Microsoft Buildが開催 ナデラ氏が新たなAIサービスを発表

Microsoftは同社の年次イベント「Microsoft Build」を開催した。本稿は基調講演でナデラ氏が発表した新サービスを紹介する。

» 2023年05月25日 08時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

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 Microsoftは2023年5月23〜25日(現地時間)にわたり、同社の開発者向け年次イベント「Microsoft Build」(以下、Build)をオンラインとオフラインのハイブリッド形式で開催した。イベント初日には同社でCEO(最高経営責任者)を務めるサティア・ナデラ氏が基調講演に登壇した。

講演するナデラ氏と会場の様子(出典:筆者が基調講演をキャプチャー)

MicrosoftのAI事業、講演で発表された最新情報とは

サティア・ナデラ氏

 ナデラ氏は「『ChatGPT』は私たちがこれまで見たなかで、最も急成長しているアプリの一つです。ChatGPTはコンピュータを大幅に進化させ、これは『自転車から蒸気エンジン』ほどの違いだといえます。今後、ソフトウェアを構築する方法が根本的に変化していきます」と話し、基調講演を切り出した。

 まずナデラ氏が基調講演の中で紹介したのは、共有プラグインプラットフォームだ。ユーザーはChatGPTや「Microsoft Bing」(以下、Bing)、「Microsoft Dynamics 365 Copilot」「Microsoft 365 Copilot」など、コンシューマー分野とビジネス分野の両方で動作するプラグインを単一のプラットフォームで構築できるようになる。

 基調講演では実際にBingにプラグインを追加し、新たな利用方法を紹介した。仮に希望の価格帯の家を検索する場合は、最新の情報を活用して地図や都市ガイドなどの必要な情報も収集する。契約書の作成についても、Microsoft 365 CopilotとThomson Reutersが提供するプラグインなどを利用して、法的に正しい契約書を作成できる。

 ナデラ氏によれば、MicrosoftはOpenAIがChatGPTに導入したのと同じオープンなプラグイン規格を採用しており、ChatGPTとMicrosoft 365 Copilotとの間で相互運用性を保証する。「OpenTable」や「Wolfram Alpha」などのプラグインに加えて、「Instacart」や「Kayak」「Klarna」「Redfin」「Zillow」なども利用できるようになる。

 また、Microsoft 365 CopilotのプラグインとしてChatGPTやBingにおけるプラグインに加え、「Microsoft Teams」のメッセージ拡張や「Microsoft PowerPlatform」のコネクターなども用意する。開発者は「Microsoft Teams Toolkit for Visual Studio Code」と「Visual Studio」を使って、Microsoft 365 Copilotの新しいプラグインを容易に構築できる。既にアーリーアクセスプログラムで50以上のプラグインが利用できる。

 BuildではMicrosoft Dynamics 365 CopilotやMicrosoft 365 Copilot、「Copilot for Power Platform」などに共通して使用している"Copilot"という言葉に加えて、"プラグイン"という言葉も多用された。Copilotは最新のAI(人工知能)テクノロジーと「GPT-4」などの大規模言語モデルを使って複雑な作業を行い、人を支援するアプリケーションと定義され、「GitHub Copilot」の初導入以降、多くの製品に採用されている。

 CopilotはAIを搭載したソフトウェアの新たなパラダイムであると同時に、新しい製品シナリオの想像力を広げ、ユーザー体験やアーキテクチャ、使用するサービス、安全とセキュリティの考え方など、ソフトウェアの構築法に大きな変化をもたらすとされる。

 ナデラ氏は「Copilot Stack」についても「自分のアプリケーションに独自のCopilotを構築できるようにしたいと考えており、MicrosoftはAIインフラから基礎モデル、AIオーケストレーションに至るまで、あなた向けのCopilotを用意し拡張性も提供します」と述べた。適切なプラグインを組み合わせることで、AIシステムの能力増強に加えて、他のソフトウェアやサービス、APIを通じた対話、リアルタイムな情報取得、新たなタイプの計算の実施などをユーザーに代わって実施する。Microsoftはプラグインを「Copilotとデジタル世界のつなぎ役」と定義しており、今後1000以上のプラグインが提供する予定だ。

 ナデラ氏は基調講演の中で「Azure AI Studio」も発表した。これにより「Azure OpenAI Service」に外部データソースを容易に統合できる。また「Semantic Kernel」などのオープンソースを活用し、開発者がプロンプトを簡単に構築できる「Azure Machine Learning」も発表した。

図1 Azure AI Studioを発表(出典:筆者が基調講演をキャプチャー)

 さらに、企業が安全なオンライン環境とコミュニティーを構築するために、新たなAzure AIサービスである「Azure AI Content Safety」を発表した。Azure AI Content SafetyはAzure OpenAI ServiceやAzure Machine Learningといった製品に統合される。

 「Azure AI Content Safetyはデプロイ時の安全性や監視を可能にし、継続的な安全性を維持できるように支援します。Azure AI Studioは全ての開発者が次世代のAIアプリケーションを安全第一で構築できるようにします」(ナデラ氏)

 統一されたアナリティクスプラットフォームとして発表されたのが「Microsoft Fabric」だ。ナデラ氏は同製品を「私たちが何年もかけて開発に取り組んできたものであり、データ製品としてはSQL Serverリリース以来の最大の発表になる」と期待を寄せた。Microsoft Fabricはアナリティクスのための統一プラットフォームであり、「OneLake」と呼ばれる単一のデータリポジトリに接続される。

 データエンジニアリングやデータ統合、データウェアハウス、データサイエンス、リアルタイム分析、応用オブザーバビリティ、ビジネスインテリジェンスを統合したデータ分析プラットフォームで、開発者は生成AIの力を活用してデータから知見や潜在能力を最大限引き出せるようになる。

図2 Microsoft Fabricを発表(出典:筆者が基調講演をキャプチャー)

 また、ビジネスユーザーは「Copilot in Microsoft Fabric」を利用することで、自然言葉を使用してデータフローやデータパイプラインの作成、コードや関数全体の生成、機械学習モデルの構築、結果の可視化などを行えるようになる。

 ナデラ氏は基調講演で詳しく触れなかったが、Microsoftは「Windows Copilot for Windows 11」を2023年6月にプレビュー版として提供開始すると発表している。また、2023年2月にはAIを搭載した新たなBingをWindows11のタスクバーに表示する機能を発表しており、この統合機能をベースに「Bing Chat」とファーストパーティおよびサードパーティーのプラグインを併用することで、ユーザーは複数のアプリケーションの起動などの作業にエネルギーを費やすことなく、アイデアの実現や複雑なプロジェクトなどに集中できるようになる。

 「『Windows』はAIによる支援を一元化した初のPCプラットフォームになります」(ナデラ氏)

 また、既にプレビュー版が提供されている「Microsoft Dev Box」の新機能も発表された。内容としては「Configuration-as-Code」によるカスタマイズや「Azure Marketplace」の新たなスターター開発者イメージの提供などが予定されている。さらに開発者は専用の開発者ポータルサイトである「Azure Deployment Environments」からカスタム環境を管理できるようになる。Microsoft Dev Boxは2023年7月に一般提供が開始される予定だ。

 ナデラ氏は最後に「Microsoftは次世代のアプリケーションを構築するのに役立つものをこれまで以上に速いペースで開発しています。人類の歴史の大半では、経済成長はほとんどなく、技術革新も多くはありません。しかし約150年前に産業革命が起こり、それが経済成長につながり、70年前の情報技術の誕生で成長の傾斜が急になりました。AIの時代は経済成長の傾斜がさらに急になります。しかし、私たちが目指しているのは経済成長そのものではなく、教育や生活水準の繁栄や寿命が延びることです。そのためにイノベーションが必要であり、テクノロジーの存在が重要になります。世界は公平な成長を遂げ、地球が持つ有限の資源を考慮し、再生可能なエネルギーへと移行しなくてはなりません。今後も地球上の80億人の人々に対して、テクノロジーが大きな影響を与えます」と語り、講演を締めくくった。

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