自動運転業界の「明るいばかりではない」未来 予約殺到だったのに購入契約「ゼロ」の衝撃Transport Dive

自動運転ソフトウェアの開発企業が解散危機にひんしている。予約が殺到したにもかかわらず、実際の受注件数は「ゼロ」。従業員の70%が解雇に追い込まれたのはなぜか。

» 2023年04月06日 08時00分 公開
[Edwin LopezTransport Dive]

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 ドライバー不足が深刻化する中、自動運転にかかる期待は大きい。日本でも2024年をめどに新東名高速道路の一部に自動運転トラックのレーンを導入する政府の方針が発表されるなど、社会実装に向けた取り組みが続いている。

予約1万4000件に対して、購入契約「ゼロ」の衝撃

 ただし、期待の大きさとは裏腹に、実際に自動運転システムを購入する企業は多くない可能性もある。

 トラック向け自動運転ソフトウェア開発のスタートアップEmbark TechnologyのCEO兼共同創業者のアレックス・ロドリゲス氏は「出口戦略を検討するため230人の従業員を解雇する」と、2023年3月3日に発表した。

 同氏はこのニュースを従業員に電子メールで伝えた。同社は売却の可能性と新しい市場に参入する選択肢を検討したが、どちらの選択肢も実行不可能であることが判明したという。

 「これ以上の選択肢はなくなった。本日、私たちは従業員の70%を解雇し、南カリフォルニアとヒューストンのオフィスを閉鎖するという非常に困難な一歩を踏み出す」と、ロドリゲス氏は述べたという。同氏は電子出版プラットフォーム「Medium」でメールの内容を公開した(注2)。

 Embark Technologyは現在、事業縮小を図っている。経営陣は残された事業とその資産に対する別の解決策を模索する。

 ロドリゲス氏は、スタッフに宛てた電子メールの中で、レイオフの背景には「市場からの圧力や機器の限界、指導者の失敗など、複数の理由がある」と主張している。

 「残念ながら、あらゆる選択肢を徹底的に検討した結果、現在の事業形態で前進する道を見いだすことができなかった。思うところはたくさんあるが、最終的には私の責任だ」(ロドリゲス氏)

 Embark Technologyの広報担当者は、レイオフの理由やその時期、荷主やトラック運送会社との既存取引への影響について、さらなる質問への回答を拒否した。

 広報担当者によると、2016年に設立されたEmbark Technologyは、自動運転トラックを実現するソフトウェアを展開するために、4億ドル以上の資金を調達した。2021年以降、同社はKnight-Swift Transportation HoldingsやMesilla Valley Transportationといった企業との提携を発表している(注3)。

 2022年の有価証券報告書によると、同社の自動運転システムに1万4000件以上の予約が入っていたが、実際の購入契約はなかった(注4)。直近の四半期報告書の時点で売り上げは記録されていない(注5)。

 ロドリゲス氏によれば、「収益がないことが、ここ数カ月の当社に対する市場のプレッシャーを増大させた」という。「この9カ月は、自動運転業界にとっても、当社にとっても厳しいものだった。資本市場は収益前の企業に背を向け、メーカーのスケジュールが遅れた途端に、大規模な商業展開の見通しが立たなくなった」(ロドリゲス氏)

レイオフは第2四半期まで続く

 Embark Technologyは、今回のレイオフは営業コスト削減戦略の一環だとしている。2023年第2四半期末までに実質的に完了すると、2023年3月3日に提出した有価証券報告書に記している(注6)。

 今回のレイオフに当たっては退職金や設備、福利厚生、株式関連費用として700万〜1100万ドルのコストがかかるという。

 ロドリゲス氏の電子メールによると、解雇された従業員は次のような処遇を受ける。

  • 2023年6月2日までの基本給、またはそれに相当する一時金を受け取る
  • 解雇された従業員がビザ取得のために働いていた場合、ビザ申請をサポートする弁護士との有料相談を2回まで利用できる
  • 解雇された従業員の再就職を支援する「プレースメントチーム」を新たに設置し、サポートを受けられる

 電子メールによると、会社の将来について経営陣が検討する中で、残された従業員は日常業務を段階的に縮小させ、解雇された同僚の自立を支援するという。

 有価証券報告書によると、Embark Technologyは現在以下のような選択肢を検討している。

  • 技術を商業化するための資産の代替利用
  • 追加の資金調達先
  • 会社の解散または清算、資産の清算の可能性

 同社は、すでに売却や新市場に関する評価を実施していた。レイオフ発表の2日前である2023年3月1日、取締役会がレイオフとそれらの選択肢を検討するプロセスを承認した。

 提出された報告書によれば「戦略的選択肢を検討した結果が、戦略の変更につながるという保証はない」という。

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