トヨタの情シスはDXにどう取り組んでいる? 講演から「トヨタらしい取り組み」を考察Weekly Memo(1/2 ページ)

トヨタ自動車はDXにどう取り組んでいるのか。デル・テクノロジーズの年次イベントで基調講演を行ったトヨタ自動車 情報システム本部本部長の講演を基に考察する。

» 2023年10月23日 14時00分 公開
[松岡 功ITmedia]

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トヨタ自動車の日比稔之氏(情報システム本部 本部長)

 日本の製造業における代表的な企業であるトヨタ自動車は、DX(デジタルトランスフォーメーション)にどのように取り組んでいるのか。デル・テクノロジーズ(以下、デル)が2023年10月13日に都内ホテルで開いた年次イベント「Dell Technologies Forum 2023Japan」の基調講演で、トヨタ自動車の日比稔之氏(情報システム本部 本部長)が「トヨタらしいDXとは? 現在地とこれから」と題して説明した。その内容が興味深かったので、今回はこの話題を取り上げたい。

「五位一体」で取り組むトヨタ自動車のDX

 日比氏によると、デルは長年にわたってトヨタ自動車のさまざまなITプロジェクトをはじめ、DXに向けても「強力な支援をいただいている」関係で、今回の基調講演が実現したという。

 日比氏は最初に、「私からはテクノロジーやプロダクトというより、私たちが何を考えてDXに取り組んでいるか、今どのような状況か、そしてどこを目指しているのかについてお話ししたい」と述べた。以下、同氏の話を基に考察する。

 日比氏がまず説明したのは、同氏が率いる情報システム本部の概要だ。情報システム本部はコーポレートのヘッドオフィス内の組織で約690人が所属している。本部内の組織は図1のような構成で、DXに関する部門もある。すなわち、同社のDXは情報システム本部がリードしているわけだ。さらに注目すべきは、図1の下部に記されている「トヨタコネクティッド」をはじめとした3つの子会社が傘下に入っていることだ。この3社はトヨタ自動車が鳴り物入りで進める「コネクティッドカー」事業の主力部隊である。つまり、情報システム本部はDXとともに今後の主力事業の推進役も担っている。

図1 トヨタ自動車 情報システム本部の概要(「Dell Technologies Forum 2023 Japan」でのトヨタ自動車の基調講演より)

 「当社でも数年前にDXの波に乗ろうと社内改革に着手した。ただ、DXを進める上であらためて重視したのはTPS(トヨタ生産方式)の『モノと情報の流れを捉えて“見える化”し、多くの目でそれをチェックしてあるべき姿に進む』という考え方とアクションだ。これにデジタルをどう融合させるか。それこそ当社らしいDXというのが、私たちの認識だ」

 日比氏はこう語った上で、DXの取り組みについて次のように述べた。

 「DXというとまずD(デジタル)に目が行きがちだが、肝心なのはX(トランスフォーメーション)。システムだけでなくプロセスやルール、組織、人材を当社では『五位一体』と表現しているが、つまりはさまざまな角度から変革を進めていくことが重要だ。ただ、当社のような大きな企業はなかなか組織全体で動かないので、まずは小さく始めて徐々に大きな動きにしていこうとしている。それでも現実には思惑通りいかないところもあり、試行錯誤を続けている」(図2)

図2 「五位一体」のDXの取り組み(「Dell Technologies Forum 2023 Japan」でのトヨタ自動車の基調講演より)

 では、トヨタ自動車が目指すデジタル化とは何か。日比氏は「デジタル化には、デジタイゼーションやデジタライゼーション、DXといった3つのステージがある。本格的な取り組み開始から2年ほどたった当社はデジタライゼーションに入ったところだと認識しており、DXへの道のりはまだまだだ。ただ、目指す先はDXによって『次の100年も産業報国を続けるための会社変革』だ」と説明した(図3)。この目標の文言も同社らしいといえるだろう。

図3 トヨタ自動車のデジタル化の現在地(「Dell Technologies Forum 2023 Japan」でのトヨタ自動車の基調講演より)

 さらに、DXの先にある変革への挑戦ということで、同氏は図4を示しながら次のように話した。

図4 「モビリティカンパニーへの変革」のシナリオ(「Dell Technologies Forum 2023 Japan」でのトヨタ自動車の基調講演より)

 「当社では『モビリティカンパニーへの変革』をスローガンとして掲げている。だが実は、『モビリティカンパニー』という言葉に明確な定義はない。どういうことかというと、現会長(豊田章男氏)が社長時代に『もっと良い車をつくろう』と言ってこのスローガンを打ち出したことで、ゴールがないスローガンになってしまった。実はそれが会長の意図で、新しい車をもっと良いものにするにはどうすればいいかを皆で考えようと。必死に考えることで新しいアイデアが生まれ、それがイノベーションにつながっていくのだという思いがスローガンに込められている」

 図4は、「モビリティカンパニーへの変革」に必要な要素と進め方をデジタルの観点で記したものだが、日比氏は図の説明よりも上記のエピソードをこの話の勘所として紹介した。非常に興味深いエピソードだ。

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