ボスが「問題ない」って言うならヨシ? 日本企業の自動化を阻む“属人主義の壁”「2023年自動化のトレンド」をUiPathに聞いてみた(1/2 ページ)

日本企業の多くは「業務の自動化」をルーティンワークの負担を軽減する技術として捉えているが、世界の先端企業はその先を見据えている。なぜ自動化の対象を個別業務から企業全体に拡大すべきなのか。UiPathが指摘する、日本企業の自動化を阻む“属人化の壁”とは。

» 2023年03月03日 09時00分 公開
[田中広美ITmedia]

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 自動化がルーティンワークの負担を軽減するためのツールという認識は、過去のものになりつつあるのかもしれない。

 UiPathは2023年1月、自動化について同社の見解をまとめたレポート「2023年自動化のトレンド:最新情報、今後の展望、そして真価を引き出す道筋」を発表した(注1)。同レポートは自動化の現在地を示しつつ、UiPathが自動化の“真価”を引き出すために「全社的に自動化を推進する」方向性を示すものだ。

「自動化=RPA」の時代は終わった

 UiPath日本法人の鷹取 宏氏(ソリューション本部 アドバンステクノロジーアーキテクト部 部長/エバジェリスト)とテランドロ・トマ氏(ソリューション本部 アドバンステクノロジーアーキテクト部 エバンジェリスト)に同レポートで強調されている会社全体で自動化に取り組む重要性と、米国をはじめとする“自動化先進国”の企業の取り組みを聞いた。

 前編となる本稿では、なぜ会社全体での自動化に取り組む必要があるのかと、日本企業で業務の自動化が進まない背景について、日本企業のコンサルティングを手掛けた経験を持つトマ氏の見解を交えつつ紹介する。

 本題に入る前に、「2023年自動化のトレンド」の概要を以下に紹介しよう。

 同レポートから自動化が従来の「日々の単純作業にかかる手間や時間を軽減するためのもの」から「全社で導入してビジネスに資するもの」へ変わりつつあることがうかがえる。

  1. 自動化は、革新の新たな手法となる
  2. 企業は、労働力不足やインフレ圧力に対応するために自動化を強化する
  3. CIO は、その任務を拡張し、新たな目標を達成するために自動化を強化する
  4. プロセスマイニングと自動テストは、最高クラスの自動化を全社的に推進する上での「必須項目」となる
  5. ローコードは、自動化とAI(人工知能)をより多くの人々の手に届けるための最優先事項となる
  6. AIを活用した新たなイノベーションが、自動化の境界をさらに押し広げる
  7. デジタルスキルの研鑽(けんさん)は、人事とIT部門のリーダーにとって次なる重要課題となる

 ここからは「2023年自動化のトレンド」を通じてUiPathが伝えたいことや、日本企業の自動化を阻む背景について一問一答形式(敬称略)でお届けする。

――「2023年自動化のトレンド:最新情報、今後の展望、そして真価を引き出す道筋」は、自動化がユーザー企業にとってどういう意味を持つのか、自動化の恩恵を最大限に得るためにユーザー企業はどうすべきかについて、大局的な視点で書かれています。単にUiPath製品を読者に推奨するのとは異なる編集意図を感じました。このレポートは誰に何を伝える目的で発行されているのでしょうか。

UiPathの鷹取氏 UiPathの鷹取氏

 鷹取 一つにはUiPathを既に導入され、自動化の対象をさらに拡大したいと考えているお客さまに対して、自動化のアプローチやプラスアルファの技術を伝えるために発行しています。もう一つは当社のユーザー以外で自動化に取り組んでいる方々にUiPathのビジョンを伝えるためです。

 実はレポートが「自動化のトレンド」というタイトルになったのは2020年からで、それまで当社はRPA(Robotic Process Automation)を軸としたレポートを発行していました。これは当社の製品展開が変わった時期と一致しています。2019年まではRPAが中心でしたが、2020年を境目に「自動化プラットフォーム」という、RPAを集めてプラットフォーム化し、「企業全体での自動化」に取り組もうというビジョンを新しく打ち出しています。

――自動化がRPAだけを指す時代は2019年で終わった――。少なくとも、世界で先進的にデジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業は、RPA単体での活用の“先”を見据えているということですね。

 一方で、日本企業の、特に業務部門は「RPAは事務作業をラクにするツール」として捉えているところも多く、「RPAって何」という声すらあるのが実態ではないかと思います。

 今回のレポートでは、冒頭の1に「(先進企業の)経営幹部は、企業全体の自動化を戦略的な優先事項とすることで、技術を最大限に活用するための体制を整えています」と補足されています。貴社が経営幹部こそ自動化をきちんと理解しなければならないと強調される理由を教えてください。

鷹取 自動化を進めなければ、ビジネスの継続的な成長が望めないからです。また、自動化をしなければ新しいビジネスやサービスを創出することも難しくなるとわれわれは考えています。

 アナログな企業が事業を拡大しようとした場合、どうするか。伝統的に採られてきた手法は従業員の増員でした。従来の考え方だと、そば屋さんが従業員を増やせば、その分そばをより多く打ったり出前の件数をより多くこなせたりするわけです。

 しかし、これから労働人口が減っていく日本で人手を増やすことは難しく、コストもかかります。その中で成長のために必要なのがテクノロジーです。「Uber Eats」のシステムでは「どの配達員がどこで配達しているか」を全て可視化しています。AI(人工知能)がそのエリアで配達可能な配達員の数を把握して管理し、天気やユーザーの注文数などに応じた報酬体系の設定なども可能です。

 こうしたサービスを使うことで、そば屋さんは新しく従業員を増やすことなくビジネスを拡大する可能性が広がったわけです。さらに言えば、自分で店舗を持つことなく飲食店を経営する「ゴーストキッチン」など新しい形態も可能になりました。

――従業員の人数で売り上げの天井が見える世界から飛び出すだけでなく、店舗を自分で用意しなければいけないという制限までもが取り払われたと。

鷹取 自動化というのはどうしても技術的な話になってしまうので、身近な例でお話ししましたが、ここから「なぜテクノロジーによる革新(自動化)を進めなければならないか」という危機感を感じ取っていただけるのではないかと思います。

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