デザイン思考の寄稿を担当している筆者が実際に体験して感じたこと編集部コラム

「デザイン思考ってビジネスにも有効なの?」このような疑問を持っている読者の方も多いだろう。実際に筆者もそうだった。そこで、本稿は筆者が実際にワークショップに参加して感じたことを伝える。

» 2023年04月01日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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 筆者は現在、『ITmedia エンタープライズ』にて「脱『丸投げDX』のための『デザイン思考』の使い方」という連載の編集を務めている。同連載はネットアップでシニアソリューションアーキテクトを務めている小原 誠氏が、多忙にもかかわらず時間を見つけて寄稿してくれている。

小原 誠氏

 記事の中では「デザイン思考がいかにビジネスに役立つか」を伝えており、実際にワークショップにも参加した筆者も「ビジネスに効果的だ」と感じている。一方、正直な話をすると、ワークショップに参加する前や寄稿が始める前は「デザイン思考はビジネスにそんなに関係ないのではないか」と感じていた。おそらく本稿を読んでいる読者の大半も同じように感じているのではないだろうか。

 そんな「本当にデザイン思考が意味あるのか」という疑問を少しでも解消できるように、本稿では筆者がデザイン思考のワークショップに参加した際に感じたことを紹介する。デザイン思考そのものの解説は本稿では割愛するので、興味がある方は以下のリンクより確認してほしい。

デザイン思考の寄稿を担当している筆者が実際にワークショップに参加した感想

 筆者が参加したワークショップでは「どのようにクラウドコストを最適化するか」(FinOps)について、脱「丸投げDX」のための「デザイン思考」の使い方の第3回で紹介した「Rose Thorn Bud」「Abstraction Laddering」「Round Robin」「Importance/Difficulty Matrix」のうち、Rose Thorn BudとRound Robinを行った。

Rose Thorn Budでまずは現状を把握しよう

 Rose Thorn Budでは、限られた時間の中でそれぞれ色が異なる付箋紙に現状の良い点、悪い点、起こり得る事象などを書き出していく。筆者の場合はメディアという立場で参加しているため、自社で起きている事象というよりもこれまで聞いてきた事象を抽象化して書き出していった。5分といった時間制限の中で書き出すことはなかなか難しく、特に良い点を出すことが他のメンバーを見ていても苦戦していた。一方、青い付箋紙(悪い点)は案外簡単に書き出せていた。

制限時間の中で必死に意見を書き出す(筆者撮影)

 書き出しが終了すると、ホワイトボードにそれぞれの付箋紙を貼っていく。このとき、自分の書いたことを簡単に解説しながら貼っていくわけだが、ここがかなり面白い。デザイン思考の議題はFinOpsで同じなのだが、参加者の立場がそれぞれ違うことで意見にも当然違いが出る。筆者のグループでは、ある参加者はエンジニアの立場で技術的な意見を持ち、ある参加者は意思決定者としてビジネス的観点で意見を持っていた。実際にそこでの会話で「ビジネス側とエンジニア側ではこういう違いがあり、これを解消するには双方がこうする必要がありますね」といったような会話が行われていた。

 ワークショップのわき役ではあるが、写真にもある机の真ん中の軽食があることで、ワークショップ前からワークショップ中まで、甘いお菓子としょっぱいお菓子を交互にメンバーとつまむことで何となく緊張感がほぐれ、気軽な会話ができた。直接的に関係ないことでも、ワークショップそのものを有効なものにするために軽食やカジュアルな服装などの要素は重要になるようだ。

新たな視点を得られる意見発表(筆者撮影)

自分では思い付かない意見を知れるRound Robin

 Round Robinはグループで役割を交代しながらアイデアを発想する手法だ。紙に「取組目標」と「実現方法」を書いたら、時計回りに回して、隣のメンバーが「実現方法がうまくいかない理由」を書く。その後もう一度回して、「最終的な実現方法」を他のメンバーが書く。

 Rose Thorn Budに引き続き、ここでもやはり自分ではなかなか思い浮かばない意見を知れる。面白いのは自分のアイデアに対して違った立場からの課題感や解決策が出てくることだ。「これなかなか良いアイデアじゃない?」と思って隣に回すと違う観点から課題を提示され、それを踏まえて構築サイドのメンバーが結論を出す。仮にグループに全ての立場のメンバーがいればそれだけでかなり効果的な案を出せるのではないだろうか。

 また、各グループの特に良いアイデアを他のグループと共有することで、さらにアイデアの幅を広げられ、正に「凝り固まった頭を柔らかくする手法」だといえる。

グループの代表者が良いアイデアを発表(筆者撮影)

良い議論にするには"環境構築"が欠かせない

 デザイン思考のメリットばかりを述べているが、このメリットを感じた背景には「話しやすい雰囲気」「メンバーの積極性」があったからこそだ。関係ないようだが軽食やカジュアルな服装といった要素によって参加者がリラックスして参加できたからこそ、多種多様な意見が出たと筆者は感じた。これが仮に「ビジネスモード」だったら「ミスしたらやばい」といった雰囲気になり、意見の柔軟性は無くなっていくと考えられる。

 つまり、デザイン思考においては緩すぎず、固すぎない雰囲気作りが非常に重要な要素だ。また、グループを意図的に違った役職や職種から構成することで、組織的なつながりや意見の相違を共有でき、双方の理解を深められる。

 参加者からは「違った企業から意見交換できて勉強になった」「自分の組織内でもなかなか関わりがない職種の人の意見が知れた」「自分たちでは思い付かないようなアイデアがあり、今後に生かせると思った」などの意見が出た。

 運営のノウハウなどのハードルはあれど、デザイン思考はビジネスの現場でも効果的だ。「毎回の会議がビジネスに生かされていない」と感じる場合は、デザイン思考で新たな気付きを得られるかもしれない。

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