データドリブン経営の主役は俺たち“管理部門”だ 組織と人に求められる資質「ITmedia DX Summit vol.15」開催レポート

データドリブン経営を実現するポイントは管理部門にある。JBAグループの脇 一郎氏がデータドリブン経営を推進する5つの指針と、これ沿って管理部門の組織と人がどのように変わるべきか、求められる資質について語った。

» 2023年04月12日 07時00分 公開
[指田昌夫ITmedia]

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 「VUCA」(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)と呼ばれる予測不可能な時代を生き抜くために、企業はデータに基づいて意思決定するデータドリブン経営を推進する必要がある。そして、この鍵を握るのが経理や人事、総務、法務といった管理部門だ。

 アイティメディア主催のオンラインイベント「ITmedia DX Summit vol.15」にJBAグループの脇 一郎氏(グループCEO 公認会計士)が登壇。「いまこそデータドリブン経営へ〜管理部門が主役になる時代へ〜」と題した講演でデータドリブン経営のための管理部門の在り方について話した。

なぜ管理部門が「データドリブン経営」の主役なのか?

JBAグループの脇 一郎氏(グループCEO 公認会計士)

 脇氏は1992年に公認会計士試験に合格し、約3年間監査法人で監査業務にあたった後、事業会社のファイナンシャルコントローラーをはじめ、外資系企業日本法人の社長を務めた。そして2006年にJBAグループを共同パートナー(6名)と創業、2016年にグループCEOに就任した。企業経営における管理部門の役割を熟知した上で、顧客企業のビジネスを会計や人材などの面から支援している。

 脇氏は冒頭、「私は常々、企業がデータを活用する時代になれば、管理部門が主役になると考えている」と語った。管理部門はデータに囲まれて業務をしているが、データそのものが経営に大きな影響を与えるようになっている。脇氏は本講演で自分の経験から「管理部門がどういう役割を果たすべきか」「管理部門が経営の主役という意識であるべき」と説いた。

 脇氏は最初に、なぜ今「データドリブン経営」なのかについて話した。「コロナ禍や戦争、あるいは突然の円安など、ビジネス環境が一夜にして一変する状況が続いている。この、予測不可能な『VUCA』の時代において、データに基づく経営が、あらゆる利害関係者に対する説明責任を果たす。そのとき、管理部門がその役割の中心となる」(脇氏)

 加えて価値観の多様化や複雑化によってビジネスの常識も変化しており、その変化のスピードも速くなっている。例えば「ChatGPT」のような新しいツールも登場し、検索の在り方が変わろうとしている。テクノロジーの変化もサイクルが早くなっている。つまりデータドリブン経営においても、こうした変化に乗り遅れないためのスピードが重要になっている。

 こうした環境における管理部門の役割は、経営において「カンと経験」ではなく、客観的根拠に基づく意志決定をさせること、説明責任を果たせるように情報を提供することだ。

 「経営者が根拠のない独断で強権的に意志決定していては、従業員もついてこないし、ステークホルダーは納得しない。データに基づく経営判断で、周りが納得しながら経営をすることが重要だ」(脇氏)

 管理部門のもう一つのミッションは、意志決定の結果がどうなったのかをデータで収集し、経営ノウハウを蓄積することだ。成功も失敗もデータとして残すことで、同じ失敗を繰り返さない経営が実現する。「会計士の仕事では、不適切な会計処理に直面することもある。なぜこういうことが起きたのかを分析し、データとして記録することが、同じ間違いを起こさないことにつながる」(脇氏)

 データドリブンは「企業文化」とも密接に関係する。脇氏は「ビジネス上のコミュニケーションの土台に『データ』を用いることは非常に重要だ。主観や定性的な思い込みは、ビジネス上危険である。なお、売上や利益などの財務データだけでなく、受注や顧客訪問数などビジネス上重要な非財務のデータなども含めて、コミュニケーションすることが望ましい」と指摘する。

 このとき言うまでもなくデータには高い精度が要求される。間違ったデータを基にしたビジネスがうまくいくはずがないからだ。また、データは取得した時点では正しくとも、時間がたつと意味を持たなくなるものもある。そのデータがいつの時点のもので、どういう前提で収集されたのかを明記することが必要だ。データに信頼性がないと、ディスカッションに意味がなくなり、そのデータの利用をしなくなる。

 脇氏によると、管理部門の役割として事業を支援するためには、データの客観性や正確性を担保していくことが必要だという。

データドリブン経営を推進する5つの指針

 脇氏は次に、自身がメンバーになっている国際会計士連盟(IFAC)が作成した、データドリブン経営を進めるための成功要因をまとめた資料を提示した。そこには5つの要因が記されており、順に説明した。

データドリブン経営を成功させる5つの要素(出典:脇氏の講演資料)

 1つ目は、「Data culture」(データドリブン経営を推進するための企業文化)だ。「当たり前のことだが、意志決定に際してデータを無視、軽視してはいけない。役職者ほど、データよりも自身の経験が正しいと思い込む傾向がある。それを否定し、データを尊重し、透明性を持たせる(社内で共有する)ことを再認識しなければいけない」(脇氏)

 2つ目は「Data strategy」(組織戦略の達成に役立つデータの作成と活用)だ。脇氏はデータをビジネス戦略に役立てるために、データレイクの開発を推奨している。データレイクは、データを整形し構造化してすぐに取り出せる状態で管理するデータウェアハウス(DWH)とは異なり、非構造化データをそのまま保存しておき、そのデータを活用する際に、用途に応じて加工するデータ構造である。

 脇氏は「ビジネスの変化が早く、複雑化している現代に、DWHとして整理して入れておいても、ニーズに対応しきれない。そのためデータレイクに入れておき、使うときに必要なメッシュで取り出す方が理にかなっている」と主張する。

 3つ目は「Data utilization & analytics」(データを使って価値を創造する)である。これはデータを解釈し、分析ツールを使うことを指す。「データをどう使うかは、管理部門ではなくユーザー部門の役割だが、管理部門はデータをデータレイクからどう切り出して使うのかをアドバイスする立場だ」(脇氏)

 4つ目は「Data governance」(データをアクセス可能で信頼できるものにする)だ。データを信頼できる精度の高いものにするために、品質や標準、システム、手順を整備し、コンプライアンス、セキュリティ、データ保護に気を配る。管理部門は、特にこの部分に注力しなければならない。

 そして最後が「Data as a strategic asset」(棚卸資産ではなく無形資産としてのデータ)だ。データは蓄積していけば価値ある資産になるが、これはデータを販売するビジネスのことだけを指しているのではない。無尽蔵に存在するデータから、自社のビジネスに価値を生むものを抽出して、活用することを意味する。

積極的に“コピペ”せよ データドリブンに向け組織と人はどう変わるべきか?

 これらのデータに対する指針にのっとってデータ基盤を整備し、企業がデータドリブン経営を実現するためには、組織や社員の変革も必要だ。では、どういった組織作りを進めていけばいいのか。

 脇氏は「企業は『学校』ではなく『大人の組織』」でなければいけないと話す。これまでの会社組織は、学校のように定時に出社し、真面目な態度で仕事をすることが評価されてきた。今後、データドリブンな企業では、勤務態度などよりも、結果をいかに出すかに注力し、結果とその実施したプロセスが効果的だったかを評価することが求められる。そして当然、役割と責任を明確にしたジョブ型の組織が望ましい。

データドリブンな組織になるために。企業は「学校」ではなく「大人の組織」だ(出典:脇氏の講演資料)

 次に、管理部門に必ず必要な能力といえば、本講演のテーマであるデータを使いこなすことだ。といっても、データの集計や加工のスキルだけというわけではない。それらの処理は、場合によっては自動化するツールに任せ、管理部門ではどう使いこなすかのアイデアを出すことが重要だ。また、先ほどお話ししたが、データ検索技術もフルに活用すべきである。参考までに、現在の米国公認会計士試験は、会計・監査基準や税法が資料として自由に閲覧でき、そこから検索する能力を問う問題が出題されている。課題を短時間に解決するために、検索能力の高さが求められているのだ。

 管理部門はプロセス志向であることと、高い倫理観を持つことも必要だ。「テクノロジーが進化して、ブラックボックスが非常に多くなっている。悪意を持ってデータを操作すると、非常に危険なことも実行できてしまう。システムを動かすIT部門には高い倫理観が求められる」(脇氏)

 加えて、データガバナンスの確保には「正確性」「網羅性」「妥当性」の3つの要素が必要だと脇氏は言う。特に重要なのは網羅性だ。「正確性と妥当性は、RPAやAIなどのITツールを使うことで確保できる。一方、データの二重化や抜けを防ぎ、網羅性を確保することは大事なポイントになる」(脇氏)

 脇氏は最後に「データと一言で言っても、活用法はさまざまな切り口で検討することが必要となる。管理部門はビジネスの現場に適切なデータを提供することが重要なミッションになる。管理部門が企業の成長をけん引する主役になるという意識で取り組んでほしい」と語った。

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