結局、ブロックチェーンとWeb3って重要なんですか?

DX(デジタルトランスフォーメーション)推進でブロックチェーン活用に取り組む企業も増えている中で、本当の活用メリットや将来性を把握できていない人も多い。

» 2023年02月08日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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佐藤一雅氏

 これまでバズワード的に使われてきたブロックチェーンやWeb3だが、近年ではエンタープライズ企業を含むさまざまな組織でその活用が広がっている。一方で「本当にブロックチェーンが必要なのか」「Web3は理想郷じゃないのか」という声も根強く残っている。

 これらの疑問に対し「日本からもう一度、世界で戦える産業や人材を輩出していくためにブロックチェーンやWeb3が重要になるでしょう」と話すのは、IoT(モノのインターネット)向けのプラットフォームやソリューションを提供するジャスミーで代表取締役社長を務める佐藤一雅氏だ。ブロックチェーンで実現される社会を同氏はどのように描いているのだろうか。

ブロックチェーンのメリット 使うべき業界

 佐藤氏はインタビューの冒頭で「中央集権的なシステムが一概に悪いとは思いませんが、ブロックチェーンが持つメリットは多く存在します」と話し、ブロックチェーンの代表的なメリットを2つ解説した。1つ目は「半永久的に動き続けるシステム構築が可能」という点だ。ブロックチェーンは特定の企業に依存したシステムではないため、仮に提供元の企業がなくなってもユーザーがノードとしてコミュニティーに参加していればシステムは動き続ける。

 「ジャスミーでもコンソーシアム型のブロックチェーンを提供しておりますが、企業から『ジャスミーなんて小さい企業、つぶれたらどうするんだ』といわれることがあります。その際、『ブロックチェーンなので、ノードさえあれば動き続けます』と説明すると、多くの人が驚くと同時に『ビジネスに活用できるのでは』と考えます。やはり『依存しない』というのをメリットに感じるようです」(佐藤氏)

 同氏は2つ目のメリットに「スマートコントラクト」を挙げた。スマートコントラクトとは、あらかじめ設定されたルールに従ってブロックチェーン上の取引などを実行するプログラムだ。スマートコントラクトを使う利点には、「信頼性」「透明性」「コスト削減」などがある。

 「一概に中央集権的なシステムが悪いとは思っていません。ですが、将来的には『ブロックチェーンを使ったほうが良い仕組み』と『そうではない仕組み』が分かれ、ブロックチェーン活用が広がっていくでしょう。その中で、今は考えつかないような新たなビジネスモデルが生まれるのではないかと楽しみにしています」(佐藤氏)

 同氏によれば、データやお金のやりとりといった場面で、ブロックチェーンは特に有効だという。送金システムの「SWIFT」(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)を例にすると、送金にかかる手数料は高額な上に、送金過程で「お金がどこを通っているのか」が不明瞭だ。ブロックチェーンを活用した送金であれば、短時間かつ低額な手数料で送金できる。また、ブロックチェーンの中のデータはそこに参加する誰でも見られるので、お金を送ってから相手に届くまでの過程で不明瞭なところが存在しない。

 「時に『ブロックチェーンはオープンで中身を誰でも確認できるが、それが逆にデメリットにもなるのでは』と指摘されます。現在はこのような問題にも対処するサービスが存在し、自社の都合に合わせてサービス選定できます」(佐藤氏)

ブロックチェーンが社会のツールの一つになるのは必然

 佐藤氏は「ブロックチェーンは将来的に現代のPCのようになるでしょう」と指摘する。

 「PCが誕生したときも、多くの人はそれを皆が使うようになるとは思いませんでした。多くの人が『PCは一過性だ』と考えており、まさに同じことを現在のブロックチェーンにも言えます」(佐藤氏)

 「ブロックチェーンの活用が進む未来は必然です」と自信を見せる佐藤氏だが、その背景には人々の「中央集権への懐疑」がある。

 これまで「GAFAM」(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)を中心とするIT企業のサービスを世界中の人々が利用してきた。これらの企業のサービスが便利な一方で、特定の企業のみに集まり続ける情報に多くの人が疑問を持っているのも事実だ。佐藤氏はこのような状況に対して、「中央集権化され続けた社会を解放するのがブロックチェーンです」と話す。

 そして、ブロックチェーンで分散的なサービスの実現を目指すのが「Web3」だ。DAO(分散型組織)や「DeFi」(分散型金融)など、さまざまな領域でその活用が広がっているが、課題もある。

 佐藤氏は「現時点では『なんちゃってWeb3』がまだまだ多い」と指摘する。ブロックチェーンやWeb3の根幹には「分散化」という概念が存在するが、世間にはWeb3と言いつつ分散化ではないサービスも多い。

 「GAFAMが中心であった『Web2.0』と少し違うサービスであれば、Web3と呼べるわけではありません。Web3というには分散化というキーワードは欠かせないのです。なんちゃってWeb3のようなサービスでは”本当の変革”を起きません」(佐藤氏)

ブロックチェーン/Web3を広げるために

 ブロックチェーンの活用が社会でより浸透していくために、佐藤氏は「注目の分散」が必要だと警鐘を鳴らす。同氏によれば、ブロックチェーンが社会的認知度を上げた背景には暗号資産「Bitcoin」の存在があり、ブロックチェーンエンジニアやWeb3ユーザーの大半が暗号資産領域に固まっている。

萩原 崇氏

 ジャスミーで取締役兼ソフトウェア開発統括を務める萩原 崇氏は「本来、ブロックチェーンは無色透明な基本技術です。一方、暗号資産で大幅に認知度が上がったことでファイナンス方面に偏りが生まれてしまった。投機目的のユーザーも多い中で、このフェーズをどのように超えていくのかを考える必要があります。ファイナンス領域にお金が集まりすぎれば、その他の領域におけるブロックチェーン活用の成長を阻害する可能性もあります」と見解を述べる。

 このような状況を打開するためにも、佐藤氏は「オプションを増やす」ことが重要だとする。ブロックチェーンエンジニアが自由に開発できるプラットフォームを提供することはもちろん、DAOなどの活動支援なども実施していく考えだ。

 対して萩原氏は「サービス利用のシンプル化」が重要になると話す。

 「Web2.0の企業はこれまでユーザの増大と共にサービスの使いやすさを常に追求してきました。複雑なサービスは利用者の離脱につながるからです。現在Web3に興味のある人は、多少複雑でも新たなサービスや技術への興味が強いためサービスを使用していただけます。しかし、幅広い一般層に広げるためにはいかにシンプルで簡単なサービスを提供するかが大きな鍵になります」(萩原氏)

 DX推進が当たり前なっている昨今、Web3に少しずつ取り組み始めることが重要だと両氏は話す。今後、ブロックチェーンがどのような役割を社会で果たしていくのか注目だ。

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