地方と中小企業を救う「尖った」施策とは? ポストコロナ時代に再始動する地方創生Salesforce LIVE Japanレポート1(1/2 ページ)

地方経済はコロナ禍や原料高騰によって大きなダメージを受け続けている。こうした中、「地方と中小企業を救うのは『尖った』施策だ」と語る2人の識者の見解を紹介する。

» 2022年12月29日 10時00分 公開
[指田昌夫ITmedia]

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、厳しい状況が続く地方自治体と中小企業。今後、両者が生き残っていくためには従来よりもさらに強い連携が欠かせない。ポストコロナ時代の地方創生の在り方について、東国原 英夫氏(元宮崎県知事、元衆議院議員)と毛塚幹人氏(元つくば市副市長、都市経営アドバイザー)が語る。

「普通のV字回復では借金を返済しきれない」の悲鳴

 東国原氏と毛塚幹人氏は「Salesforce LIVE Japan」(2022年9月開催)の基調講演で、「中小企業×自治体×テクノロジー 真の地方創生の在り方を考える」をテーマに話した。

 冒頭で、地方の経済と中小企業の現況が次のように説明された。

 日本では企業全体の9割を中小企業が占めている。2年以上続くコロナ禍やロシア・ウクライナ戦争の影響などによって、多くの中小企業が原油をはじめとする原材料の高騰や人材不足など厳しい環境にさらされている。

 経済産業省が発行する「2022年版中小企業白書」(注1)によれば、「コロナ禍の影響を受け続けている」と回答した企業は7割以上に及ぶ。特に生活関連サービスや娯楽、宿泊、飲食サービスの落ち込みは深刻だ。

 一方、日本銀行が2022年7月に発表した「地域経済報告」(さくらレポート)(注2)には、地域によっては景気が「全体として持ち直している」「緩やかに持ち直している」との記述もある。

 この説明を受けて東国原氏は「コロナ禍で中小企業は負債を抱えている。返済時期が迫っていることから、『普通のV字回復では返済しきれない』という声もある。政府や行政機関は民間と連携して、経済がコロナ禍前以上の回復に向かうよう努力しなければならない」と話した。

 毛塚氏も「コロナ禍だけでなく物価の高騰など厳しい状況は今後も続くだろう。このピンチを変革のチャンスとできるかどうかがポイントだ」と語る。地方の中小企業を取り巻く環境は今後も厳しいことを前提にすべきというのが両氏に共通する認識のようだ。

地方創生に必要なのは「尖(とが)った発想と実行力」

 次に両氏は自身がこれまで取り組んだ地方創生の施策を振り返った。

 宮崎県知事時代の東国原氏は、地域創生の一環として農林水産業の6次産業化(注3)を推進した。宮崎県の特産品であるマンゴーを全国区で通用するブランドにするために、ビッグデータを駆使したマーケティング施策を実施した。

 この施策は成功し、宮崎産マンゴーは都市部で高値が付くようになった。しかし商品価格が高騰したことで、地元の宮崎で販売する農家がなくなり、宮崎県からマンゴーが消えるという現象が起きた。東国原氏は「マンゴーは収穫までに3〜5年かかる果物だ。需給バランスが崩れて地元で手に入らなくなったときは、通りすがりの県民から叱られることもあった」と当時を振り返る。

 東国原氏は宮崎県の重要産業の一つである観光業についても、新規性のある企画を推進した。1932年竣工の宮崎県庁本館は、現役の県庁の本庁舎として日本では4番目に古く、九州では最古だ。これを観光資源として活用しようというのが東国原氏のアイデアだったが、「『古いゴシック建築だというだけでは観光客なんて来ない』と、職員や議会は大反対だった」(東国原氏)

 しかしフタを開けてみると大盛況で、物販も好調だったという。「県北部から県庁所在地の南部に観光客を誘導するルートが生まれた。『発想を変えれば、まだまだやれることはある』という気付きになった」(東国原氏)

 毛塚氏は「自治体でありがちなのが、外部からのアドバイスに頼って総花的な施策に落ち着いてしまうことだ。宮崎県には他にも資源がある中で、マンゴーや県庁本館といった“尖った”コンテンツを使ったことが成果につながった」と分析した。

「行政は住民のことをもっと深く知るべき」という反省

 毛塚氏自身、つくば市の副市長を務めていたときは常に“尖った”施策を意識していたという。

 茨城県つくば市は人口25万人のうち約2万人が研究者という特殊な人口構成の自治体だ。しかし、「『石を投げれば博士に当たる』と言われるほどだが、実は住民と研究者との接点はほぼなかった」と毛塚氏は語る。「研究の街という存在をきちんとアップデートできなければ、地域の産業や雇用に研究が生かされないと感じた」(毛塚氏)

 そこで、つくば市は研究者と共に政策をつくるワークショップを定期的に開催したり、研究成果を事業につなげようと起業家の育成に力を入れたりした。しかし、2万人いる研究者のうち、ワークショップに参加した人は20人に満たなかった。「寂しいスタートだったが、これは市が研究者を大事にしてこなかったことの表れだと感じた」と、毛塚氏は反省を込めて語る。

 「筑波大学をはじめとする研究機関とつくば市は連携していたが、大枠の取り組みにとどまっていた。個々の研究者がどのような人で、個々の研究にどのような価値があるかを行政であるわれわれは把握していなかった。そのことに気付いてから、研究室を回る地道な取り組みを実施した」

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