パナソニックがTeamsに災害ポータルを構築 ローコードの活用事例

Teamsはただのチャットツールではなくなっている。パナソニックはTeams上で災害ポータルを構築した。これにはTeamsだからこその利点があるようだ。

» 2023年03月16日 08時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

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 日本マイクロソフトは2023年3月14日に「Microsoft 365 & Teams Day 2023 〜ハイブリッドワークの進化と"Do More with Less"とは〜」を開催した。同イベントでは経営者やビジネス部門の意思決定者、情報システム管理者、働き方改革を推進する担当者などを対象に、「Microsoft 365」や「Microsoft Teams」(以下、Teams)を活用するための最新情報やユーザーの活用事例などを紹介した。

 本稿は同イベントで行われた講演「仕事の"気づき"を DX につなぐ〜Teams×アプリケーションでDo More With Less〜」について紹介する。

Microsoft 365 & Teams Day 2023が開催(出典:日本マイクロソフト提供資料)

Teamsが災害ポータル? ローコードツール活用の成功事例とは

 同講演ではパナソニックグループがTeamsで展開している「災害ポータル」の事例を通じて、ローコード開発ツールである「Microsoft Power Apps」(以下、Power Apps)を用いたアプリの内製化による社内DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や業務効率化の事例を紹介した。

 長年、BCP(事業継続計画)の策定や運用に携わりながらも、講演では自らを「ITの専門家ではない」と話すのはパナソニックオペレーショナルエクセレンスの青江 多恵子氏(情報システム本部)だ。同氏は自身について「情報システム部門に所属してBCPをICT(情報通信技術)化するのが役割で、いわゆる『レジリエントDX』に取り組んでいる」と語った。

 パナソニックグループの災害ポータルはTeamsを活用して災害時のコミュニケーションを可能にすることはもちろん、Power Appsを用いた「災害報告アプリケーション」や「Microsoft Power BI」を用いた「災害報告ダッシュボード」で構成される。

 災害が発生するとTeamsに災害通知の投稿やメールが送られ、それをトリガーにアプリの準備が自動的に実行される。その後、アプリにさまざまな情報を集約する。対象となる拠点の対策本部が災害報告を行うと、災害報告マップを通じて短時間での全社共有が可能になる。

 「災害報告マップで災害対象エリアに入っている拠点数や被害の有無、復旧状況などを把握できる。また、担当者は『自分の拠点』『自分が所属する事業部』といった情報を見ることもできる」(青江氏)

災害ポータルの3つの機能(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 日本マイクロソフトの熊田貴之氏(シニアカスタマーサクセスマネジャー)は災害ポータルのメリットについて、「情報が入るとそれを従業員全員が共有できる。従来のメールを用いたバケツリレーのような情報伝達と比べると劇的な速さだ」と指摘した。

 ユーザー企業がシステム設定を行えるため、情報システム部門などに依存せずに主体的にサービスを利用できる。青江氏はTeamsを採用した理由について「災害報告に使えるさまざまなツールを検討したが、有事の際だけに使うツールだと使い方を忘れたりどこにあるか分からなくなったりなどの課題が生まれる。そこで、平時も有事も使用できるツールが最適だと考え、日常的に利用しているTeamsを採用した」と話した。

 Teamsでの運用が決定すると、情報システム部門などでPower Appsの活用が提案され、そこからアプリ開発がスタートした。アプリ開発については日本マイクロソフトの支援も受けながら情報システム部門の若手社員がアプリを開発した。当初は手探りでの開発作業だったが、アプリが完成して用途が明確になると、さらなる開発予算の獲得につながりプロジェクトが一気に進展した。

 さらに、日本マイクロソフトの紹介で同社のパートナー企業との連携やグループ内での内製化を促進するためにパナソニックソリューションテクノロジーとも連携し、全社規模で活用可能なアプリへ進化させた。

 青江氏は「全社で利用できるアプリが完成したらより多くの要望が出てきた。現在は分科会を設置しさまざまな要望を実現できるように活動している。分科会のような体制が最初からあればもっと効率的に開発ができただろう」とする一方、「意見をもとに改善を加えるというアジャイル的な手法だからこそ、ここまで実現できたという意見もある。要望に応えることの繰り返しが今につながっている。最初は小さく作って小さく終わるつもりだったが、結果的に全社を巻き込んだ取り組みに発展している」と続けた。

アプリの発展(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 熊田氏も「アイデアをアウトプットし、それに対してフィードバックが集まるというサイクルを早く回したことが成果につながった。Power Appsがぴったりとはまった事例だ」と感想を述べた。

 「事業会社に口や紙芝居で説明しても理解してもらえなかったが、実際に動くものを作ることで理解が進んだ。アジャイル開発だからこそ実現できた部分も大きい」(青江氏)

 日本マイクロソフトの影山三郎氏(モダンワークビジネス本部 GTMマネジャー)も「現場からの要望は本物であり、それを動くものとして見せられるのがPower Appsの真骨頂だ」と語った。

 パナソニックグループは全社的なDXとして「Panasonic Transformation」(PX)を推進しており、これも今回の取り組みでは見逃せない要素だ。青江氏はPXについて、「PXはITの変革だけでなく、カルチャーの変革やオペレーティングモデルの変革という3階層のフレームワークで推進している。これによりオープンでフラットな職場の実現や内向きな仕事の排除などが進んだ」と解説した。

 影山氏も「災害ポータルも『新たなこと』『特別なこと』ではなく、PXの流れで自然に進んだのではないか」と補足した。

パナソニックグループにおける変革のフレームワーク(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 講演の最後で青江氏は「アプリ開発は初めてだったが、事業会社や情報システム部門、パートナー、日本マイクロソフトの支援を受けてここまでやれた。アイデアがあったらまずは相談するとよいだろう」と話し、Power Appsを用いた社内DXの推進にはまずは知見を持っている人への相談から取り組むことが大切だと示した。

左より影山三郎氏、青江 多恵子氏、熊田貴之氏

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