交通分野のデータ連携はどこまで進んでいるか これからどうなるか編集部コラム

事業者間でデータがつながると、何ができるようになるでしょうか。つながる社会を目指したMaaS領域の事業者間での検討が進んでいます。

» 2023年05月03日 08時00分 公開
[荒 民雄ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 MaaS(Mobility as a Service)領域におけるデータ活用は周辺データ整備が進むにつれ高度化しています。

 現在も国土交通省「交通分野におけるデータ連携の高度化に向けた検討会」での議論を基に「MaaS関連データの連携に関するガイドライン」の見直しが続けられており、2023年3月に発行されたガイドラインのVer.3.0では、リアルタイムデータに基づくチケッティングやナビゲーションの仕組みが議論されています。

MaaS関連データの連携に関するガイドライン Ver.3.0の概要(出典:国土交通省)

 私たちの現在の行動様式においては、どこかに移動する場合、地図アプリや経路探索アプリを使って自分の現在位置から目的地までの経路を確認することが多いかと思います。経路探索については、現時点でも交通機関の遅延状況を加味したルート提示を受けられ、場所によっては現在の混雑状況や特別ダイヤの運行情報なども参照できます。

 しかしそれらのデータは自動で取得されるものばかりではなく、利用者からの善意の提供情報頼みのこともあります。利用者や運行事業者、監督当局などから提供されていない情報については把握できません。運行遅延などの情報もリアルタイムとは言い難い場合もあります。

 個人の移動だけでなく、例えば貨物や宅配便などの配送状況も、事業者によってはルート配送中の荷物がどこでどうなっているかは輸送担当者が配送センターに報告するまで情報が入らなかったり、複数の事業者間を移動する荷物の情報をすぐに把握できなかったりといった問題もあります。

※本稿は2023年3月28日配信のメールマガジンに掲載したコラムの転載です。登録はこちら


リーダー企業が業界を牽引して段階的なデータ基盤を整備

 この問題を、共通データ基盤やリアルタイム情報連携の仕組みを使って解消しようという取り組みの一つが「MaaS関連データの連携に関するガイドライン」です。交通インフラ事業者間のデータの連携はインバウンド消費への対応の他、脱炭素向けの取り組みにも役立つと目されているようです。

 では各社が参加できる共通基盤を作り、データ形式を標準化すれば済むかというと、そう話は簡単ではありません。DX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈でも語られてきた通り、企業間のデータはそう簡単にはつながりませんし、そもそも商流の中にデジタル化が進んでいない事業者が含まれることもあり得ます。また民間の取り組みとなれば、各社各様に顧客サービスのためのデータ基盤に一定の投資をしていますから、それらの障壁になるような取り組みは受け入れにくいものです。

 そこで、検討会の案では、まず個々の事業者がデータを持つ環境を整備して、事業者や業界単位で環境を整えた上で、それらを連携させる段階的な方法を模索する方向で調整を進める目論見のようです。

第8回 交通分野におけるデータ連携の高度化に向けた検討会の資料で議論されたデータ整備のイメージ(出典:国土交通省)

 各業界のリーダー企業が環境整備を推進する役割を担い、関係企業のデジタル化を支援して、まずはデータをつなげられる形に持っていく、というのが将来のMaaSサービス実現に向けた第一ステップとなります。RPAやAI-OCRは企業内の業務に潜むアナログな工程のデジタル化に寄与しましたが、業界によってはそれらのIT投資も難しい小規模事業者を多く抱えるところも残っています。業界のリーダー格に位置付けられる企業に、そうした企業をリードする役割も担ってもらうことで、業界全体のデジタル化やデータ連携の下地を作ろうということのようです。

 数年後にこれらの成果が見えてくれば、渋滞の緩和や配送コストの低減、エネルギーコストの無駄削減などの効果が見えてくるでしょう。何よりも、データ基盤が整備され、われわれも何らかの形でアクセスできるようになれば、今まで以上に多様なサービス開発も可能になるでしょう。そこに意外な企業のDXのチャンスがひそんでいるかもしれません。自動運転技術や都市OS、デジタルツイン関連の環境整備も進むでしょうから、私たちの生活も大きく変わるはずです。便利になる日が待ち遠しいですね。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ