「意味のない議論」が生み出すのはDXではなく「やった感」だけ 限られた時間で効果的に結論を導き出す4つの手法脱「丸投げDX」のための「デザイン思考」の使い方(3)(1/2 ページ)

DX推進のために議論をしても、積極的に意見が出なかったり時間切れになったりで、”なし崩し的”に物事が決まる場面も多いようだ。デザイン思考にはこのような漫然とした議論を打ち破り、限られた時間内で一体感を持って結論を導き出すさまざまな手法がある。

» 2023年03月27日 08時00分 公開
[小原 誠ITmedia]

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 連載第1回は「変革を『自分ごと』として考えて小さな成功体験を積み重ね、『より大きな変革の流れ』を作る場面」で「デザイン思考」が有用な対話手法になると紹介し、連載第2回は基礎知識として、デザイン思考によって議論を進めるときの基本的な流れを解説しました。

 第3回となる今回は、意味のある議論を実現する4つの手法を紹介します。これらの手法はすぐに業務に役立てられるので、是非活用してください。

この連載について

 昨今、DXの文脈でも耳にすることが増えてきた「デザイン思考」という考え方。一方で、「新たな事業アイデアの発想やユーザー体験(UX)を設計する人たちが使う特殊な考え方」として捉えられがちです。本連載は、筆者が元コンサルタントとして得た経験をふまえながら、デザイン思考(Design Thinking)を身近な思考法として紹介します。

筆者紹介:小原 誠(ネットアップ合同会社 シニアソリューションアーキテクト)

国内メーカーにおけるストレージ要素技術の研究開発に始まり、外資系コンサルティングファームにおけるITインフラ戦略立案からトランスフォーメーション(要件定義、設計構築、運用改善、PMO等)まで、計20年以上従事。ネットアップではソリューションアーキテクトとして、特にCloudOps、FinOps領域を中心にソリューション開発やマーケティング活動、導入支援等に従事。FinOps認定プラクティショナー(FOCP)。国立大学法人山口大学 客員准教授。



すぐにでも使える4つの議論手法 意味のない議論をやめよう

 「問題を定義する」「アイデアを発想する」ために議論しても、ただ漫然と議論するだけでは効果的な意見は出ず、議論が迷走してグダクダのまま時間切れとなります。結果、強引に結論を出して幕引きとなるケースが多くあります。

 デザイン思考には場面に応じて使い分ける多種多様な議論の手法があり、同じ手法でもさまざまな派生バージョンが存在します。今回はそれらから、日々の業務の中で比較的容易に役立てられる 4つの手法を紹介します。

1.「Rose Thorn Bud」 参加者の思いや考えを共有する

 1つ目に紹介する「Rose, Thorn, Bud」(バラ、とげ、つぼみ)は、参加者の現状に対する思いや考えを共有する手法です。「Rose」は「ちゃんとできている」「これは良い」などのポジティブなこと、「Thorn」は「これはイマイチ」「これは問題」などのネガティブなこと、「Bud」は「こんなことが起きている」「こんな可能性がある」などの洞察や可能性を表しています。ステップ1は個人作業で、テーマに対して制限時間の中で「Rose、Thorn、Bud」をどんどん書き出し、書き出した内容をステップ2でグループに共有します。

 ステップ1で意見を書き出すとき、視覚的な分かりやすさやその後の作業を考えて75mm×75mm程度のカラフルな付箋紙を使うと効率的です。Roseはピンク、Thornはブルー、Budはグリーンといったように、異なる3色の付箋紙を用意し1枚の付箋紙に1つの意見を一行程度で書き出します(図1参照)。

 意見の書き出しは「質より量」を重視し、5〜10分の制限時間の中で 一気に書き出します。時間が長いとだらけやすくなるのに加え、時間を区切ったほうが素の思いが出やすくなります。初めての参加者は「何を書くべきか」「素晴らしい意見を出さなければいけないのではないか」と戸惑うこともあるでしょう。そういう場合はファシリテーターが書き出しの前に、そのテーマに沿った意見の例を幾つか挙げるのが有効的です。

 Rose、Thorn、Budは均等に書き出す必要はなく、どんどん書くことが大切です。また、Thornを書き出すときにその解決策を考える必要はありません。これは別のアクティビティーで考えます。

 ステップ2では意見を共有します。この時、グループの全員が壁の前に集まり、順番に付箋紙の意見を読み上げながら壁に貼ります。このとき聞いている人が理解の確認のため質問をするのはOKですが、そこで議論を始めないようにしましょう。後の人が意見を共有しにくい雰囲気になったり、時間が足りなくなったりすることを避けるためです。

 付箋紙を壁に貼るとき、似た意見は近づけて貼ることで意見の偏りを把握しやすくなります。共有終了後は全体を俯瞰し、付箋紙をクラスタ化するなどして洞察しましょう。同じような事象でも人によって受け止め方が違うので、ファシリテーターはその違いをうまく引き出し、必要に応じて「なぜなぜ」と質問して新たな洞察を引き出しましょう。

 このアクティビティーには、Rose、Thorn、Budの3つによって思いや考えを言語化しやすく、個人作業とグループ作業という2ステップ構成で均等に声を集めて共有できるという特徴があります。3色の付箋紙とペンだけあれば取り掛かれ、1グループ5人程度であれば所要時間は30分程です。

図1 三色の付箋紙とペン(筆者撮影)

2.「Abstraction Laddering」 問題定義を見直す

 2つ目の手法は「Abstraction Laddering」(抽象化のはしご)です。これは問題定義の中で役立つ手法で、焦点を広げたり狭めたりすることで「何が問題なのか」を見直し、問題をより明快に定義します。

 Abstraction Ladderingでは、はしごの真ん中に最初の問題定義を書きます(図2参照)。問題定義は第2回で紹介した、短くシンプルな「問い」(HMW:How Might Weと呼ばれる)として書きましょう。

 そして、はしごの上に向かってその問題を「どうやって」(How)解決するのかを考え、それを踏まえて「より幅の狭い問題定義」を考えます。一方、はしごの下に向かってその問題を「なぜ」(Why)解決するかを考え、それを踏まえて「より幅の広い問題定義」を考えます。

 例えば、はしごの真ん中に「どうすればおいしい料理を作れるか」という問題定義を置いたとします。その方法(How)が仮に「調理方法を学ぶ」であるなら、一段上の問題定義は「どうすれば調理方法を学べるか」という問題定義になります。

 一方、その理由(Why)が「おいしい料理は子供を笑顔にする」(おいしい料理で子供たちを笑顔にしたい)であるなら、一段下の問題定義は「どうすれば子供たちを笑顔にできるか」になります。

 これを上下方向に向かって繰り返していきます。何が問題なのかを正しく捉える前にいきなり解決策の議論になってしまう場合や、問題定義が広すぎて議論が収束しないような場合には、Abstraction Ladderingで抽象度を上げ下げして問題定義を見直すことが効果的です。

図2 Abstraction Ladderingの例(筆者作成)
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