「心のフレームワーク」を外そう なぜIT部門からユニークなアイデアが出づらいのか「不真面目」DXのすすめ

筆者は「IT部門にはユニークなアイデアを出すのが不得意な人が多い」と考えています。さらに、その理由は一般的にはIT部門の人々の「強み」とされるところにあるとか。どういうことなのか、見てみましょう。

» 2023年05月26日 09時00分 公開
[甲元宏明株式会社アイ・ティ・アール]

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この連載について

 この連載では、ITRの甲元宏明氏(プリンシパル・アナリスト)が企業経営者やITリーダー、IT部門の皆さんに向けて「不真面目」DXをお勧めします。

 「不真面目なんてけしからん」と、「戻る」ボタンを押さないでください。

 これまでの思考を疑い、必要であればひっくり返したり、これまでの実績や定説よりも時には直感を信じて新しいテクノロジーを導入したり――。独自性のある新しいサービスやイノベーションを生み出してきたのは、日本社会では推奨されてこなかったこうした「不真面目さ」ではないでしょうか。

 変革(トランスフォーメーション)に日々真面目に取り組む皆さんも、このコラムを読む時間は「不真面目」にDXをとらえなおしてみませんか。今よりさらに柔軟な思考にトランスフォーメーションするための一つの助けになるかもしれません。

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 DX(デジタルトランスフォーメーション)のポイントはユニークなビジネスアイデアを創り出し、それをいち早く世に出すことにあります。しかしユニークなアイデアは誰でも簡単にひねり出せるものではありません。

ITフレームワークの功罪

 筆者はIT部門の方々はもちろんのこと、ビジネス部門の方々ともコミュニケーションする機会が多いのですが、ユニークなアイデアを出すのが不得意な人はビジネス部門よりもIT部門に多いと感じています。今回はその理由をひもとき、IT部門の人々がDXにより貢献するための秘訣(ひけつ)を解説します。

 ITでは「フレームワーク」を多用します。プログラミング言語における共通処理を容易にするSpring(Java)、Vue.js(JavaScript)などのソフトウェアフレームワーク、プロジェクト管理を容易にするためPMBOK、CCPM(Critical Chain Project Management)などのフレームワーク、ソフトウェア開発プロセスをパターン化するためのScrum、SAFe(Scaled Agile Framework)などが有名です。

 これらのフレームワークは非属人化や効率向上を主な目的の一つとしています。組織で多くの人間が関わる業務では当然のやり方といえます。一般的な企業では業務の標準化や作業マニュアルの整備などで非属人化や効率向上を図っていますが、まだまだ属人的かつ低効率の作業は多いと思います。

 しかし、ITの世界は前述の通り多くのフレームワークが存在し、それらの活用の歴史も長いため、フレームワーク利用は当たり前になっています。

 ただし、「非属人化」や「効率向上」は、ユニークなアイデアを創り出すことが重要なDXとは相性が悪いといわざるを得ません。みんなが同じやり方でアイデアを出してもユニークなものは出てきませんし、高効率な手法でユニークなアイデアが出るはずがありません。つまり、ITの世界ではフレームワークは便利ではあるものの、一人一人の個性や長所を失わせるツールにもなっているのです。

「ITフレームワーク」よりも「心のフレームワーク」のほうが問題

 このような背景から、国内企業のIT部門ではIT系各種フレームワークを重視するが故に、フレームワークの中で部門方針に沿って決まりきった作業を粛々と実行する人たちで溢(あふ)れています。しかし、ITフレームワークに罪はありません。世の中にはITフレームワークを駆使して、ユニークなビジネスソフトウェアを開発している人々も数多く存在します。

 問題は、国内企業IT部門の人々の多くが「心のフレームワーク」を持っていて、個々人の自由な発想や行動は部門業務において避けるべきものと考えていることにあります。国内においてクラウドが紹介され始めた当初、多くのIT部門の人々はクラウドを体験することもなしに「従来と異なるIT環境である」という理由で拒否反応を示しました。そのため、国内企業のクラウド活用は世界に大きく後れを取りました。自身のマインドセット(思考回路)の制約となる「心のフレームワーク」を解き放ち、自身の直感や感性に基づいて自由な発想や行動ができていれば、どこよりも早くクラウドの真の価値を評価することができたはずです。

「心のフレームワーク」からの解放を進めるためのポイント

 IT部門に限らず、多くのビジネスパーソンは、自身を制約する「心のフレームワーク」に長年馴染(なじ)んできました。このフレームワークから解放されるのは容易ではありません。幾つかの試みをお薦めいたします。

 まず、デジタルデトックスを試してみましょう。何かアイデアを出すときにインターネット検索したり、AI(人工知能)に質問してみたりする人は多いと思います。しかし、それらの行為はアイデア出しにおける「非属人化」や「効率向上」に他なりません。インターネットやスマートフォンから隔離された環境で、自身の直感や感性に基づいてじっくり自由に発想する時間を持ってみましょう。DXチームで PCやスマートフォン、インターネットのない環境でデジタル隔離合宿を行うのも良いでしょう。

 ワークライフバランスも重要です。一部のOSやビジネスチャットには非勤務時間に通知を停止する機能があります。このような機能を使って、常に仕事のことを考えるという癖をなくし、定期的に心をリフレッシュしましょう。

 「心のフレームワーク」から解放されて、いつもポジティブで革新的な行動を起こす人が身近にいたら、その人をひそかに自分のメンター(助言者)としましょう。前向きな人を心の師匠とすることは非常に重要です。

 その他にも「心のフレームワーク」から解放される方法はいろいろあると思います。読者の皆さまもフレッシュな気持ちでどのような方法があるのか考えてみてください。

筆者紹介:甲元 宏明(アイ・ティ・アール プリンシパル・アナリスト)

三菱マテリアルでモデリング/アジャイル開発によるサプライチェーン改革やCRM・eコマースなどのシステム開発、ネットワーク再構築、グループ全体のIT戦略立案を主導。欧州企業との合弁事業ではグローバルIT責任者として欧州や北米、アジアのITを統括し、IT戦略立案・ERP展開を実施。2007年より現職。クラウド・コンピューティング、ネットワーク、ITアーキテクチャ、アジャイル開発/DevOps、開発言語/フレームワーク、OSSなどを担当し、ソリューション選定、再構築、導入などのプロジェクトを手掛ける。ユーザー企業のITアーキテクチャ設計や、ITベンダーの事業戦略などのコンサルティングの実績も豊富。

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