米国ホンダはAI戦略を成功させるためにデータ活用に注力している。IT責任者は、データ戦略のポイントは「あるデータにある」と話す。
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American Honda Motorは、生成AIのビジネスにおける可能性をいち早く気付いた企業の一つだ。
LLM(大規模言語モデル)への関心が急激に高まった2023年初め、同社はイノベーション推進の一環としてLLMを「試運転」した。その結果、打ち出したのが、全社的に生成AIを組み込む方法を見極めるための5つの戦略だ(注1)(注2)。
American Honda Motorのボブ・ブリゼンダイン氏(IT担当バイスプレジデント)は、「2023年1月にMicrosoftがOpenAIへの投資を大々的に発表したのは、注目すべき出来事だった。これによって、生成AIの力が現実的なものとして感じられた」と2024年3月第4週に「CIO Dive」が実施したパネルディスカッションで語った。
同氏はまた、LLMのパフォーマンスの問題から全社的な従業員のスキルアップに至るまで、さまざまな課題が待ち受けていることを認識している(注3)(注4)。
「ユーザーも増加しており、ユースケースの幅は飛躍的に広がった」(ブリゼンダイン氏)
AIの導入は、企業のデータ資産の核心に関わる。データの価値を高め、技術変革の可能性を引き出すために、IT部門はまずデータストアへのクリーンな経路を確保し、ガイドラインを整備した上で信頼性を確かめるためのチェックポイントを設けなければならない。
ブリゼンダイン氏は、「モデルドリフト」と呼ばれるLLMにおける予測精度の低下や、チャットbotの流ちょうな言い回しにユーザーが「不意を突かれる」ことを特に警戒しているという。
それらの懸念点を念頭に置きながら、American Honda Motorは広範なAI戦略の中心にデータ戦略を据えた。
「われわれは社内におけるデータの重要性を高めた。データをIT組織で最上位レベルに置き、CISO(最高情報セキュリティ責任者)やCPO(最高プライバシー責任者)と同列に扱っている」(ブリゼンダイン氏)
American Honda Motorのような企業は、LLMが可能にする処理能力と速度によって大きな利益を得られると期待している。ただし、OpenAIが提供する「ChatGPT」をはじめとする生成AIがもたらすもっと大きくて直接的な変化は、多くの人々にAIへのアクセスを可能にすることだ。
ブリゼンダイン氏は、「AIの民主化」について「AIとデータの取り組みのほぼ全ての側面における分岐点」と表現した。
American Honda Motorでは、データ分析はすでにビジネスに組み込まれている。しかし、データ分析ツールを利用するのは主にデータサイエンティストだった。
ブリゼンダイン氏によれば、American Honda Motorは現在、「AI for all」(全ての人のためのAI)というアプローチを取り入れている。
「今後、データ分析を実用的に応用するため、全従業員にトレーニングを実施する予定だ。従業員をデジタル人材に育てる前段階として、従業員のトレーニングは会社全体にとって最大の価値をもたらすと考えている」(ブリゼンダイン氏)
ただし、この目標はクラウドの導入やアプリケーションのモダナイゼーション、その他の技術への対応に迫られるIT部門にとってさらなる負担となっている。
「データ品質を向上させるというこれまでのアプローチでは、われわれが推進しているAI for allという目標に追い付けない領域が幾つかある」(ブリゼンダイン氏)
ブリゼンダイン氏のチームは約60%の時間をルーティンワークに、「運が良い時は」残りの40%をイノベーションに費やしている。
「当社はスタートアップ企業ではない。多くのレガシーシステムが稼働しており、そこにはコストも少なからず発生している。そのため、以前はデータモデルの複雑さやデータ品質の不一致は、大半の従業員からはほとんど見えていなかった」(ブリゼンダイン氏)
銀行や保険会社のようなレガシー企業は、クラウドに移行する場合も「技術的負債」に悩まされている(注5)。ただし、これらの企業はマニュアルや契約書、メモ、電子メールの本文といった「非構造化データ」を多く抱える「未活用データの宝庫」でもある。
SalesforceとSnowflakeは、非構造化データの活用に焦点を当てたソリューションを提供する企業向けソフトウェアベンダーだ(注6)。American Honda Motorも非構造化データの価値を認識している。
「生成AI用の高品質データや、特にLLMにとって最適なデータソースが、帳票のような『構造化データ』に必ずあるわけではない。従来、非構造化データと考えられてきたものの中にこそ存在している」(ブリゼンダイン氏)
American Honda Motorは所有者マニュアルや手順書、その他の非構造化データではあるけれども、よく整理された独自のデータソースをLLMに開放し、取り込んでいる。同社はまた、LLMをデータソースに接続するために、自社の技術やクラウドプロバイダーを活用している。
「われわれはAIをデータに取り込んでいる。データがAmazonのクラウドベースのデータであれば、『AWS』(Amazon Web Services)の多くの機能を活用する。もしそれが『Microsoft Azure』ベースのデータであれば、より高度なモデルのためにMicrosoftベースの機能を多く利用するつもりだ」(ブリゼンダイン氏)
クラウドや企業のモダナイゼーションと同様に、LLMを利用するために絶え間なくデータストリームを準備することは1回で終わる作業ではない。AIを運用する日常的な管理の一部だ。
「当社のデータ基盤は現在も、そしてこれからも構築し続ける可能性がある」(ブリゼンダイン氏)
(注1)The rise of generative AI: A timeline of triumphs, hiccups and hype(CIO Dive)
(注2)American Honda’s 5-part strategy to deploy generative AI(CIO Dive)
(注3)CIOs worry about AI’s accuracy(CIO Dive)
(注4)AI fundamentals among most-needed digital skills, job seekers say(CIO Dive)
(注5)Technical debt migrates to the cloud(CIO Dive)
(注6)Snowflake details next stage of AI data strategy as new CEO takes the helm(CIO Dive)
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