AstarとAWSに聞く Web2.0とWeb3の協力が生み出す新たな価値(2/2 ページ)

» 2023年03月01日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]
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AWSはWeb3をどのように捉えているのか

 AWSのような企業はWeb2.0と位置付けられることも多く、時に「Web3企業がAWSを使うのは矛盾しているのではないか」という意見も聞く。このような意見に対して畑氏は「Web2.0やWeb3という意見もありますが、私たちはそのような意識は持っておらず、『大事な顧客』であることに変わりはありません」と述べる。

 Web3企業だからといって、ブロックチェーンに関わる作業を全てノードを立てて作業するのは困難だ。であるならば、必要に応じてクラウドなどを活用することも重要になる。

 「最近はWeb2.0やWeb3という言葉の壁は感じていません。われわれとしてはお互いに『使えるところはお互いに使えばよい』と考えています」(畑氏)

 この「Web2.0 vs. Web3」という構図は、「Web3思想家」によって作られているといえる。渡辺氏は「Web3をけん引してきたトップの技術者などは、特にWeb2.0という言葉を使ったり、ライバル視したりしていません」と指摘しながら、「『分散』という言葉に魅了されてWeb3を知った人はWeb2.0とWeb3を対立させたがります」と続ける。

 「Web3の本質は"分散そのもの"ではなく、分散を活用して『選択肢を増やす』ことです。Astar Networkが仮にAWS上で構築されていても、ユーザーはAWS経由で参加するか、自分のサーバで参加するかを決められます。このようにユーザーの選択肢を拡大することが本質です。サービスに関しても全てが分散になれば良いわけではなく、将来的には分散と中央集権の割合などもユーザーが選べるようになるでしょう」(渡辺氏)

 この点に関して畑氏も「ノードを自分で建ててネットワークに参加したい人は多くないと思います。ならその役割をクラウド側で担えば、ユーザーにより便利なサービスを提供できます」とする。

大事なことは「理想を語る」ことではなく「実際に進める」こと

 渡辺氏は2022年9月26日、Astar Networkとして「日本経済新聞」に「Japan as No.1 AGAIN」という一面広告を出した。「Web3で日本をもう一度盛り上げる」という意味が込められたこの広告には、「Web3が国家戦略って矛盾しているのではないか」「Web3がビジネス臭くなるのではないか」といった反響も多くあった。

 このような意見を渡辺氏はどのように捉えているのだろうか。同氏は「私は思想家ではなく起業家です」と話し、以下のように続けた。

 「技術は誕生した段階ではニュートラルです。良いようにも悪いようにも使えます。私はこの技術に対して、『分散は最高だ』と机上のユートピアを語るのではなく、『誰しもがWeb3という技術を気にすることなく暗号資産で毎日決済を行う』ような社会を実現したいです」(渡辺氏)

 常に新たな技術のブロッカーになるのは国や政府だ。中国政府が暗号資産取引を廃止したり、米証券取引委員会(SEC)が暗号資産業者への圧力を強めているのが良い例だろう。このような状況にも、渡辺氏は前向きな意見を持つ。

 「Astar Networkは分散しつつ、ビジネスサイドでは国や政府と共に歩みを進めることが得策です。大事なことはお互いの妥協点を見つけながら進めていくことです」(渡辺氏)

Web3の進化に欠かせないエンタープライズ企業の存在 両者のメッセージ

 エンタープライズでもWeb3関連のサービスが誕生しており、彼らの存在はスタートアップと同様にWeb3の成長に欠かせない。渡辺氏はエンタープライズに対して、「分散という言葉が先行しすぎてはいけません。全てのソリューションが分散される必要はなく、『分散されるとどのような利点があるのか』を見極めなければなりません。その本質には『ユーザーにとって使いやすいサービスとは』という問いがあります。暗号資産取引所などをはじめ、中央集権的な仕組みのほうが良いサービスもあるわけです。日本から世界で戦える産業を再び生み出すには、Web3や量子コンピュータ、核融合などしかありません。日本のエンタープライズはこれらに大規模に取り組むことができる強みを持っています」(渡辺氏)

 畑氏も「日本のエンタープライズがスタートアップに興味や関心を持つことで見える世界があります。Web3領域では技術で世界を変えようとする起業家が多く、政府も本腰を入れています。AWSと日本のエンタープライズがスタートアップに関して協力すれば、新たな価値を生み出せるはずです」と見解を述べた。

 エンタープライズとの協力が今後のWeb3発展には欠かせないと語る両者。実際に渡辺氏が率いるStartale Labsは2022年2月17日、ソニーネットワークコミュニケーションズと「Web3 Incubation Program Powered by Sony Network Communications and Astar」(2022年3月中旬〜6月中旬)を共同開催すると発表した。

 さまざまなエンタープライズとWeb3スタートアップの協力が進む。その結果、Web3が社会でどのような役割を果たすようになるのか。渡辺氏が示したような社会は実現するのか。今後に注目だ。

握手をする両氏

注1:2018年1月26日、暗号資産取引所のCoincheckより暗号資産のネム(NEM)がハッキングされて盗まれた

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