AstarとAWSに聞く Web2.0とWeb3の協力が生み出す新たな価値(1/2 ページ)

Web3企業と大手テック企業の連携が進む。時に対照的に語られる両者だが、連携の背景にはどのような狙いがあるのか。Stake Technologies/Startale Labsの渡辺氏とAWSの畑氏に聞いた、それぞれの考えとは。

» 2023年03月01日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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 「Web3」という言葉が広がりを見せ、さまざまなエンタープライズがWeb3に関連するサービスや製品を発表している。国や政府がWeb3に取り組むケースも増えており、実際に岸田政権もWeb3を国家の成長戦略の一つに定めている。

 一方、日本のWeb3を取り巻く環境は、税制や法整備などの課題を抱えてきた。その結果、多くのWeb3スタートアップやWeb3人材は、Web3に関して税制や法整備が進むシンガポールやドバイに渡りそれぞれの活動を行ってきた。

 Web3を国策に掲げる日本が「Web3先進国」になるには、スタートアップの存在が欠かせないが、彼らを取り巻くWeb3の環境はどうなっているのか。Web2.0とWeb3の協業も進んでいるというが、その背景にはどのような狙いがあるのか。

 「Astar Network」を開発するStake Technologiesやインフラの開発、事業コンサルティングなどを行うStartale LabsでCEO(最高経営責任者)を務める渡辺創太氏と、アマゾン ウェブ サービス ジャパンのスタートアップ事業開発部 本部長である畑 浩史氏に話を聞いた。

遅れていた日本のWeb3がトップに躍り出るチャンスは"今" 渡辺氏の意見とは

 Web3スタートアップであるStake Technologiesは、2022年6月7日よりAmazon Web Services(以下、AWS)と提携している。時に「Web2.0」とも呼ばれ、Web3と対照的に語られるAWSなどが、Web3スタートアップと提携することにどのような意味があるのだろうか。

渡辺創太氏

 渡辺氏はAWSと連携することに対し、「Web3の技術は本物です。一方で、この技術を社会に浸透させるには"別の要素"が必要なのも事実です。そのような観点からも、既にプラットフォームを持つ企業や国がWeb3を支援することはとても重要です」と見解を述べる。

 日本でも進むWeb3への取り組みだが、これまでは「遅れている」と指摘されることも多かった。その最たる理由に税制や進まない法整備などがあり、その結果、Stake Technologiesをはじめとする多くのスタートアップ企業が海外で誕生している。

 このような現状にもかかわらず、渡辺氏は「今がチャンスとも言えます」と自信を見せる。この発言の背景には、2022年に起きた「テラ」「セルシウス」「FTX」の3大ショックがある。

 2022年5月に、ステーブルコインである「テラUSD」が崩壊し、テラUSDを裏付け資産にしていた韓国のテラフォームラボの暗号通貨「ルナ」(Luna)の価値が一夜にしてゼロになった。

 同年6月に起きたセルシウスの破産は暗号資産「ETH」に関連したもので、当時は「DeFi」(分散型金融)の「Lido Finance」にETHを預けると、その代わりに「stETH」(債券に相当するトークン)を入手できた。ETHとstETHの価値は連動していたはずだが、テラUSDの崩壊後、ETHとstETHの価格が乖離(かいり)し始め、暗号資産のレンディング業者であったセルシウスは、stETHを大量に保有していたことから精算リスクの波及を防ぐために取引の一時停止を決断した。その結果、セルシウスの支払い不能が危惧され、暗号資産全体の大幅下落となった。

 そして記憶に新しいのが2022年11月に起きたFTXの破産だ。世界最大規模の暗号資産取引所であるFTXは、企業ガバナンスの問題から1兆2000億円を超える負債を抱え破綻した。FTXの姉妹企業であるアラメダ・リサーチの資産は、FTXが発行したトークン「FTT」を担保とした借り入れがほとんどであり、競合の暗号資産取引所であるBinanceがFTTの売却を発表したことで価格が暴落した。FTXは顧客資産をアラメダ・リサーチに流用して投資をしていたことも明らかになっている。

 暗号資産領域において波乱の一年となった2022年だが、なぜ渡辺氏は「チャンス」という風に捉えているのか。同氏は以下のように解説した。

 「2022年は暗号資産領域を中心にさまざまな問題が起き、これまでWeb3に積極的だった国も現在は及び腰になっています。このような状況だからこそ、日本は日本らしい戦い方ができます。日本は数年前に『CoinCheck』のハッキングの問題なども経験しており(注1)、金融庁も厳しく規制を敷いてきました。そのため、FTXの破産による影響なども他国と比べると国内では小さかったと言えます。また、FTXの破産はガバナンスという側面も大きく関係していますが、日本はこの点に強いと言えます。他国がスピードを落としている今だからこそ、日本がトップに躍り出るチャンスと言えます」(渡辺氏)

スタートアップの変化とDAOの魅力

 渡辺氏がチャンスと話す現在のWeb3業界で、スタートアップはどのような動向を見せているのか。畑氏は「これまでのスタートアップと現在のWeb3スタートアップでは明らかに違う傾向があります」と話す。

畑 浩史氏

 同氏によれば、Web3領域では「技術理解が深いスタートアップ起業家」が増えている。これまでの一般的なスタートアップはビジネスサイドに偏っていることが多かった一方、Web3スタートアップでは技術の理解が先行している。また「海外志向が強く、英語でのビジネスが普通になっている」のも特徴だ。

 実際に国内のWeb3関連イベントでも、前半は英語、後半は日本語、といった形式も多く「これまでは考えられなかった状況がWeb3領域では当たり前になっている」と畑氏は評価する。

 渡辺氏もこのような状況に対し「Stake Technologiesも、自分たちが『どこの国の誰だ』という認識は持っていません。つまり、これまでは日本で上場を目指すのが普通だったのが、今は最初から海外で上場を目指しても良いわけです。それを実現できれば、スタートアップのエコシステムをもう一段階、レベルアップできると思います」と語る。

 渡辺氏は将来的に、Astar Networkが「DAO」(分散型自立組織)になることを目指している。DAOという形態で成功している組織は、現在はBitcoinのみといえるが、DAOのメリットを渡辺氏はどのように捉えているのだろうか。

 渡辺氏は「現在存在しているDAOの大半はエコシステムが小さく、組織としてのスピードが失われています。DAOではガバナンスの確立やトークンの活用が大事になるわけですが、これは規模が大きくなった段階での話で、Astar Networkもこの段階のDAO実装を目指しています」と話す。同氏が感じているDAOのメリットはまさに「エコシステムの永続性」にある。

 渡辺氏は「ブロックチェーンはいつでも誰に対してもオープンです。そしてそれが存続していくことに価値があります」と話す。ボトムアップ型で参加できるガバナンスの仕組みがあれば、仮に初期の運営者がいなくても生き続ける組織を作れる。

 「私にも寿命があります(笑)。寿命に関係なくサステナブルに存在し続けるのがブロックチェーンでありDAOの魅力です」(渡辺氏)

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