステムに登録する」のは現実的ではありません。つまり「Do more with less」(少ない労力で多くを達成する)な仕組みが現場に必要です。

 Microsoftのビジネスアプリケーションには、SFA領域のサービスとして「Dynamics365 Sales」があります。

 SFA領域では、迅速な可視化が重要です。Dynamics 365 Salesでは、ステータス別の売り上げ見込みがダッシュボードで表示され、担当者ごとに自由に設計できます。ドリルダウンで詳細情報の確認も可能です。

 当然、企業には売り上げ目標があります。Dynamics 365ではERP側から実績を、CRM側から見込み情報を収集し、「Microsoft Power BI」(以下、Power BI)で「売り上げ予算vs売り上げ実績+売り上げ見込み」を可視化できます。

 売り上げ達成に関するシミュレーションができていない企業は改善が必要です。商談の受注率なども定義してAIを活用し、目標への着地点シミュレーションができるように社内システムを構築しましょう。

 リード情報を元に発生した個々の商談は「営業案件」として管理され、ヒアリングや提案、価格交渉といった商談プロセスをシステム上で管理すれば営業プロセスの標準化を実行します。営業のステージやステータスは企業によって定義が異なりますが、「業務プロセスフロー」から容易に定義できます。

 例えば「与信限度額の1000万円を超える商談の承認は部長承認」といったものや、条件分岐のフローを定義して「Microsoft Outlook」(以下、Outlook)やTeamsで上長や部長に通知するといった設定も、IT部門で行えます。

図9 Dynamics 365 Sales のデモ(出典:Dynamics 365 Sales)

 どの企業の営業部門でも、オペレーション工数を増やさずに必要な情報を収集するのは大変ですが、Dynamics 365 Sales はOutlookやTeamsで顧客とやりとりした情報を営業案件の画面に自動的にリンクします。

図10 (出典:MicrosoftのWebサイト)
図11 (出典:MicrosoftのWebサイト)

 会話を録音して感情分析や簡易メモ、ネクストアクションなども自動的にまとめるため、営業担当者はオペレーション工数を大幅に削減できます。

図12 (出典:MicrosoftのWebサイト)

 自動化にも手を抜きません。定義した期限の超過など特定の状況が発生した場合はチームや上長に通知をする仕組みを構築できます。また、Power BIを活用して営業ミーティングなどで分析を継続すれば、営業担当者のCRM自体の活用精度が上がるはずです。それでもダメだという企業には、「Microsoft Viva Sales」の活用が有効かもしれません。「Microsoft Office365」やMicrosoft TeamsのデータがCRMに自動に取り込まれます。また、今後はChatGPTとの連携機能も実装され、AIによる効率的なコミュニケーションが可能となるでしょう。

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