クラウド活用が進む金融業界はクラウドベンダー各社にとっては落とせない業界の一つだ。本稿はAWSの取り組みとJPXの事例を紹介する。
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アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWSジャパン)は2023年3月22日、「AWS 金融戦略説明会」を開催した。クラウド化が進む金融業界はクラウドベンダー各社から重要視されているセクターの一つだ。
説明会の冒頭、AWSジャパンの鶴田規久氏(執行役員 エンタープライズ事業統括本部 金融事業/ストラテジックアカウント/西日本事業本部 統括本部長)はAWSの金融ビジネス戦略「Vision2025」について話した。
AWSは2011年に東京リージョンを開設し、2017年までを「ノンクリティカル・システムのための低コストインフラ」(第1ステージ)、2021年までを「金融ITを効率化するインフラプロバイダー」(第2ステージ)、そして2021年以降を「金融ビジネスを変革するパートナー」(第3ステージ)として活動を推進してきた。
このような背景もあり、さまざまな日本の金融機関がAWSを活用している。鶴田氏もこのような状況を受け、「AWSは既存の枠組みを超えたビジネスモデルへの挑戦や新生活様式を織り込んだ顧客との関係構築、予測できない未来に耐え得る回復力の獲得に努めています」と述べた。
金融機関におけるAWSの活用事例として日本取引所グループ(以下、JPX)の次期執行役CIO(最高情報責任者)である田倉聡史氏が話した。JPXは中期経営計画と長期ビジョン「Target 2030」を掲げ、金融市場全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)化の推進を目指している。
同氏はDXの中での取り組みとして、AWSを活用した「カーボン・クレジット市場の創設」を解説した。日本は世界各国でカーボンニュートラルを目指す動きが強まっていることを受け、2020年12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定。JPXも2022年6月にカーボン・クレジットの価格が公示される形で広く取引される市場構築のための実証事業を開始した。
この事業は委託事業の開始から取引開始まで約4カ月と短期であり、また、取引制度の設計などとの並行開発となるため多様な要件をスピーディーに取り込む必要性があった。このような課題に対し、スモールスタートからスケールアウトへの柔軟性を重視した結果、AWSの採用に至ったという。
「AWSが提供するマネージドサービスを活用することで、JPXはテナントとしてアプリケーション開発に専念でき、限られた時間の中でリソース活用の最大化が可能になりました。カーボンニュートラル実現に向けた社会的重要施策である実証の成功に大きく寄与しました」(田倉氏)
AWSジャパンは今後の目標に「ユーザーに重大な影響が及ぶのを防ぐ」「金融システムの安定性に影響を与えない」を掲げている。さらなるレジリエンシーの向上を目指し、高可用性やディザスタリカバリーを継続的に改善していく予定だ。同社はレジリエンシー向上へ向けて「AWS Well-Architected Framework」「金融レファレンスアーキテクチャ日本版」「Resilient Application Readiness Assessment」(RA2)、「Incident Management Workshop」などを通して支援を行っている。
また、イノベーションをアクションにつなげるための人材育成にも注力している。ここでは「エグゼクティブワークショップ」「人材育成計画の提案」「標準化されたプログラムと認定制度」などをもって取り組んでいる。
鶴田氏は最後に「日本の金融の成長戦略に貢献していきます」と話し、説明会を終えた。
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