Google Cloudが見せる金融業界での自信 他社との差別化とAIへの期待を聞いた

さまざまなクラウドベンダーが金融業界に注力している。企業からすればクラウドベンダーが「どのように違うのか」は明確ではない。Google Cloudに他社とは違う強みと注目が集まるAIへの意見を聞いた。

» 2023年03月14日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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ザック・マーフ氏

 厳しい規制やセキュリティ要件を理由にクラウド移行が遅れていた金融業界。一時は「オンプレミスが当たり前」とされていたが、近年は一気にクラウド化が進んでいる。金融業界においてGoogle Cloudはどのような強みを持っているのか。また、大手IT企業を中心に競争が激化しているAI(人工知能)は金融機関にどのような影響を与えるのか。Google Cloudのザック・マーフ氏(グローバルリテールバンキングソリューション担当マネージングディレクター)に話を聞いた。

Google Cloudと他ベンダーの違いは

 金融機関がクラウドを活用するメリットは多く存在し、Google Cloudは彼らをサポートできる強みを持っています――。マーフ氏は取材の冒頭、このように話し、自信を見せた。同氏はこれまで米金融機関のWells Fargoのデジタル部門責任者をはじめとする複数の重要ポストを歴任しており、金融業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)に深い知見を持つ。

 マーフ氏はこれらから得た知見を基に、Google Cloudの金融業界における強みを「金融業界は世界的にも非常に重要な業界の一つであり、データ集約型のビジネスです。Googleは常にデータとともにビジネスを展開しており、ビジネスチャンスを引き出すことが可能です。このような背景からGoogle Cloudは金融機関を力強くサポートできます」と解説した。

 金融業界におけるクラウド活用は他業界と比較しても決して早いものではなかった。その背景には「コンプライアンスリスク」や「セキュリティ面」などで課題があったが、昨今は金融業界でクラウド移行が進んでいることからも分かるように、これらの課題は小さくなっている。マーフ氏もこの点について「これまでの課題は現在においてはクラウド移行の阻害要因ではありません。一方で現在は『どのようにクラウド移行するか』という新たな課題を抱えています」と見解を述べた。

 同氏はクラウド移行の手法としてリフト&シフトを用いた「アプリケーションの移行」や「データアセットのクラウド移行」を挙げた。クラウド活用のゴールは「移行そのもの」ではない。移行後が挑戦の始まりであり、いかにクラウドを活用してビジネス成長を実現するかを企業は考えなければならない。マーフ氏はこの点について「Google Cloudはビジネスフェーズにフォーカスしています。この点が他ベンダーと違うところです」と強みを語った。

 大手ベンダーにおける差別化はますます困難になっている。ある特定の時期に機能面で違いがあっても、基本的に次回のアップデートでそれらの違いはカバーされるため、ユーザーがそれぞれの違いを明確に出すことは難しい。結果、仲の良いベンダーや値下げしてくれるベンダー、サポート体制が手厚いベンダーなどを選定することになりがちだ。このような状況にマーフ氏は「他ベンダーは基本的に『インフラストラクチャ』そのものにフォーカスしていますが、Google Cloudは『移行後のビジネス活用』にフォーカスしています」と述べる。これには同氏が取材の冒頭で指摘した、Googleが持つ「データとともにビジネスを展開できることの強み」が反映されているといえる。

注目が集まるAI 金融業界で期待される活用方法は

 金融業界におけるAI活用について、マーフ氏はどのようなユースケースを想定しているのだろうか。同氏は「AIはさまざまな場面で活躍するようになると思います」と話し、その例にセキュリティ領域でのユースケースを紹介した。不正取引などを検知するためにML(機械学習)を活用できればAIでの異常検知が可能になる。また、ビジネスの変化に合わせてAIも学習するため、精度も向上していく。

 AIをビジネスに活用するにはそれを扱う「人材」が欠かせないが、その点についてマーフ氏は2つの意見を述べた。

 一つ目が「技術の進化で高いデータサイエンスの知識は求められないようになっている」ことだ。同氏によれば、技術の進化でツールの利便性は増しており、また、組織による人材育成への取り組みが進んでいることから、これらが合わされば今後はより簡単に組織的なAI活用が実現するという。

 2つ目が「人材も重要だが『なぜAIがそのような判断をしたのか』を明確にしなければならない」ことだ。金融業界は他業種と比較しても規制が厳しい。また、金融機関にとって「信頼の構築」は最重要項目だ。これらを踏まえると、ただAIをビジネスに活用するだけでは不十分で、「なぜAIはこのような判断をしたのか」というのを常に明確にする必要があるという。このような観点は他業種にも当然あるが、金融業界では一段と強く求められる。

 「金融業界におけるAI活用はさまざまな可能性を持っています。例えばAIを利用することで手作業的なマニュアルタスク(手作業)を自動化でき、付加価値の高い業務にフォーカスできるようになります。さまざまなユースケースが考えられるAIですが、本当の意味で組織的に活用されるにはまだ時間を要するでしょう」(マーフ氏)

 同氏は最後に「クラウド移行において、急いでワークロードを作ってはいません。その後の拡張が難しくなることもありますから。組織は移行後のビジネスバリューを明確にすることでスピーディービジネスを進められます。クラウド化そのものを目的にせず、それでいかにビジネスを進化させるかにフォーカスしましょう」と話し、インタビューを終えた。

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